ばあさんをもらった話

青切 吉十

ばあさんをもらった話

 むかし、むかしのことだった。


 ある村に与吉という男がおったそうな。

 この与吉、おさないころにおっとうとおっかあを亡くしてから、貧しくさみしい暮らしをしておった。

 そんな与吉を、となりの家のよねというばあさまは不憫に思い、「あんなみなしごに優しくしてなんになる」と、息子に嫌味を言われながら、飯を分けてやったり、縫い物をしてやったりと世話を焼いていた。


 よねばあさんのおかげもあって、与吉はなんとか暮らしていた。

 しかし、ある日、そのよねばあさんが六十を迎えて、山に行くことになった。むかしのことで、うばての風習が残っていた。

 息子はせいせいとした顔つきで、「神さまのところへ行くんじゃ。めでたい話じゃ」とよねばあさんを山に捨てに行こうとした。

 それを止めたのが、与吉だった。

「おらがばあさまの世話を見る。おまえの家には迷惑をかけねえ。おらに、ばあさまをくれろ」

 そういうと半ば強引に与吉はよねばあさんを引き取った。話を聞いた村の長者は、与吉とよねばあさんをあわれに思い、「もとの家に迷惑をかけないのならば」という約束で許した。


 それからふたりは貧しいながらも、本当の身内のように楽しく暮らした。

 しかし、人には寿命があった。よねばあさんは臥しがちになり、やがて、仏さまのところへ行く日が近くなった。

 それを与吉から聞いた息子は、「もう、おらの家の者じゃねえ。だから、あのとき、山へ捨てておけばよかったんじゃ。与吉、葬式はおまえのところでやれよ。金があるのならな」と言い放った。


 よねばあさんの体は弱りきり、とうとう、最後のときが来た。

 寝ているばあさんの傍にいたのは与吉ひとりきりだった。


 それは、日が沈もうとしているときのこと。とつぜん、ばあさんが何かを口にしはじめた。

 最後に何か言いたいのかと、与吉が耳を近づけると、次のような祝いの言葉を、ばあさんが口ずさんでいた。

「めでたや。めでた。与吉が長者になる。与吉が長者になる。おらの与吉が長者になる。おらの与吉が長者になる。めでたや。めでた」

 何のことかわからぬ与吉が「どういうことだい。ばあさま」とたずねたところで、ばあさまはこと切れた。

 すると、どういうわけだろう。

 薄暗い闇夜の中で、よねばあさんの体が輝きはじめ、徐々に体が黄金に変わっていった。


 一夜で大金持ちになった与吉のところへ、話を聞いた、よねばあさんの息子がやってきて、黄金に輝く遺体に手を合わせることもなく、「全部とは言わねえ。腕の一本はよこせ。おらの親だ」と言った。

 優しい与吉は考える間もなく、「ええよ」と言い、遺体に手を合わせてから、のみで右肩を叩いた。

 取り出した右手を与吉が息子に渡したときのことだった。

 あれあれ、なんということであろうか。

 黄金の右手はその輝きを失い、屑鉄になってしまった。

 欲張りな息子は、その場にへなへなと倒れ込んだ。


 それから、与吉は、手に入れた黄金で田畑を買い、信心深い嫁をもらった。

 やがて、近隣一の長者となり、いつまでも、いつまでも幸せに暮らしたとのこと。

 めでたし、めでたし。


 愛知県の岩井村に伝わるふしぎなお話でした。 

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