第12話「逆転劇と裁きの時」

 バルザック男爵が連行されていき、王国監査官も王都へと戻っていった。

 嵐が過ぎ去ったミストラル村には、信じられないような静けさと、そして大きな安堵感が広がっていた。


「……終わったんだな」


 誰かが、ぽつりとつぶやいた。

 その言葉をきっかけに、村人たちの顔に、じわじわと笑顔が広がっていく。


「うおおおおお!」


 次の瞬間、村は歓喜の渦に包まれた。

 村人たちは抱き合い、肩を叩き合い、勝利を分かち合った。僕も、屈強な男たちに担ぎ上げられ、何度も宙を舞った。


「やったな、カナタ!」

「お前は、本当に俺たちの英雄だ!」


 照れくさかったけど、心の底から嬉しかった。

 僕の隣では、リアナが獣人の姿から戻り、尻尾をぶんぶん振って喜んでいた。彼女の瞳には、うっすらと光るものがあった。


 後片付けは大変だった。

 地面に撒かれた油の除去、騎士たちの鎧にこびりついた水飴の掃除。

 でも、誰も文句を言う者はいなかった。むしろ、みんな楽しそうに作業をしていた。

 勝利の後の後始末は、心地よい疲労感と共に、村の団結をさらに強固なものにした。


 数日後、王都から正式な知らせが届いた。

 バルザック男爵は、これまでの悪行の数々――重税、領民への不当な扱い、そして今回の村への襲撃――が全て認められ、爵位を剥奪の上、鉱山での強制労働という厳しい罰を受けることになったそうだ。

 まさに、自業自得。彼の強欲が生んだ、当然の結末だった。


 彼に従っていた騎士たちも、相応の罰を受けたという。

 悪が裁かれ、正義が示された。その知らせに、村人たちは改めて胸をなでおろした。


 そして、それだけではなかった。

 監査官の計らいで、王家からミストラル村へ、多額の見舞金と、当面の生活を支えるための支援物資が届けられたのだ。


 山のように積まれた小麦粉、塩、砂糖、布地、そして農具の数々。

 村人たちは、目を丸くしてそれを見つめていた。


「こんなにたくさんの物資……夢みたいだ」

「これで、今年の冬は安心して越せるぞ」


 さらに、王都の宮廷料理長から、僕宛に一通の手紙が届いた。

 手紙には、僕の料理の噂を聞いていること、そして僕が開発した保存食の製法を、ぜひ王国全体に広めたいので協力してほしい、と書かれていた。もちろん、それに見合うだけの報酬も約束されていた。


 僕の料理が、この村だけでなく、国中の人々を救うことになるかもしれない。

 それは、料理人として望外の喜びだった。


「すごいよカナタ!国のお抱え料理人になっちゃうの!?」


 リアナが、興奮気味に僕の腕を揺する。


「はは、そんな大げさなものじゃないよ。僕は、この村の料理人だからね」


 僕は微笑んで答えた。

 どこか遠くへ行ってしまうわけじゃない。僕の居場所は、ここミストラル村だ。

 これからも、この村のみんなのために、美味しいごはんを作り続ける。その気持ちに、変わりはなかった。


 悪徳領主という大きな脅威は去った。

 村は、王家の保護という大きな安心を手に入れた。

 そして、僕の料理は、村を豊かにし、国に認められるという、最高の未来へと繋がった。


 まさに、大逆転劇だった。

 僕たちが、自分たちの手で掴み取った、最高の結末。

 凍てついていたミストラル村に、本当の意味での春が、もうすぐそこまで来ていることを、誰もが予感していた。

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