夢の果てには
鳥海 摩耶
夢の果てには
高校卒業時にアメリカへ行った彼女。アメリカの音大に入り、プロのアーティストになった。
「久しぶりだね」
10年ぶりに再会した彼女は、あの頃の
「久しぶり。
10年ぶりに呼んだ友人の名は、懐かしい響きだった。
駅からはバスに乗る。2人で一番後ろの座席に座る。夕日が沈んだすぐ後で、西の空にはまだ明るさが残っていた。
「元気?」
「うん。ぼちぼち」
嘘ではないけど、正しくもない。
「帰ったらとりあえず、何か食べよ」
「そうだね」
そう言って窓の外を見ている彼女の顔は、どこか寂しそうだった。やはり未練があるのだろうか。あちらでやりきった訳ではないのだろう。これからという時に、休まないといけなくなったのだから。
彼女は喉の病気が発覚し、活動休止を余儀なくされた。アメリカから帰国を決めたのは、治療以外にも理由があるのかもしれない。あれだけ明るくてきらきらしていた彼女が、変わってしまったのだ。
高校では一緒に軽音をやり、
世界一のアーティストになるよ、そう明るく言って旅立った
くすぶる気持ちへのささやかな抵抗として、私は動画投稿サイトに弾き語りを投稿し続けた。ありがたいことにチャンネル登録者もだんだん増えた。けれど、所詮アマチュアだ。プロになった
だから、
私の家に入ると、
「あんまり変わってなくて、安心した」
「欲しい家具とか、特にないしね」
「あ、このソファ。まだ使ってるんだ。こたつも懐かしい」
「うん」
「ブラックでいい?」
「うん」
「ありがとう。これ、好きなんだ」
そういって笑う
私も
「
「まあ、ぼちぼち」
「そっか。まあ、元気そうでよかった。こうして
「10年は経ってるんじゃない?」
「そっかあ、そんなになるかあ」
それからしばらく、
「
「いきなりどうしたの」
「いや、最近あたしなりにいろいろ考えてることでさ。あたし、プロになるって、ゴールだと思ってたの。プロのアーティストとしてデビューできたら、そのあとは自由だって」
「うん」
「でもね、違った。プロになるって、スタートラインに立っただけだったの。そこから、いろんな人の意見を聞いて、嫌なことも我慢して……。それでいて、自分を見失ったらダメで」
「うん」
「もうさ、あたし限界だったの」
さっきから
とっさに、私は
無意識に、抱く手に力が入る。
「……ちょっと痛い」
「ごめん」
「
そっと
「はい」
「ありがと」
涙声で言って、
「ずっとひとりでさ。あたし。もちろん、マネージャーとか知り合いのアーティストとかはいたけどさ、だけど、ほんとに心許せる人はいなかった。やっぱり、あっちだと私はよそ者だもん。日本だとあたしは一番だと思ってたよ。自信もあった。だけどさ、アメリカにはあたしみたいな人いっぱいいるんだよ。だからさ」
そこまで言って、また
「もういいから」
また
「
ただ泣き続ける
「
「何? 急にどうしたの」
先ほど泣き止んだばかりで、目元を赤くした
今しかないと思った。親友の
「
「……」
「
「
「軽蔑してくれていい。最低だよね。友達の挫折を、喜ぶなんて」
「
「ごめん。
「いいって」
「そういや
そういって、彼女はスマホを出し、動画サイトのアプリを開いた。
「毎日つらかったけどさ、あたし、1つだけ楽しみがあったの」
そこに表示されている動画を見て、私は息をのんだ。
「これ、
私の「弾いてみた」動画。この前アップしたものだった。
そんな。私の動画を、
「分からないわけないじゃん。
「……
「毎週動画投稿してるの、すごいよね。どんな嫌なことあっても、来週また
なんということだろう。嫉妬から始めた動画を、よりにもよって、本人が見てくれていた。嬉しさと、恥ずかしさと、もどかしさが一気に押し寄せる。
私の目元を、
「
他でもない、わたしのコンプレックスの根源だった、その
「わかってる」
そう言った私の声は、ぐしょぐしょだ。
今度は、
「ありがとう。
「ありがとう」
泣き疲れて、私はベッドソファに大の字で沈み込んだ。へたっているけど大きなソファの柔らかさが、今は心地良い。
もう泣き止んでからだいぶ経った。まどろんだ意識のまま、天井に向かってふうーっと息を吐く。先程までの感情の
「それ、何のアニメ?」
「ああ、『ソラウタ』だよ。ラノベ原作のアニメ」
「知らないなあ」
「
「そういや、アメリカでも日本のアニメってやってるの?」
「やってるよ。めっちゃ人気。日本で流行ってる作品はだいたいアメリカでも流行ってる。でも、『ソラウタ』はやってなかったかな」
「そうなんだ。なんていうか、ガラパゴスってやつ?」
「難しい言葉知ってるね」
「
「ありがと」
「まあ、そうだよね。うん。 アタシはアメリカじゃだめだったけど、別にそれだけだし」
「やっぱり、気にしてるよね。ごめん」
「ううん。さっき泣いたからすっきりした」
そういう
「
「いいの?」
「いいよ。あの頃が一番楽しかった。だから、楽しいことは、絶対上手くいく」
「
大好きな
夢の果てには 鳥海 摩耶 @tyoukaimaya
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