初乃 至閉



私は事務所にいた。

旅数のメールを確認し、受注された内容が保存されたUSBを、先輩と共に別の施設へ届ける役目を与えられていた。

私は新人で、決まりとして一人では行けない。

施設は岩山の中にあると聞かされていた。


出発前、階段の傍の部屋を横切ると、サクちゃんという女の子が、男の子とピンクのリボンで遊んでいた。

笑い声はあったはずなのに、なぜか音だけが遠かった。


階段を降り、外へ出ると、何人かの人が目的もなく彷徨いていた。

先輩は「あとで説明する」とだけ言い、その人たちをどこかへ連れて行った。

理由は聞いてはいけない気がして、私は黙って待っていた。

それが終わると、私たちは再び歩き出した。

岩山の道は険しいはずなのに、思ったよりも早く別の施設に着いた。


そこは、私が元いた場所と驚くほど似ていた。

建物の形も、事務所の配置も、中にいる人間の雰囲気さえ同じだった。

ただ一つ違うのは、

先輩が「カーテンを必ず閉めて」と、理由もなく念を押したことだった。

男がベランダに出てアコースティックギターを弾き、静かに歌っていた。

廊下は薄汚れ、小さな台所と冷蔵庫の前で、二人の男が無言で太巻きを食べ続けていた。

どの光景も非日常的で、どこか現実から浮いていた。


外へ出ようとした瞬間、

ふと視界の端に、元いた施設の階段の傍の部屋が映った。

そこには、さっきまで遊んでいたはずの男の子が、生きていないものの姿で横たわっていた。


私は目を逸らし、そのまま階段を降りた。

すると、元の施設にいたサクちゃんにそっくりな女の子が、泣きながら現れた。

彼女は何も言わず、私の手のひらに、

あの男の子と遊んでいたピンクのリボンを置いた。


リボンはボロボロで、

結び目もほどけ、元の形を失っていた。

私はそれを握りしめ、何かを理解してしまいそうになった瞬間、目が覚めた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初乃 至閉 @hatsunoshihei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画