夕闇の人知らず

孤独の回廊

第1話 入り口

午後4時30分



俺は友達を招き入れて一緒にリビングでお菓子を食べていた。


すると、ドタバタと階段を降りてくる足音が聞こえる。


「お兄ちゃ〜ん!学校に忘れ物しちゃったから美那ちゃんと一緒に取ってくるね〜!」


楽しそうにそう言ったのは妹の由香だ。


「気を付けてな〜。あんまり遅くなるなよ〜。」


「はーい!」


由香は元気よく家を飛び出していった。


俺、甘沢大希には妹がいる。


いつもべったりで、俺が修学旅行で数日間いなかった時には大泣きで大変だったらしい。


すると、


「可愛いね!由香ちゃん!」


と、愛らしい生き物を見たようにそう言ったのは友達の瑠奈だ。


「だろ?自慢の妹だよ」


「いつも元気だよな〜!羨ましいぜまったく、俺の妹はいつもゲームばっかだよ!勝手に俺のデータ使うしさ〜」


そうボヤいているのは友達の修斗だ。


俺とこの2人は仲良しで、いつも一緒に話している。


これからもこの3人で笑い合いながら生きていくのだろうと、勝手ながら思っている。



          ◇



午後5時10分



俺たちはゲームをテレビに繋ぎ、大画面でプレイして遊んでいた。


「はいっ!俺の勝ちな〜!」


そう言って笑っているのは修斗だ。


さすが運動部。反射神経が並じゃない。


「そういえば、由香ちゃん遅いね……。門限、5時じゃなかったっけ?」


瑠奈がそう言い、少し心配そうに時計を見ている。


確かにそうだ。いつもなら帰ってきている時間だが……


まあ、家を出た時間が遅かったのだ。多少門限を過ぎてしまうこともあるかもしれない。



          ◇



午後5時40分



おかしい……


由香が帰ってこないのだ。いつもは門限は守るいい子だ。もしかして何かあったのか?


嫌な考えが次々に浮かび始める。


事故にあったのでは?連れ去られたのでは?


そこで……”あの噂”がよぎる。


由香が通っている小学校……


そして、前まで俺たちが通っていた小学校の噂だ……


それは……


【遅くまで学校に残っている悪い子は神隠しにあってしまう】ということ……


その考えがよぎった瞬間、俺は携帯を手に取り、由香の番号にかけようとしたが、「プルルル」という音が由香の部屋の方から聞こえてきた。


携帯、置いていったのか...


俺は、美那ちゃんの家に電話をかけてみることにした。


あの噂がよぎってからずっと、頭にこびり付いて離れない。


そんなことはありえない。神隠しなんてあるはずがない。


「はい、清水ですが。」


電話に出たのは、美那ちゃんのお母さんだった。


「清水さん!俺です、甘沢です!」


そう伝えると、彼女は


「大希くん?どうしたの?」


と、普段通りで特別焦っている感じもしなかった。


「由香が、美那ちゃんと忘れ物を取りに行くって言ったきり戻って来ないんです!美那ちゃんからは何か聞いていませんか?」


そう聞くと、彼女は


「……え?美那なら、今日は風邪で家から出ていないけれど……学校も今日はお休みしたわよ?」


「え……?」


その瞬間、呼吸が止まった。

じゃあ、由香は何で嘘を付いたんだ……?


意味がわからない……何もわからない……


俺は、神隠しなんて信じない。


だけど、そうだとしても由香が心配なことに変わりはないのだ。


「……俺、由香を探してくるよ!」


すると、瑠奈も立ち上がり


「私も一緒に行く!!」


それに同調するように


「俺も行くよ、心配だし。」


と、修斗も立ち上がった。


そうして俺たち3人は由香を探しにあの……

原野香ヶ丘小学校に向かった……



          ◇



俺たちは学校の門の前まで来ていた。

ここに入るのは数年ぶりだ。


少し緊張しながら足を踏み入れると、通りかかった先生が近付いてくる。


「何か用事ですか?」


「竹中先生……」


彼女は竹中先生。俺の元担任だ。彼女は俺の顔を見ると懐かしそうに微笑む。


「あら、大希くん?久しぶり!元気にしてた?」


「はい!先生もお元気そうで何よりです!」


前よりも丁寧になった言葉遣いでそう言うと、


「うん、成長したわね!えらいえらい!」


そんな彼女の言葉が妙に照れくさくなり目を逸らす。


「なんか照れますね……」


「照れ屋なところは変わってないのね〜」


彼女はそう言って笑うと、本題に入る。


「大希くんが来たということは、由香ちゃん関係かな?」


「はい、そうなんです。『忘れ物を取りに行く』って言ったきり戻ってこなくて……何か知りませ——」



「知らない。」



彼女は突然声を低くして、俺の言葉を遮るように、ただ一言そう述べた。


彼女はそのまま背を向けると、一度も振り返ることなく校舎に戻っていってしまった。


俺はただ、去っていく先生の後ろ姿を見て呆然と立ち尽くしていた。




午後6時00分

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