選ばれなかったけど、忘れられなかった。
ねねちゃん
第1話
彼女と俺は、
最初から特別だったわけじゃない。
知人の飲み会で、
年に数回、顔を合わせる程度。
挨拶をして、少し話して、
またそれぞれの生活に戻る。
四年間、
近づきすぎず、
離れすぎず。
その距離が、
心地よかったのは、
きっと彼女のほうだった。
俺は、
会うたびに少しずつ、
彼女を特別だと思うようになっていた。
彼女は、
それに気づいていたと思う。
言葉にしなくても、
視線や、間や、
呼び方の違いで、
十分すぎるほど。
だから彼女は、
あるとき、
別の女性を紹介してきた。
それは、
親切というより、
整理だった。
俺を突き放したかったわけじゃない。
ただ、
この関係を
自分の手の届く場所に
戻したかった。
もし俺が、
その女性とうまくいけば、
彼女は安心できる。
自分は誰も傷つけていない。
誰にも選ばれていない。
彼女にとって、
一番楽な結末だった。
けれど、
俺はその話を断った。
理由を聞かれて、
正直に答えた。
「悪い人じゃないけど、
違うと思った」
その瞬間、
彼女の中で、
何かが静かに崩れた。
――逃げ道が、なくなった。
しばらくして、
彼女はクリスマスに
俺を誘ってきた。
特別な意味は、
半分だけ。
恋人として選ぶ気はない。
でも、
完全に失うのは怖い。
街が浮かれ、
誰もが誰かと過ごす夜。
その夜に一人でいることは、
彼女にとって
想像以上に、寂しかった。
そして何より、
自分を想ってくれる人と過ごす
安心を、
手放したくなかった。
彼女は、
選ばないけれど、
選ばれていたかった。
距離が縮まり、
言葉が揺れて、
俺は告白した。
彼女は、
驚いていた。
予感はあった。
でも、
実際に言葉にされると、
もう曖昧には戻れなかった。
一度、断った。
それは本心だった。
けれど、
それでも想われることを、
完全には拒めなかった。
受け入れなかったのは、
責任を負いたくなかったから。
拒まなかったのは、
独りになるのが
怖かったから。
その曖昧な関係は、
十か月続いた。
彼女にとってそれは、
愛ではなく、
安心だった。
連絡をすれば会える。
何も決めなくても、
そばにいてくれる。
彼女は、
その居場所を
失いたくなかった。
だから、
何も言わなかった。
言わなくても、
関係は続くと
信じていたから。
けれど、
終わりは突然来た。
俺が、
何も言わず、
連絡もしなくなったとき。
彼女は、
初めて理解した。
この人は、
ただ想ってくれる人じゃない。
選ばれなければ、
去る人なのだと。
最後に連絡をしたのは、
結婚が決まったあとだった。
優しさではない。
確認だった。
かつて自分を想っていた人が、
もうどこにも
自分を置いていないこと。
それを確かめて、
彼女は安心した。
これで、
誰も悪者にならない。
思い出は、
きれいなまま残る。
選ばれなかったけど、忘れられなかった。 ねねちゃん @19450815
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