魔王軍四天王が友人の慣れ果てでした

柳上 晶

初めまして

「えーっと、人違いじゃない?」


 組み敷き、喉元に剣を突き立てた相手は、顔だけ余裕そうにしてそう言った。

 左右非対称の角を生やした、青髪のヘラヘラしている男だ。

 絶体絶命の状況で、命を必死に繋ごうとしている努力が垣間見える。その顔をにらめば、冷や汗を流し始める。焦っているのだろう。


「――人違いじゃない。お前、ジズマだろう」


 鋭い八重歯を剥き出しにして、威嚇する。

 確信を持って言った言葉に、相手はいよいよ切羽詰まった顔になって叫ぶ。話は平行線だった。


「だから!俺知りませんよ!俺の名前はレムレースなので!!人違いです!!」

「そんなはずがないだろ!」

「それに、俺、記憶喪失なんで!過去のこと出されても」


 その発言に、歯軋りで返した。

 



 この世界には、魔王が存在している。その部下である四天王もいて、さらにその下に魔族や魔物がいる。彼らには数十年の間苦しめられていた。

 それらを討伐するため旅立った勇者とその仲間たちは今、魔王城へと向かっている。時に人々を助け、魔物を倒し、四天王とドラマチックな激闘をしていた。人々はそんな勇者に期待を寄せていた。


 話は変わり、とある村に2人の少年がいた。

 2人は、変わらない魔物の恐怖と対峙し、いつか平穏が訪れることを願っていた。ある日、魔王軍に襲撃されるまで。

 村は崩壊し、人々は発狂。生きている人はほとんどいなかった。

 少年は、そんな中逃げることができた。1人を残して。

 目の前で友人が拐われ、なすすべもできなかった状況で、心に火を灯した。必ず復讐するのだと。これ以上、被害を出させないためにも。



「――――それで、拐われた友達が、俺だったと」

「そうだ」

「へーー、え、名前って、なんでいうんですっけ」

「俺はフェノメノン。お前はジズマ」

「へー」


 姿勢を正し、いまいち実感が湧いていない顔で返事をする。その様子を対面で見守るフェノメノンは、微妙な顔持ちをしていた。

 無理もない。すでにいなくなっていると思っていた親友が、このような形で再開することになったのだから。


「じゃあ、俺の過去を知ってるってことですね。どんな感じでした?」

「え、まあ……見た目は全然違うな。喋り方も。そんな胡散臭そうではなかった」

「……それだけ?!もっと他にないんですか。記憶浅すぎません?」

「はっ、黙ってろ……!まぁ、他か……」


 昔の記憶を思い出しながら、親友と目の前の男の共通点を見出そうとする。こうして話しているだけで、懐かしい記憶がよみがえる。姿はこんなにも違うのに、雰囲気だけでこれだ。

 フェノメノンは、昔を思い出そうとするたびに締め付けられる胸を握り、うつむく。


「あ、」

「あ?」


 腑抜けた声に顔を上げると、素早く立ち上がったレムレースが魔道石を片手にどや顔をしていた。


「ハッハー!はこんなところでやられねぇんだよ!!さらばだー!」

「はぁ?!待て!」


 止める間もなく光に包まれたレムレースの姿は、一瞬のうちに消え去り、その場には跡形もなくなった。

 その事実にフェノメノンは舌打ちし、何もない手を見て握りしめる。

 結局、何も得ることができなかった。一握りだけでは足りない。

 空を見上げた。眩しいほどの快晴で、嫌な気分になった。





 フェノメノンは最近お世話になっている村に戻り、身支度をする。ここにとどまる理由もなくなったため、新たに出発するつもりである。

 必要な物だけまとめ、剣の手入れと弓矢の補充をする。レムレースを見つけるまでの間、そして町に戻ってくるまでの間に大量の魔物に襲われた。一般人はまともに外を出歩けない時代になってきている。

 右目に眼帯をつけなおし横髪をみつあみに結ぶ。地図を適当に広げ、いけそうな範囲で村がないかを確認してから折りたたんでベルトのポーチに入れる。空間拡張の魔術がかけられているため、見た目より多くはいるのが特徴だ。

 フェノメノンは背伸びをして、出発するかと動き出すと、不意にノックが聞こえ動きを止める。


「フェノメノンさん?まだいますか?入っても……」

「いますよどうぞ。どうしたんですか」


 入ってきたのはこの村の村長。少し腰が曲がっている中年男性だ。

 困り眉をさらに困らせ、不安が入り混じった表情をする。フェノメノンが村を出るということを聞きつけて急いでやってきたのだろう。やや汗が流れていた。


「あの、村から出ていくって、本当ですか?いかないでください!」

「いや、無理な話やね」

「あなたがいたら、子どもも安心して外で遊べるんです!最近は本当に魔物の数が増えて大変で」

「もう!あなた!?困らせないの!」


 後ろから現れた村長の奥さんにとがめられ、だってぇと言いながら口を閉ざす。それにうっとおしそうな顔をして、フェノメノンには優しげな顔をした。


「ごめんなさいね、うちの旦那が」

「いえ、大丈夫ですんで」

「魔王討伐に行くんでしょう?勇者様もいるのだから、勝利も目前ね」


 なんてことないように言われた言葉に、フェノメノンは笑って返す。


「そうですね。新しい目標もできたんで、早めに出発しときたいんですよ」

「あら、止めちゃってごめんね?気を付けてね」

「いつでもきていいからな!!」


 大手を振って送り出され、困ったように笑って次の地点に向かう。魔王城までもかなり近くなり、心に決めた目標まであと一歩だ。しかし、それより先にすることができてしまった。

 背負った弓矢を固定するベルトをつかみ、位置を調整する。新しい目標のために、次は何をすべきか考え、レムレースの姿を思い出す。


(正直、話をするだけなら何とかなりそうだな)


 右目の眼帯を触りながら、そう思った。




 ところ変わって魔王城。

 帰還の魔道石を使い、危機一髪で帰ってきたレムレースは、いつもの研究室に身を寄せていた。

 どこか薄暗く、何かのうめき声が聞こえてきそうな場所で、レムレースは赤髪の長身女性研究者に定期検診を受けていた。上半身を脱いで裸をさらしているレムレースの前で、研究者は一心不乱に紙に結果をかいていた。


「いちご博士?何をそんなに書いてるんですか」

「吾輩の傑作に!新たな異変が現れた!世紀の大発見につながるぞ!ムー!見ろ!」

「どうしたわが半身!」


 どこからか、同じ見た目をした黄緑の髪の女性薬師が現れ、博士が書いていた紙を覗き込む。それをふむふむとみていたのがやがて興奮気味になっていく。

 さすがは双子と思っていると、薬師のほうも高笑いをしだして取り返しがつかなくなる。


「これは素晴らしい!クーは天才か!?さすがはわが半身!」

「だろう!レムレース!今日は一体何があったんだ!?」

「え、俺ぇ!?いや、特に何もなかったような……あ、過去を知ってるっていう人に出会ったくらいですかね?」

「なるほど!」


 またもや紙にすごい勢いで書き始める博士を冷めた目で見る。いつにもましてテンションがおかしい博士は、かなり引くほど気持ち悪い。


(これでも、俺の主治医だしな~)


 いますぐ逃げ出したい気持ちを押し殺し、手が止まるのを待ちながら眺めていると、薬師が薬をもって来た。


「ほら、今回の薬だ」

「あ、ありがとうございます」


 袋に入った数粒の薬を受け取り、すぐさま取り出してすべて飲み干す。口の中に広がる苦みに顔をしかめていると、薬師はその表情変化を観察する。

 ちらりとそちらを見ると、薬師も同じように紙に何か書き始める。


「今回のは何の薬なんでですか?」

「うん?今日のことから記憶に関するものにしたかったのだが、今回はただの身体強化薬だ。明日また感想を聞かせてくれ!明日には薬を完成させる!」

「言い心意気だ!吾輩もレムレースをさらに鍛え上げるためにいい生き物の細胞を見つけてこなくては!」


 同調し、うるさくなっていく博士と薬師を置いて、レムレースは立ち上がる。やることはやったので、もう用はない。席にかけていた衣服を着ていく。

 これから何をするかなと思い、ふと一つのことを思い出す。

 振り向きかけた体を戻し、博士に聞く。


「博士。人間との接触っていいんですか?」

「?魔王様に反旗を翻さない限り、何をしてもかまわん!むしろどんとこい!」

「ありがとうございます~」


 聞きたいことだけ聞いて、興奮して話し続けている博士を放置して研究室内を歩く。何かが培養されてそうなガラスの筒の列を通り過ぎて、魔道石の詰まった箱から帰還の効果を持ったものをいくつか取り出す。

 外に出ようと道を歩きながら、先ほどであった青年、フェノメノンを思い出す。


(俺、ここで作られたってことしか覚えてないけど、過去があったんだな。どんななんだろ。もっかい話したいな)

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