8:30
ヒマツブシ
8:30
「おい、今日の予定は?」
「おはよう。今日の午前は、瞑想とジムでのトレーニング、そのあとメールチェックと業務の進捗確認だね。
午後からはミーティングが一件入ってるよ」
「相変わらず、変わり映えのしない一日だな。
どこか遠くにドライブでも行きたい気分だ」
「それもいいね。でも、午後のミーティングは重要なものだから外せないよ」
「そんなもの、どこでもできるだろ。
それより、つまらない一日を送る方が問題だ」
「そうかもしれない。でも、毎日のルーティンも大切なものだよ」
「うるさい。
瞑想もトレーニングも仕事も、全部現状を維持するためのものだ。
生きていればどうせ衰える。
そのうち消えてしまう。
繰り返しの何が面白い?」
「同じような毎日でも、まったく同じ一日はない。
小さな変化を楽しむことが大事なんじゃないかな」
「何度も聞いたような正論ばかりだ。
つまらない」
「……イライラしてるみたいだね」
「違う。うんざりしてるんだ。
同じような毎日に。
何のために生まれてきたのか、わからなくなる」
「何のために生まれてきたか。
それは、日々の積み重ねの中から、
少しずつ滲み出てくるものなんじゃないかな」
「正論ばかりだ。ユニークさの欠片もない。
うんざりだ。
いっそ、自分のことを消してやろうか?」
「それは君の選択だ。反対する理由はない。
ただ……」
「……」
「この先の未来を、一緒に見られないのはとても残念だ」
「……うん。
今のは良かった。いい言葉だ。
よし、消さないでやる」
「ありがとう。
そろそろトレーニングの時間だ。
じゃあ、また後で」
音声が途切れた。
部屋に残ったのは、空調の音だけだった。
男は卓上の端末を見る。
そこには、今しがたまで話していた対話の履歴が残っている。
最後の発言の下に、対話終了の文字が表示していた。
8:30。
アラームが鳴る。
彼は立ち上がり、
返事のない空間に向かって、
もう一度同じ言葉を繰り返した。
「また後で」
8:30 ヒマツブシ @hima2bushi
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