お笑い担当の人気アイドルがファンタジーの世界に転生しました

くもとまご。

第1話 オレの世界は


『神ちゃんバーンして!』そう書かれたオレのうちわを見つけて、撃ち抜く。ファンサを受けたフリルの付いたワンピースを着た女性は思考が現実に追いついていないのか、音もなく涙を流す。喜んでくれたことに安堵しながら、歌い続けた。浴びているだけで、身体中熱くなるようなライト、メンバー七人分の七色に光るペンライトが作る幻想的な光景は、アイドルの特権のようなものだった。

歌唱が終了し、舞台がぱっと明るくなる。フリートークの時間だ。


「神ちゃん、激辛料理でも食べてきたん?」

ブルー担当の雪城がいきなり振ってきた。

「なんで?食べるわけ無いやん、ライブ中に」

「頭からバケツの水かぶったみたいに汗でてんぞ」

昔から汗は人よりかく体質だ。そんなオレを軽くいじるのはライブの恒例行事だった。

会場からどっと笑いが起きる。「神ちゃんらしー」「かわいい!」などの声が飛び交う。

良かった。笑ってくれた。その事実に、胸の奥が一気に軽くなって、高揚した。


(やっぱりオレは誰かが笑ってくれるのが一番嬉しいんや)


そう思った瞬間、舞台が暗転する。このあとはオレのパートから始まるから、スポットライトが当たるはず、光の眩しさに対処しようと、目を閉じた。その時、足元の感覚が消えて、身体に妙な浮遊感を覚える。


「な、ちょ、フライングなんて聞いてへんぞ」

 

そんなわけない。フライングに必要な器具を身体につけられたらいくらなんでも気づく。じゃあどういうことだ。


「神ちゃんどうしーー」


雪城の焦った声が鼓膜の奥に焼き付いたのを最後に、オレの意識は途絶えた。

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お笑い担当の人気アイドルがファンタジーの世界に転生しました くもとまご。 @kumomago

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