ごめんね

話し終えて一息ついたさゆりが、ふと目を丸くした。


「……あっ、トイレ関係なかった。今のナシ! 別の話にするね」


どうやら『トイレに行けなくなるやつ』という冗談を真に受けていたらしい。


「それよりさ、今のって……実話?」

視聴者の疑問を代弁するように、由香が真顔で尋ねた。


「うん、そうだよ?」

さゆりは首をかしげ、不思議そうに見返す。


「え? 手足あるよね? あの状況からどうやって逃げたの? もしかして……幽霊になるの二回目とか?」


視聴者も気になっていた疑問を、そのまま口にする由香。


「あー、手足なくなってたから、簡単に抜けたんだよね。

それに、あの怪異って夜から明け方までしか出ないみたいでさ。朝になったら普通に出られたよ。

手足なくても飛べるし、寝たら治ったし……幽霊でよかったよ!」

さゆりはいつもの調子で、あっけらかんと笑った。

由香も視聴者も、一瞬、言葉を失う。


その空気を察したのか、さゆりが視線をきょろきょろと泳がせ、少しの間をおいて言った。


「えっと……ちょっと盛ったかも。ごめんね?」


『謝れてえらい』

『盛ったってことは刻まれたのはマジ?』


コメント欄がざわつく。


「まあ、もっとやばいのあるし、全然平気!」

さゆりは軽く笑って、カメラに向き直った。


「それよりさ、トイレに行けなくなるやつ――いくよっ!」


「よし! やっちゃって!」

由香は勢いで応じた。


「おー!」

さゆりは拳を突き上げ、そのまま次の怪談に突入した。

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