優しくて全身で好意を表してくれる理解のある後輩にフラれて暴力暴言ツンデレ幼馴染とお風呂に入るお話

守次 奏

優しくて全身で好意を表してくれる理解のある後輩にフラれて暴力暴言ツンデレ幼馴染とお風呂に入るお話

『ごめんなさい。付き合い始めた頃は、結城先輩って、そういう人だって思ってなくて』


 どこでなにを間違えたのだろう。

 優しくしようとか、誠実であろうとか、色々と考えて──一つ年下の彼女、中野美鈴のためにちょっとしたサプライズまで用意したのに。

 付き合って一年の節目に切り出されたのは、あまりにも唐突な別れだった。


『そういう人って……』

『……息が詰まるんです、先輩と一緒にいると。過剰に気を遣われてばっかりで、私は籠の鳥かなにかなんですか?』


 彼女と一緒にいて、気を遣わない方が無理だろう。

 だからといって俺──結城凛太郎が彼女を、美鈴を束縛するような真似をした覚えはない。

 でも、それはあくまでも俺の自己認識であって、結局のところ、美鈴にとって俺はそういう、強欲で支配的な、つまらない男だったんだろう。


『えぇ……それだと先輩が可哀想です。私だったら、先輩にそういう厳しいこと言わないし、つらい思いもさせないのに』


 付き合い始めるきっかけになった、一年前を思い返す。

 美鈴は俺の幼馴染である、高円寺仁菜と最近上手くいってないことを相談すると、親身になって話を聞いてくれた。

 そりゃあ、幼馴染だからってなにかとつけてツンケンした態度で接してきて、あれこれ文句をつけてくる怒りっぽい女に、思うところがなかったわけじゃない。


『私は好きです、先輩のこと。照れ隠しなんかしたりしません。先輩を好きだから、今日だって勝負のつもりでここにきたんです』


 美鈴は、眩しいぐらい真っ直ぐだった。

 だから、惹かれてしまった。

 俺なんかのことを本気で好きになってくれる誰かがいるなんて思いもしなかったし、おかげですっかり舞い上がっていた。


 俺たちが付き合う、という選択肢を選ぶのに、そう時間はかからなかった。

 だけど、高校生の恋愛なんてものは熱病の一種だと誰かが言ったように。

 俺たちは、わかりあえてなんかいなかったんだ。初めから。


 美鈴のために買ってきた花束とケーキの箱を取り落として、俺はとぼとぼと雨の中を歩く。

 傘をさす気力もなかった。

 純粋に、ショックで──一歩間違えたら、美鈴のせいだと責任転嫁して怒りに変わってしまいそうな感情を抑え込むのに、必死だった。


「じゃあ、俺がどういう人だったらよかったんだよ……」


 俺が、もっと背が高くて筋肉がついているイケメンだったらよかったのか?

 それとも、学校のテストで常に首席を取れるくらい頭が良かったら?

 あるいは、部活で全国大会に出て優勝できるぐらい、一芸に秀でていたら?


 わからない。わかるはずもない。

 答えは、去っていった美鈴しか持っていないのだから。

 今更追いかけて、「君の理想の人になるから俺を見捨てないでくれ」と縋り付いても、余計に惨めなだけだ。


 そう、惨めだ。

 だけど、惨めだとわかっていても、今ならまだ間に合うんじゃないかと、時折足を止めてしまう。

 美鈴の中で俺との初恋は、とっくに他の誰かに上書き保存されてしまったのだろう。


 俺の中では、消えずに残っているのに。

 どれだけ悔やんだところで、あの時間が戻ってくるわけじゃないことは、誰よりも俺がわかっている。

 だから、受け入れるしかないんだ。何度も自分に言い聞かせて、家に帰ったときだった。


「本当、惨めったらしいわね」

「仁菜……!」


 俺を見下すためかそうでないのか、明かりがついたリビングの中で待ち受けていたのは、短めの髪をツインテールに括った幼馴染だった。


「結局、上辺しか見てなかったんでしょ。お互いに」

「お前になにがわかるんだよ!」

「わかるわよ! 好きって言われて舞い上がって、流れでなし崩しで付き合って……大事にしすぎて束縛するのがあんたなんだから!」

「だったらなんだよ、お前は神様にでもなったつもりかよ! 俺のことなんかもう放っておいてくれよ!」


 ぴしゃり、とリビングの戸を閉めて、俺はいそいそと風呂場に引っ込んでいった。

 わかったようなことを言ってくれる。

 それがたとえ事実だったとしても、傷心中の人間に言うことじゃないだろ、あのノンデリ女め。


 シャツとパンツとバスタオルが、あらかじめ風呂場には置かれていた。

 仁菜がいらない気を利かせたのか、それとも俺が寝ぼけて昨日余計に一セット多く持ってきたのかはわからないけど、渡りに船だ。

 この際、どっちだって構わなかった。


「風呂も沸いてる……」


 シャワーで済ませるか、と思っていたのに。

 仁菜のやつがやってくれたのか?

 まさか。あいつは失恋した俺をダシにして「俺のどこがダメだったのか」を延々と、ねちねちとあげ連ねてくる女だぞ。


 でも、それ以外に説明がつかない。

 だとしたらなんのために仁菜は風呂なんか沸かしてくれたのか。

 最初から、俺がフラれて帰ってくると予想していたのか?


 なら、それはそれで腹立たしいな。

 だったら、意地でも風呂に入ってやるもんか。

 シャワーで済ませてとっとと寝るに限る。幼馴染だからって勝手に合鍵で不法侵入してる仁菜のことなんて知らん。


「……お湯が沁みるな……」


 体を打ちつける優しいお湯のあたたかさに、つい、泣いてしまいそうになる。

 少しだけ荒ぶっていた心が落ち着いて、初めて、俺は失恋を冷静に受け止めることができたのかもしれない。

 未練はある。というか、未練しかない。


 どうやったら別れた彼女と復縁できるのか、きっと寝る前になってスマホで検索し続けるのだろう。


「……そういうところがダメだ、って、仁菜は言いたいんだろうな」


 俺の未練がましさとか、大切にしたいという想いだとか。

 そういうものは全部、裏を返せば「重い」ってことなんだろうな。

 それを嫌って、美鈴は俺から離れていった。


 自業自得もいいところだ。

 頭じゃ、そんな風に自虐できる程度に冷静にはなれてきた。

 でも、心はまだ初恋の重力に縛られたままだ。


 魂が惹きつけられて、離れられない、井戸の底から抜け出さない限り、結局のところ俺はどこまでいっても救われないし、救えないやつなんだろう──と、ぼんやり考えていたときだった。


「あんたのことだから意地でもお風呂入ってないと思ったら、案の定正解だったわね」

「に、仁菜!? お前……っ!」

「なにかしら、バスタオルなら巻いてるけれど」

「そういう問題じゃねえよ!」

「じゃあどういう問題? 暴力的で高圧的な幼馴染は性的に見れないんじゃないの?」


 得意げに、仁菜は勝ち誇った笑みを浮かべた。

 確かに美鈴と付き合うときに大喧嘩して、そんなことを言った覚えはあったけども。

 それはそれとして、思春期の男子高校生の前にほとんど剥き出しの肢体を晒すことの意味がわかっていないのか、こいつは。


「……ぐ、ぬぬ。だとしてお前は、一体、なにをしにきたんだよ!?」

「お風呂に入りにきただけよ」

「先に入ってるやつがいたら遠慮ぐらいするだろ!?」

「遠慮なんて言葉を知らないのがあんたの知ってる暴力的で高圧的な幼馴染なんでしょ」


 過去の俺が放った言葉に次々と論破されていく。

 情けない。あまりにも情けないぞ、俺。

 仁菜は風呂に入るつもりなら、当然シャワーを浴びるわけで。


「ちくしょう、そういうことかよ!」

「あーら、ご明察」


 俺は股間をタオルで隠して、急いで風呂の蓋を開けて浴槽に突入した。

 ざぁぁあ、と、雨が降るようにタイル床を打ちつけるシャワーの音と、調子外れな仁菜の鼻歌を聴きながら、隠れるように、浴槽の隅に体を寄せる。

 なに考えてんだこの女。俺が失恋したと聞いて、徹底的に嫌がらせをしてやるという算段なのか。


「ふぅ……もう、いいかしらね」

「おう、さっさとシャワー浴びたんだから上がれよ」

「なに言ってるのよ。あたしはお風呂に入りにきたの。ほら、もうちょっと詰めなさい。狭いんだから」


 高校生にもなって、幼馴染と同じ浴槽を共有することになるとは思わなかった。

 当然のように、大人に近い体格の二人が入ることなんて想定していないのが我が家のバスタブだから、俺と仁菜で浴槽はミチミチだ。

 タオル一枚巻いているとはいえ、丸みを帯びた柔らかい仁菜の尻が際どいところに当たりかけて、生きた心地がしない。


「なんのつもりだよ、仁菜」

「あんたを笑いにきた、っていえばいいかしら」

「……相変わらず性格悪いな、お前」

「あんたも大して変わんないでしょ、凛太郎」

「……」

「優しいなんて、今どき長所にならないのよ。優しさは束縛の裏返しだって考えてる子もいるわ」


 急に正論で殴ってきたな、こいつ。

 相変わらず性格が悪い。

 だから、俺はこいつを、仁菜を、一人の女の子として見てやることができなかったんだけど。


「……じゃあなんだ、俺なんてなんにもいいとこがないって、誰かに好かれる資格なんてどこにもないってお前は言いたいのかよ」

「そうね。そこまでは言わないけど、束縛が激しくて、未練がましくて情けない男を本心から好きになる女の子なんて、よっぽどの特例しかいないわ」


 手厳しいな。

 でも、結局仁菜の言っていることは全て当たってたんだから、仕方ない。

 束縛が激しくて未練がましくて情けない俺を好きになってくれる女の子なんて。


「──その特例が、あたしよ」

「……は?」


 ぎぎぎ、と油の切れたブリキ人形のような仕草で振り返って、真っ赤に頬を染めた仁菜が、いきなり飛躍したことを言い放った。


「あんたの残念で情けなくて未練がましくて束縛が激しいところも全部好きな女の子は、ここにいるわ」

「仁菜、お前……」

「……悲しかったのよ。照れ隠しにも全然気づいてくれなくて、でも意地になることしかできなくて、ツンケンしてたら先を越されたことが」

「……そりゃそうだろ。上から目線でものを言われたり、暴力振るわれたら、誰だって嫌な気持ちになる」

「……ごめんなさい。でも、好きなのよ。好きだからなのよ。どうしようもなく、あんたのことが」


 ぽろぽろと大きな瞳から涙をこぼして、仁菜は懺悔するように告白してきた。

 ……フラれて、傷心している隙に漬け込んだといえばそうなんだろう。

 結局ここで俺がまた「はい」と言ったら、同じことの繰り返しになるんじゃないかって、そんな不安が口を閉ざす。


 ──でも。


「……ね。あたしの胸の鼓動、聞いて。本気だってわかるでしょ。惨めだけど、あんたが失恋した日を狙い撃ちにすることしかできない女の子だけど……本気なのよ……」


 引っ張られた手が、マシュマロのように柔らかな感じに触れる。

 そこから伝わってくる早鐘は、確かに本物だった。

 頬を染めて、涙をこぼして、仁菜は俺なんかのことを、本気で想ってくれている。


「仁菜……」

「──これがあんたにとってのファーストキスじゃないの、許さない」

「……ああ」

「私のはじめて、全部あげるから。あんたにとっては二回目でも、ちゃんと上書きしてあげるから」


 ──だから、あたしを見て。


 そうして、俺は返事の代わりに、人生で二度目のキスをした。

 仁菜にとっては、人生で初めてのキスを。

 男の初恋は、上書き保存じゃなくて名前をつけて保存だと誰かが言ったけれど、その通りだと思う。


 多分、俺はこれからも時折美鈴のことを思い出して、時折仁菜とも喧嘩するんだろうけど。

 頭の中のハードディスクに帰巣本能として刻まれているから、多分きっと、戻ってこられる。

 仁菜のところになら帰ってこられるという安心感が、確かに傷心を上書き保存して、塗り替えていた。


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転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい!〜落ちこぼれ貴族の私だけが極めている水魔法で無双しながら綺麗な水でお酒を作ります〜


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