王道展開が嫌いなので王道ヒロインをやんわり拒絶したらとんでもないことになってしまった

馬面

第1話 王道ヒロイン、死す

「お前ってさ、藤宮と付き合ってんの?」


 同じクラスの男子が教室で突然そんなことを聞いてきたのが全ての始まりだった。


 藤宮ふじみや陽葵ひまり


 二年前、中一の時に同じクラスになって以来、彼女とは何かと縁があった。


 最初は放課後の何気ない会話から始まって、体育祭の実行委員や文化祭の仕入担当など妙に役割が被って話す機会が増え、修学旅行では家族への土産で悩んでいるところを鉢合わせしてお互い白熱した意見交換をして、夏祭りの時には偶然が重なって一緒に花火を見ることになり――――気付けば周囲からそういう目で見られるような仲になっていた。


 注目が集まるのは仕方ない。何せ彼女、クラスでも随一の人気者だから。


 トレンドのシースルーバングをガン無視したナチュラルな黒髪ロング、画像修正しなくても十分大きくて綺麗な瞳、媚びたところが一切ない爽やかな笑顔、それでいて飾らない性格……挙げたらキリがないくらい人に好かれる要素が詰まっている。


 その整った容姿とスタイルの良さから、読者モデルの仕事も不定期に行っているらしい。けどそれは親に言われて仕方なくやっているだけで、芸能の道に進むつもりはないとのこと。


 まさに王道ヒロインだ。


「いや全然」


 でも俺は昔からどうにも王道が好きになれなくて、彼女に対しても大変申し訳ないけどちょっと苦手意識がある。


 イタいのは重々承知しています。でもそういう自分になってしまったんだから仕方ない。


 ポテチはうす塩よりコンソメ派だし、麻辣湯より酸辣湯。ジャンプよりサンデー。スマホのOS……は拮抗してるからどっちでも。とにかく王道とされるものに対して一旦距離を置く習性になってしまった。


 正直に白状すると、自分の感性に従ってる訳じゃない。王道以外のものを選択する自分に酔っている。実際にそうなんだから自分に嘘ついたって仕方ない。


 俺は多分、どうしようもなくミーハーなんだと思う。だから特に理由もなく王道に惹かれてしまう気質がある。でもそんな自分が嫌で抵抗する為に王道を避けて来た結果、脳より先に心が拒絶するようになってしまった。


 王道の良さがわからない訳じゃない。だから王道を蔑むとか下に見るとか、そういうのは一切ないんだ。ただ大勢の人たちが揃って同じことをしているのを見るのは子供の頃から苦手だった。綺麗に揃えば揃うほど気味が悪く見えてしまう。アリの行列からも思わず目を逸らしてしまうくらいに。


 結構極端な不快感だったから、親が心配して一度心療内科で診て貰ったこともある。


 その時の医者は笑いながら『王道不安症だね』と言っていた。


 勿論、こんな病名はないし単なる冗談だったんだけど、余りにも不快な感覚や考えへの嫌悪が強い場合は正式な病名が付くらしい。俺の場合はその水準には程遠く、ごく普通の嗜好の範囲。昔はこういうのを厨二病とかサブカル野郎って言っていたらしいけど、今はなんて言うのかは知らない。王道拒否勢とか?


 いつか高校を卒業して大人になってこの考えを改める日が来るかもしれないけど、今はとにかく世の中の王道に対して壁を感じる。エル・キャピタンくらいの分厚さだ。


 だから王道ヒロインも好きになれない。これは漫画もアニメも現実も同じ。誰にでも好かれる優しい人間に対して魅了を感じないんだ。別にその人が腹黒だとかは全く思ってないんだけど……


 多分これも、自分がそういう存在になれないことへのコンプレックスなんだろうな。


 勿論、こんなことは他人には言えない。


「え、マジ?」

「あの感じで全然?」

「嘘つけ! 放課後一緒にメッチャ話し込んでるの見たからな!」


 ……なんか増えたな。こいつら耳良すぎだろ。


「俺も見たんだよ。体育祭が終わってから二人でハイタッチしてるの」


「いや……あるじゃん。なんかテンション上がってそういう感じになる時」


「じゃあ文化祭で一緒に余所のクラスの出し物見てたのは何なんだよ」


「買い出しの途中で招待されたから行っただけ」


「修学旅行ン時にメッチャ盛り上がってただろ!」


「だって生八つ橋買わないのおかしいって言うから……あれ別に美味くないのに」


 一通り否定し終えると、周囲の男子から同時に溜息を吐かれた。


「結構休み時間とか話してるよな? 下心とか全然ねーの?」


「ない」


 正直言うと、ないこともない。


 もしかしたら藤宮の友達や知り合いの中に、ちょっと癖のある俺好みの女子がいるかもしれない。その子と知り合って仲良くなれるかもしれない。そういう空想をしたことは……ある。


 でも藤宮に失礼だから普段は極力考えないようにしている。ただ藤宮本人に対しての下心はない。


 ウマが合う、って感じも特にない。趣味が合う訳でもない。ただ話しかけられれば無視する訳にはいかないし、向こうにばかり話かけさせるのも悪いからこっちからも話題を振る。


 そういう毎日を積み重ねてきて今の関係に至る。


 こいつらが言いたいことはわかってんだよ。俺如き普通の中学生男子が藤宮みたいな人気者の女子と接する機会が多いのに、それで好きにならないのは不自然だし身の程知らずだってことなんだろう。


 知らねーよ。


 大体な、全員が全員王道ヒロインを好きになる方が不自然なんだよ。別にいいだろ斜に構えても。ボクサーだって大体斜に構えてるだろ? それが人間の本能なんだよ。


「じゃあ、藤宮とお前って何なん? 友達?」


「……普通にクラスメート」


「うわマジかよ。ヤベーなお前」


 俺の席を包囲していた男子がやたら沸き立つ。


 もう彼らの名前も思い出せない。


 薄情かな? でも仕方ないだろ。この翌日以降、全く話さなくなったんだから。


 この件を境に、俺はクラスで孤立してしまった。






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