第二章 光の中
07.集樹東33号焼却戦・前哨戦
硬質化した翼を矢にも刃にも鎧にもし、アルギアと真っ向に打ち合う
水と氷の魔法により、炎を防ぎながらアルギアの挙動を鈍らせる
重厚な体躯から、
これらはヴィスカムの主力三級と呼ばれ、アルギアであっても一対一以上の数的優位をもって相対すべき戦力とされている。
一方で、主力三級の絶対数はそう多いものではない。
奴らは生身の人間では手出しできないほどに強力だが、それでも人類がどうにか生存しているのは、主力三級の活動範囲に制限があるからである。
ヴィスカムを生み出す滅びの大樹。
奴らの活動範囲は、その
それらより小型の
だが。
もしもある場所で、主力三級との遭遇頻度が高くなったのならば。
それはその方角に、
* *
『3、2、1! 発射!』
エリオットの掛け声と同時に、引き絞られた投石機が勢いよく起き上がり、燃料岩を放つ。
何人もの魔術師たちが、炎の魔力を三日三晩とかけて込め続けた魔石塊が、空に黒煙の弧を描いて、宙で散らばり、鬱蒼と生い茂る森へばらばらと降り注いだ。
それらはすぐさま森に火を点ける……わけではない。じわじわと熱を発し、少しずつ森を乾燥させ、最後には焼き枯らすのだ。
そんなことをする理由は、俺の睨む先にある。
全速のアルギアでも数分を要する地点。200メートルを超える高さにまで異常成長した大樹――
その攻略の下準備として、周辺の森を地道に焼き払っているのである。ヴィスカムの生産を妨害し、また陸上からの不意打ちを防ぐために。
もちろん、連中もやられるがままではない。
「来るよ」
レミアが囁く。だろうな、と思った。
「イグニショントリガ、コントロール。……ファレン」
「ああ」
「あなたは、どうして翔ぶの?」
――サムエルとリサが転属してから、既に3週間。
俺はまだ、奴から最後に託された言葉を持て余している。
試行錯誤のさなかで、答えはない。正しいことができているとも思えない。
(だが……)
深い葉擦れの音を鳴らしながら羽ばたく、いびつな樹木の鳥。暗褐色の枝骨。苔色の葉翼。
この青い空からあれを焼き去って、その先へ進めるようにすることだけは、正しいはずだ。
「遠く……」
「……」
「もっと遠くへ……翔んでいくためだ」
「うん」
いつものように、レミアは素っ気なく頷いて、トリガーを弾く。
だが、それがこいつの回答で、呼吸だ。
「アルギア・
熱。
熱が俺を満たしてゆく。熱が俺を覆ってゆく。
熱が
「
* *
アルギアに発声機能はないが、操士の発した声を大音量で発するスピーカーがあって、戦闘中のコミュニケーションはそれを用いる。
『
ティルチェからの情報に、レミアが頷くような感覚があった。間違いも補足もないという意味だ。
であれば俺はそれに添って、するべきことをするまで。
「合流される前に先頭を叩く。相手を牽制したい。2機来てくれ!」
『い、行きます!』
『お供させてください!』
碧の炎を噴き上げて飛翔する
(……誰だ? 声からして男と女……顔が思い浮かばないな)
「ラムとエイベル」
俺の思考を感じ取ったレミアが答える。
「
「ない。私も人となりはあんまり知らない。でも組んでる
「……まあいいか。駄目ならエリオットが止めてるだろ」
ほどなく宣言通り、もっとも近くの
交戦を始めて少しして追いついてきた2機を気にして相手の動きが悪くなったので、手早く片付けることができた。
「右下!」
同時、左上前方へ引っ張られるような感覚。レミアによる操作介入だ。
これらが意味するのは、『右前下方から攻撃が来るので、左上前へ進む形で回避しろ』である。もちろんその通りに急加速する。
バ パァン!!
爆発音と散乱音の入り混じった短い音。
樹が生えるのに邪魔な岩石の類を平らげるのが奴の役割であり、蓄えたそれらを固めた
砲礫をそのまま放つ遠距離砲弾と、噛み砕いてから放つ対空散弾を使い分けるのが
(さて、順当に行けば
「
「だよな」
ヴィスカムが見せるもっとも基本的で、恐ろしく厄介な陣形だ。
「どうしてもらうか決められる?」
(……子どもに尋ねるみたいな言い方だな)
「なに?」
「いいや」
レミアの問いには、追従する2機を放って置くなという意図が込められていた。
俺は少し考える。エリオットのように気を回すことはできない。そんな俺が出せる最も効率的なオーダー。
「ふたりとも!」
『はい!』
『どうしますか?』
スピーカーから発した声への返答は早かった。待っていたんだろう。
「地表を進んで東西から
『ち、地表をですか?』
男の方が聞き返してきた。
『時間がかかります! 低空の方が良いのでは……』
「低空だと砲礫の回避が難しいだろ」
『つまり
『察し悪いよ、ラム』
女の方……エイベルだったかが割って入る。
『
(そうだって言ってあげて)
違う、と言いかけた所で、レミアが思考リンクでそう囁きかけてきた。
(結果は同じでしょ)
俺はひそかに溜息を吐き、言う。
「……そうだ」
『わ……わかりました!』
『了解! 待っててくださいね!』
眼下、森の中へアルギアが向かったのを認め、
「いい感じだったよ」
「お前がああ言ってくれたおかげだ」
「うん。ファレン一人だったらもっと時間がかかってたよね」
「……そうだな」
「ファレンは、やっぱり私を頼ってるよね?」
「……ああ、ああ。分かってる」
ここ数日、レミアはいつもより機嫌が悪く、言葉と思考でしばしば俺をチクチクと刺してくる。
理由はまったく明白で。
「サムエルとのことだって、私は役に立ったのにね?」
「分かってるって……!」
サムエルの件を俺が彼女に相談したことが、その始まりである。
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