「イジメ」

沢木キョウ

第1話「イジメ」

 ああ、キメェ。マジでキメェ。死ねや。




 太陽キモすぎ。カーテン閉めてんのになんで眩しいんだよ。クソ。


 いい夢見てた気がすんのに無理やり起こしやがって。はぁーダル。




 体起こすのめんどくせぇー、筋肉使うのもダルすぎ。もう最悪。朝から筋肉使わせるとか正気ですか? 何様ですか? 救ってもらっていいですか?


 誰も助けてくれないってことは、もうこれ「イジメ」ってことで、おけ? そういう解釈アーユーオーケー?




「アオイーー、起きなさーい! もう朝ごはんできてるわよー!」




 は? ウザ。今起きようと思ってたのに。


 あーあ、やる気削がれた。返事すんのもダリ―。このまま寝てたいけど、どうせ後からめんどくさくなるのは目に見えてますよん♪


 しゃーないから起きてあげますよっと。カーテンは……まあ開けますか。めんどくさいけど。




 うわー、立つの疲れる―、歩くの疲れる――! ドア開けんのもクソダリ―――!!


 とりあえず死ねや。


 てかそうじゃん。階段降りなきゃいけないじゃーん。


 マジだれ?? この家の設計考えたアホは?? 寝ながら飯食わせるくらいの構造考えろや。




 足おっも。階段長すぎ。これ降りるだけで、ウチの足、筋肉ゴリクソダルマになっちまうだろーが。なんでこんなに筋トレさせる? ナニコレ、登山の一種ですか? いや、降りるから下山か?


 これ強要してくる家族って、もしかしてウチのこと「イジメ」たいの? 絶対そうだよね? 間違いない。うん。






 ***






 やっと降りきったー!! じゃあ今日の分のエネルギー使い果たしたから寝るわー。今日も一日、おつかれさっしたー!


 え、寝るためにまた階段上らなきゃいけないじゃーん! 完っ全にはめられた。犯人出てこいやマジで。ぶっつぶす。




「おはよう! ほらさっさと朝ごはん食べなさい! 遅刻するわよ!」




 うわお、びっくりさせんなや。心臓止まるかと思ったー。ていうか半分くらい止まったんですけどー。慰謝料プリーズ。




 んー? ちょっと待てよー……。えーっと……つまりあなたは、ウチがそんなことも理解していないバカだって言いたいのかな? 今の、わざわざ伝える必要ないもんねぇ? それをわかっててねぇ、ここまで来たんだからねぇ、いやはや……おかしいですねぇー。




 怒鳴るのもダリーし、さっさと食って学校、いっちまいますか!




 朝は……食パンか、いちごジャムぶっかけて食おっと。


 外めっちゃ晴れてるなー、今からでも暴風警報出てくれよ。いちごジャム×食パンの日は台風直撃するのが通説だろ!!!!! 知らんけど!!!




 食パン持つの疲れたー。


 なにこの手の形。変じゃん。明らかに。


 スマホの持ちすぎで手の形が変形するってきいたことあるけど、食パン持つのも体に毒じゃん、絶対。


 手をつけなくても勝手に口の中に運ぶ機械つくってくれ、世界。




 てか噛むのも疲れたー。


 ワタクシ……今を生きる現代人ですわよ? 顎の力なんてなくても生きていける世の中なんですわよ? そこらへん、お見知りおきくださいましー?




「あんたー? いつまで食べてるのー? 大丈夫? 間に合う? 送ってあげようか?」




 まーたーきーたーよー……。というか我が母上よ、今の短いセリフの中で何回『?』使うねん。『しゃくり』のプロかよ。カラオケにでも行っとけ。


 ウチ、今めっちゃ疲れてるんだからさー! 首、振らせないでくださる―?


 あらら、お嬢様口調が抜けていませんでしたわね。オホホホホホホ!






 ***






 くぁーー! やっと食い終わったー! 満足満足! んじゃ……おやすみー……って違うだろー!! このハゲー!!


 あれ……ウチの家族、だれもハゲてないのに、なんか知らんけど、ハゲー!って……なんだこれ。




 じゃあ、これからするべきことをまとめてみますか! えーっとー……


 その一、椅子を立つ。は?ダル。


 その二、歩く。は?ダル。


 その三、洗面台へ。は?ダル。


 その四、あ……ああああああああああああああああ!


 考えんのもめんどくさくなってきた、とーにーかーくーダルルルルルル(巻き舌)!!




 はい! 切り替えろ! ウチはやればできる子、YDK! 他とはちげぇんだ! まずは顔洗う!




 ……えー、なにこの行為。なんで顔面に水ぶっかけてるの? こんなんで効果あるの?甚だ疑問であるぞい。


 水を浴びるっていう点では、学校のトイレで上から水ぶっかける行為とほとんど変わらんやん。つまりこれは、ニアリーイコール「イジメ」ってことじゃな、QED。




 てかさー、気づいちゃったんだけど……歯も磨かなきゃいけないじゃーん。


 これこそマジで自動でできるようにしてくれー?? 手、疲れるんだからさー!


 そもそも、ウチみたいに毎日歯磨いてても、周り見たら虫歯になってる人けっこうおるんですけど。一回くらい手抜いてても、大して変わらんやろなー。


 まあ、ウチは磨きますけどね。バレたらあとでめんどくさいし。






 ***






 ほいじゃ着替えますか……はい……あのー……なんとですねー……階段を上らないと、学校の制服にありつけないんですよねー。クソですねー。


 制服マジで着づらいんよな。毎日ジャージでよくね? 選ぶ高校、ミスったかもなー。って、この辺にそんな学校ないやろがーい! っておいぃ“ぃ”ぃ“ぃ”!!!




 我はこの運命に、決して逆らえないのだな……。


 ならば仕方ない! 制服着るぞーーーーー!!!


 どりゃーーーー(全力階段ダッシュ)!!


 そりゃーーーー(全力スカート)!!


 ありゃーーーー(全力上半身)!!


 こりゃーーーー(こそあどコンプリート)!!




 思い知ったか、こーにゃろうめ。




 よっしゃーこれで学校に行く準備が終わったー!


 ウチ頑張りすぎじゃない!? 朝からこんな活発に動けるなんて、普通じゃありえないでしょ。友達の話きいてても、みんな朝は弱いって言ってた!!




 ……あっ、ウチなんかに友達いないんだった。




 てへっ☆ 友達に憧れるあまり、ついつい夢を見てしまっていたようだね☆


 学校で青春するのって憧れるーー! 友達と放課後に遊んだり、部活動したり、いろんな学校行事を楽しんだり、あとはやっぱり……恋……とか……。




 なーんてね!




 そんなのは高望みしすぎなんだわ。身の程を知れっての!


 ヘイ! マイヒップ!


 Q, この中でウチは何個達成できてますか?


 A, スミマセン。ヨクワカリマセン。




 ほら見たことか。ウチはなんにも達成できていませんよ。


 言うなれば、『アオイ』という存在は、青春とは真反対に生きる存在なのである!!


 友達? いません。


 部活動? 入っていません。


 学校行事? 全部ぼっちですが。


 恋? ナニソレオイシイノ?




 こんなんだから「イジメ」られるんだよねー。




 おっと、もうそろそろ家を出ないと、本当に遅刻しちゃうな。


 遅れて教室に入ってしまったあかつきには、もっと「イジメ」られるに違いない!




 急げ―!!




「アオイ、はいこれ弁当。気を付けていくのよ!」




 よしっ……じゃあ学校に向けて出発進行……!!






 ***






 暑すぎんだろ。




 なんか今日、太陽近くね? あそこのワンちゃんも舌だして草臥れてるわ。


 なにもしてなくても、汗びっしょり。こっから歩かなきゃいけないのー? こりゃ、この夏、死ぬかもしれんから今日帰ってきたら遺言とか書いといたほうが、よさげのアキコ。




 はやく……はやく、学校に……ついて……少しでも……涼しく……なり……た……い。


 やっばいわ……これ……。汗かきすぎて……歩くたびに……足元ネチャってる……。


 んあ? なんだ、あそこの歩くランドセルの集団は……。




「アイスうんめー!!」




「ショーくんちのママ、優しすぎるー! 今日の放課後も……行って……いい、かな?」




「おうよ!、もちろんだ! くぅー! 生き返るわー!」




 なんだ、あのガキども! 高校生の姉ちゃんが根性だけで学校行こうとしてるときに、アイス食うところを見せびらかすなんて。


 まさか……わざとか!? わざとなのか!?




「……ねぇ、ショーくん、あっちからいこ?」




「なんで?」




「……あっちのほうが日陰多いから!」




 あっ! ああーー!! 目から摂取するタイプの冷涼材がぁあああ!


 今さ、完全にウチのこと避けたよね、あの女! こっちに気づいてから向こう側に行ったよね!? ねぇ!? 君もそう思うよね!? まあ共感してくれるような友達いないんだけどさー!!




 これはアレです、みなさん。世間一般で言うところの『仲間外れ』っていうやつではないですか!? つまりこれは「イジメ」って、こちょ!?


 ウチレベルのクソ雑魚女子高生になれば、小学生にもペロられる(舐められる)んですねー。君たちは、ウチなんかより、ジャリジャリ君を舐めとけって話よ、ほんまに。




 はぁー……




 あっ、これは決して心に傷を負ったとかではなくてね、あのー、そのー、えーと、どーも、体内に溜まった熱を放出しようっていう、いわば生理現象なんですよ。はい。


 そうでもしないと、学校まで持ちませんからねー、えぇ、えぇ。






 ***






「昨日の『アレ』みたー?」


「見た見たー! めっちゃキュンキュンしたー!」




「お前、ちゃんと宿題やってきたか??」


「うわっ! やべ! やってねぇ! 生徒指導のマツタケに怒られるー!!」


「この学校に、そんな高級先生はいねぇよ。『アレ』の名前は、タケマツな!」




「ねぇねぇ、今日、いい日になりそうじゃない!?」


「それなー! 朝から『アレ』を見れたのはでかすぎる!」




 学校に入る直前の、学生だらけの道、しんど……。


 ほとんどが友達同士で登校してる……。そのせいでウチのぼっち感マシマシなんですけど。大丈夫かな、寝ぐせとかついてないかな? 制服にクソでけぇカメムシとかついてないかな?




 うぅー、意識したらなにかが背中を這ってるような感覚が……。もしかして、だれかに襟の隙間から虫入れられた!?


 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。


 周りでみんな楽しそうに笑ってるのって……まさか、ウチのことを嘲笑ってるから……。




「やっぱりめっちゃおもろいわー……『アレ』」




 おもろい『アレ』ってなに!?




「いちいちめんどくせぇから、俺はあんま好きじゃないわー……『アレ』」




 好いてない『アレ』ってなに!?!?




「あまり人のこと『アレ』って言っちゃダメだよ?」


「んー……あの子、ワタシたちとは住んでる世界が違いすぎて、ついね……?」




 『アレ』の正体は人?


 おもろくて、好かれてなくて、他の人たちとは住んでる世界が違う『アレ』――絶対ウチのことじゃん!


 ってことは、やっぱり背中にはバカデカカメムシが……ひぃぇぇぇ。


 もうこうなりゃ、気づいてないふりして一日過ごすか……。




 はぁー……どうしてこうなっちゃったんだろうなー……。






 ***






 学校の中、すずしぃーーーーーーー!


 なにこれ、天国? 昇降口えっぎぃな、マジで。


 あとは階段上って四階までいけば、一年一組の教室に……




 ……夢ならそう言ってほしい。ドッキリなら今すぐ、あの看板みたいなやつ持ってきてネタバラシしてほしいんだが。


 暑いなか、ぼっちで頑張って登校してきて天国だーって思ったら、目的地は四階でしたー!!っていう企画なんだよね??


 そうじゃないんだったら、ウチはこの学校の構造について批判しなければならなくなるぞ! 引きこもりクソキモニートを殺す気かー!!ってなぁ!




 どこに訴えればいいんだ!? 教育委員会か!? もうめんどくせぇからいいやー! このぉー!! 覚えとけよー!






 ***






 うぅー……校舎の中に入ったのはいいものの、けっきょくぼっちが目立ってるんですけど。


 ウチが階段の内側を歩いてたら、すれ違う他の生徒とか先生とかが、ウチのこと避けて外側に行くんですけど。


 あれ? 全校に告げたっけ? 『アオイが通るから道を開けろ』って。ッスゥ―……多分、言ってないんですけど。


 ついでに、背中がずっとむず痒いんですけど。




 ……あのー、みなしゃまー(孤立無援)!! ウチの後ろでヒソヒソしないでもらえますか? カメムシくさいのはわかってるんで! 本当に申し訳ないとは思ってるんで! 何卒ぉ“ぉ”ぉ“!!






 ***






 ふぅー、階段長かったー! 家の階段の一兆倍くらい疲れたー! エレベーターとかあればいいのにー、もう! クソ! ゴミ! カス! う〇ちぶりぶり!




 それにしても、男子どもは朝っぱらからほんまに元気やなー。廊下で追いかけっこしてやがる。


 友達がいて、こんな風にバカやって……くぅー!! これこそが、ザ・青春! 青い、青すぎる! ウチの人生で追いかけっこしたことなんて――近所の犬に追いかけられたくらいなもんですよ。




 あ、ちょっ! あぶね!




「いってて……。すみません、大丈夫で…す……か………」




 いってぇなー! クソ、尻もちついたー!


 てめぇらが輝きすぎて、避けられなかっただろうがよい! 陽キャは眩しくて見にくいんだよ! まあ、ウチは醜いけど……あざす。




 それに、なんだコイツの呆けた面は? ぶつかった対象がウチだったから、そんな顔してんだろ? 知り合いじゃなくて、ウチみたいなぼっちとぶつかったから、めっちゃ気まずいんだよな………………………………ちな、それウチも。超絶気まずい。




「……あっ、大丈夫ですか!? すいません、前見てなくて!」




 おい! そんな申し訳なさそうな顔すんな! コイツ……まさかウチのこと悪役にさせようとしてんのか?


 やべ、教室の中から何人か様子見に来ちゃった。こんな状況見られたら、ウチの「イジメ」られゲージが天元突破してまうわ。




 なんか適当に遜へりくだって、さっさと教室の中入ろう。他の生徒に注目されんのもダルいし。


 ほら、手貸してやるから早く立て!




「……ありがとう」




 やめろ! お礼を言うな! どこまでウチのこと悪役にしたいんだよ。うーわー、コイツ、ニヤけてやがる。打算確定!!!!!! キュインキュインキュイーン!!




 ということで……退散!!






 ***






「それではホームルームを始めます」




 はぁー、もう精神的疲労がやばいんですけど。


 背中ムズムズするせいで、気軽に背もたれも使えん。




 バイザうぇーい↑↑(笑)、クラスメイトよ。なぜウチのことを見ているのだ? おいそこ! 口元隠してても、目元がニヤけてるせいで笑ってるのバレバレだぞ! あらまぁ、あなたの目、美しいアーチだこと。




 君たちはバレていないとでも思っているのだろうが、残念。常日頃から他人の視線にビクビクしまくっている、ウチのアホ毛センサーが反応しまくっているのだよ。




 みんなはウチじゃなくて、先生の方を見ていなさい……って先生もこっちチラチラしてんじゃねーか!


 この学校では生徒だけじゃなくて、先生もウチのことを……。




 いつもなら、まだマシだったよ? 適当に斜め下向いとけばいいし。


 けど、今は心当たりがありすぎる!




 もしかして、臭いかな?? カメムシか?? はっ! 今朝、男子とぶつかって悪い噂が流れて……ギャアアアアアアアアアアアア!


 想像するだけで吐き気が……まあしないんだけどさ。




 まっずーい。そんなにクスクスしないでよぉ、みんなぁ~。いつも元気なアホ毛センサーも萎びちゃうよぉ。




 やっぱり最近の「イジメ」って陰湿なものが多いんだね。


 みんな陰でコソコソしてるだけで、ウチに直接言ってくる人はいない。現代っ子はきっと口じゃなくて、板で会話するもんだし。


 だからコミュニティに入れていない、バカで、アホで、マヌケな、耳クソゴミカスボケナスハッピー法被は世界についていけなくなって、いつしか孤独になるってわけよなー。ほんとウケる。




 まるで板の中に二つ目の世界があるみたいだな。


 リアルで動くウチらはRPGの中の存在で、本当の『自我』は板の中の文字。


 まぁ、頭の悪いクソガキの考えだから筋が通ってるかも、よくわっかんねぇけど、みんなが真に本音で話せるのは、いったいどっちなんだって話。




 はぁー……ダル。






 ***






「では授業を始める」




 きました。ついにきました。授業ってやつが!!




 国語かぁー、ウチ苦手なんだよなー。


 文字多すぎ。この教科書つくった人、読ませる気ある? ウチらってねぇ、マンガとかアニメとかで育ってきたのぉ。文字を読むだけで一苦労なんですわ。




 なんかよくさぁ、


 本を読むときはあまり顔を近づけないでね。目が悪くなっちゃうから☆


 って指導されるけど、こんなちっせぇ文字を読ませてるの、目悪くさせる気満々だろ。




 数学の授業とかならまだいいわ。一人で黙々と頭の中で計算するだけで、先生にあてられても答えだけ言うことがほとんど。


 でも、国語ってそれだけじゃなくて……




「じゃあ、ここの部分を……今日は26日だから、26番、春海。起立して音読してくれ」




 うわキター。


 国語といえば音読ですわ。26日だから26番って……その出席番号の人かわいそー! 同情するぜよ。


 ……まあウチなんですけどね。




 わざとだろーこれー、昨日はなんか別の理由であてられたってばー。先生ひどすぎるって。マジで今日、クソ日すぎるんだが。


 ただでさえ注目されたくないのにー! ここで音読したら、クラスメイトに「イジメ」のネタを提供しちまうだろ!




 あそこで嚙んでたよねー。とか、抑揚バグってて草w。とか、あんな簡単な漢字も読めないんだってー、プププー……とか。




 あーもうほら、周りでみんなヒソヒソし始めた。こりゃ、ウチの予想はあたっちゃいそうですな。




 あの、先生ごめん。教科書読みながらで悪いんだけど、心の中で叫んでもいいっすか? いいですね? あいざいます。では……すぅー






 どう“し”て“だ”よ“ぉ”ぉ“ぉ”ぉ“ぉ”ぉ“ぉ”!!!


 ウチの背筋……キンッキンに冷えてやがる……!!






 ふぅー……少しは落ち着いたかな。




「はい春海、さすがだ。座っていいぞ」




 よぉーし、山場超えたー……。うまく音読できてたかな……。


 まあみんなの反応を見るに、ウチの音読はゴミだったっぽいっすね。


 てか、さすがってなに!? さすがバカにしてるやん!!




 ウチの右斜め前に座ってる一軍女子四人! こっち見ながらニヤけてやがる。


 ウチの左斜め後ろの一軍男子三人組! わかるぞ……見ずともわかるぞ……キサマらもウチのこと見てるだろ。背中の感覚だけでわかっちゃう自分もキモくてすまんけど、見てるだろぉー!!




 っくぅー! またしても「イジメ」ネタを与えてしまったのか。今日、バスケ部と、サッカー部と、野球部と、バレーボール部と、テニス部と、バドミントン部、あとは帰宅部で、笑いものにされるんだああああ!




 はぁー……。






 ***






「はい、連絡は以上です。今日も一日お疲れさまでした。また明日会いましょう」




 だぁーーーーー! 終わったーーーー!! ついでにオワターーーー!!




 今日も今日とて、周囲にネタ三千個くらい提供しちゃったー! 需要と供給のバランスあってませんよー! ウチにもなにか、くださるとうれしいのですけどー? あるわけないですよねー、はーい。




 けっきょく今日もずっとぼっちだったな。


 視線もずっと感じるし、ウチはなに? 動物園の動物? 水族館の魚?


 そういうタイプの「イジメ」ね? ハイハイ理解。




 で、どうせみんなはホームルームが終わっても、教室で駄弁るんでしょ? 仲がよろしいこと。ウチみたいなカースト圏外はさっさと失せますよ。






 ***






 もう、疲れた。


 階段も、靴を履く作業も、キッツイわ。今日だけで寿命、三十分くらい縮んだかも。




 校舎出たくねー。まだ太陽えっぎぃんだけど、朝から何か変わったかー?


 勇気出して外に出ないと天国(自宅)に帰れないしなー。


 ほいじゃ行きますか……あっ。




 最悪だぁ……弁当箱、教室に置きっぱだ……。






 ***






 弁当箱……忘れて……るんだったら……誰か……教えて……くれても……いい……じゃまいか……。




 そうじゃないと……こうやって……また……階段を……上らなきゃ……いけなく……なる……じゃまいか……。




 やめろ……お前ら……こっちを……見るな……なんでコイツ帰んねーの?っていう目で……見るな……恥ずかしい……じゃまいか……。




 こんなときに今朝のアイスのガキを思い出しちまった。あークソ。アイス食いたくなってきたじゃまいか!






 ***






 やっと、教室に、ついた…。まだ何人か残ってるやんけ。




 弁当箱は……あれ?


 机の横に……あれ?


 机の中は……あれ?




 あっ……なんということでしょう。


 どうやらウチは無駄足というものを踏んでしまったようです。


 カバンの中に、ちゃんと入れてた……。周囲の顔色を伺うことに夢中になりすぎて、入れた記憶がスッポリ抜けてた……。マジかー。ハハハハ。




 なにやってんだか、本当に。「イジメ」の原因、だれが見ても明らかだわ。自分でも超絶ウルトラスーパーデラックスベリベリブリブリ納得っすわ。




 やばい、教室の端で、まだ残ってるクラスメイトがこっち見てる! ガン見はやめてー!


 これはクソまずい!


 弁当箱を忘れたと思って戻ってきたのに、全然そんなことなかったことを知られた日には……ぐがぁああああぐごがぁぁぁごごごぉぉぉぉ!




 逃げろー!!






 ***






 ハァー、ハァー……疲れた……。


 階段ダッシュに、高速靴履きの術。ウチのエネルギー残量はもうゼロよ!




 しゃあないか。「イジメ」ネタ提供も、弁当箱忘れも、なにもかも全部、自分のせいだし。




 こうなりゃ自らへの罰として炎天下の中を歩きますか。






 ***






「おい! 今のはいけるだろぉ!! ちゃんとボール取れよー!」




「すみません!」




 はぁあ、こんなバカ暑い日にも、運動部は元気に声出していらっしゃる……。


 もう声きいてるだけで、熱中症になるわ。


 ほんまにお疲れさんです。自分にはできません。頑張ってくださいね。


 じゃあ自分はさっさと帰らせていただきます。




 …………




「すみませーん。ボール取ってくださーい」




 ウチの目の前にはテニスボール。


 すぐ横の柵の向こうには、ウチを見てなんか言ってる陽キャ男子。




 ……ウチが帰ろうとしてるときに、目の前にボールが偶然転がってくるなんてこと、ありますかね? 逆の意味でウチ、運いいわー。宝くじでも買おっかな。




 えーっと、これを取るってことは……


 しゃがんで、ボールを拾って、立ち上がって、大きく振りかぶって、柵の上を飛び越えるような弾道でボールを投げなければならないわけだ。




 想像しただけでキッツ。


 ただでさえ、しゃがんで立つだけで疲れるのに、柵を超すって……。テニス部の柵って意外と高ぇんだ。


 運動部目線ならまだしもなぁ、ウチは帰宅部なんだよ! そっち基準で考えないでくれ!




 まあ断ったら「イジメ」ネタ提供されるだろうからな。アイツボールも取ってくれなかったんだぜ!って。


 だからこの状況は、あの男子がウチに頼んでいるように見えて、ほぼ強制なんだよね。




 はぁー……はぁー……。




「……あっ、ありがとうございます!!」




 ***






「おかえりー!」




 帰ってきた……。


 あああああしんどかったああああああ!


 暑すぎ。死ね。おい太陽、もう二度と出てくんな、ボケカス。




「アオイ、暑かったでしょ。アイスあるから食べていいわよ」




 あ、神。


 普通に神。ここって本当に天国だったんだ。


 っしゃー! もうお気楽な時間だぁー!!!! いぇーーーーーい……




 ……そういえば、宿題があったような……。


 なーーーーーんで先生って生徒に宿題出すわけ? ウチ知ってるよ? 先生って忙しいんでしょ? 宿題って先生にとっても仕事量増やすだけじゃん!


 もしかして先生ってドMなの?? 自分から「イジメ」られにいってるよね!?




 普通に、お互いの生産性がウケるーって感じなんですけど。


 先生が宿題を課すとき、うちらは宿題をカスと思ってる……そんなこと考える暇があるなら、もう宿題やっちゃお……アイス食ってから。




 ていうかさ……


 宿題やるためには、また階段上らなきゃいけないじゃん!


 階段を上る前に、アイス食べないといけないわ!


 アイス食べるために、冷凍庫に向かわないと!


 冷凍庫に向かう前に、靴も脱がなきゃいけないじゃん!




 え、ダッル! もしかして、全部仕組まれてる?


 犯人は宿題を課した先生か!?


 ウチを甘い罠に誘ったマイマムか!?


 アイス欲をかき立てた、あのガキどもか!?


 いや、これ全員犯人だろ!




 「イジメ」って集団vs個になることが多いらしいな!


 今、まさにその状況になってる……つまり……






 ウチは「イジメ」られている!!!










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「イジメ」 沢木キョウ @sawaki_kyo

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