第12話「永遠を誓う場所」

 オルコット侯爵の失脚は、驚くほどあっけなかった。

 リアムが捕らえた男たちの証言と、彼の諜報部隊が掴んでいた侯爵の不正の証拠。

 それらが国王アルフォンスの前に突きつけられると、侯爵に弁明の余地はなかった。

 爵位を剥奪され、領地を没収されたオルコット侯爵は王都から追放された。

 貴族社会に蔓延っていた古い膿が一つ取り除かれた瞬間だった。


 事件が解決した後も、リアムはカイのそばを片時も離れようとしなかった。

 カイが少しでも視界から消えると、すぐに「カイ、どこだ」と探し回る始末。

 その過保護ぶりは屋敷の使用人たちが微笑ましく思うほどだった。

 カイはそんなリアムの姿を愛おしく思う反面、彼に心配をかけてしまったことを申し訳なく感じていた。


 ある夜、リアムはカイを自室に招いた。

 暖炉の火が静かに揺らめいている。

 リアムはカイの前に跪くと、その両手を取った。


「カイ」


 真剣な眼差しに、カイは息をのむ。


「今回の件で俺は思い知らされた。番だと言いながらお前を危険に晒してしまった。俺は、まだお前の本当の守り手にはなれていない」


「そんなこと……!」


「いや、事実だ。だから改めてお前に誓いたい」


 リアムはカイの手の甲に、そっと口づけを落とした。


「カイ・フォン・グレイフォード。お前を俺の正式な番としてアークライト家に迎えたい。法と神の前で永遠の愛を誓わせてほしい。俺の全てで、お前の一生を守らせてくれ」


 それは紛れもないプロポーズだった。


「俺と、番になってくれないか」


 カイの瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。

 嬉しかった。

 心の底から。

 この人となら生きていける。

 この人のために生きていきたい。

 この事件を通して、カイもまたリアムへの愛情が揺るぎないものであることをはっきりと自覚していた。


「……はい」


 涙で濡れた声でカイは頷いた。


「俺も……あなたの番になりたいです。あなたのそばで、一生あなたのためにご飯を作りたい」


 その答えを聞いて、リアムの顔が見たこともないほど優しく綻んだ。

 彼はカイを抱きしめ、何度も何度もその名を呼んだ。

 二人の影は暖炉の火に照らされ、一つに重なっていた。


 ***


 カイとリアムの番いの儀式は、国王アルフォンスの計らいで王宮の至聖堂で執り行われることになった。

 本来、貴族同士の儀式とはいえ、ここまで大々的に行われることは異例だ。

 それは国王が二人の結びつきを国として祝福していることの証だった。


 儀式当日。

 カイは日の光を浴びて輝くステンドグラスの下に立っていた。

 リアムの髪の色に合わせた、深い青の美しい礼服。

 胸元には銀糸でアークライト家の紋章が刺繍されている。


 隣には純白の騎士礼装に身を包んだリアムが、誇らしげに胸を張って立っている。

 祭壇の前には立会人である国王アルフォンスが、厳かな表情で座っている。

 参列席には王都の主だった貴族たちが顔を揃えていた。

 その中には招待された辺境伯一家の姿もあった。

 すっかり落ちぶれ、やつれた様子の彼らは末席でただ俯いている。


 神官が荘厳な声で誓いの言葉を述べる。


「汝、リアム・フォン・アークライトはカイを唯一無二の番とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、彼を愛し、敬い、慈しむことを誓うか」


「誓う」


 リアムの迷いのない声が聖堂に響き渡る。


「汝、カイはリアム・フォン・アークライトを唯一無二の番とし、彼を愛し、敬い、支え続けることを誓うか」


 カイは隣に立つリアムの顔を見上げた。

 青い瞳が優しく、そして熱っぽくカイを見つめている。

 カイは微笑んだ。

 人生で最高の、幸せな笑顔で。


「はい、誓います」


 二人は誓いの証として、互いの薬指に銀の指輪をはめた。

 その瞬間、聖堂が祝福の光に包まれたかのような温かい空気が満ちた。

 国王アルフォンスが立ち上がり、高らかに宣言する。


「ここに、二人の番の成立を認める! 新たなアークライト夫妻に、神の祝福があらんことを!」


 参列者から割れんばかりの拍手が送られた。


 不遇な運命を背負って生まれた青年が、最高の幸せを手に入れた瞬間だった。

 冷たい物置部屋で一人震えていたカイは、もうどこにもいない。

 隣には誰よりも強く優しい番がいる。

 二人の未来は、至聖堂のステンドグラスのように色鮮やかな光に満ちているように思えた。

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