リメイン・ライト──特別対策室捜査譚4──

八重森 るな

プロローグ

 ファストフード店は、数組の客が食事をとっていた。

 店内放送も相まって、騒がしい。


 その中に、秋元凛子もいる。紫のパーカーに、ジーンズ姿だ。

 土曜の昼下がり、彼女はふらりとウィンドウショッピングに出かけた。

 休日だが、特にすることもない。欲しいものがあるわけでもないが、家にこもっているよりは良かった。


 空腹を覚えて、ひとりで入れる店を探したら、ここになった。

 そもそも秋元は、少し臆病だ。入ったことのない店にひとりで入るのは、なんとなく居心地が悪い。

 うろうろと色々な店を見たものの、結局いつものチェーン店に入った。


 食べたものも、いつもと同じ。目の前には、食べ終わったハンバーガーの包み紙と、ドリンクのカップが置かれている。


 ひとりでぼんやりしていると、いろいろな音が耳に入ってくる。


「旦那が亡くなってからというもの」

 隣の席で話をしている高齢女性の二人組。声が大きいので、会話が自ずと聞こえてくる。

「寂しくてねぇ。私、旦那のこと大好きだったから」

「あんた、見る間に弱ったもんね。ダメよそんなじゃ」


 見るともなく、隣のふたりを見る。普通の高齢者だ。

 ひとりは手編みのショールを肩からかけていて、もうひとりも毛糸の帽子をかぶっている。


「好きな人と一緒になるのも、良し悪しよ」

 夢見るような顔をした帽子の女性が、下を向く。

「どうしても別れは来るものだからね」


 そんなものかぁ、と、秋元はため息を吐く。

 好きな人と一緒になれても、最終的には死別が待っている。

 人間、誰しも死を免れることはない。


「それでもあんたは幸せよぉ」

 ショールの女性がため息を吐くように呟く。

「そんだけ好きな人と添い遂げられたんだからねぇ」

「幸せなのかしら。身を裂かれるような思いがするのよ?」


 始まりがあれば、必ず終わりはある。

 最終的な死別なんて、最上級の幸運だ。気が合わなくて別れることもあるだろうし、どちらかに好きな人ができてしまうこともある。

 出会いは別れの始まりだ。


 外は春真っ盛りだ。

 桜の花を、メジロが忙しそうに回遊する。


 人間の世界のことなんか、知る由もなく、彼らは一心不乱に蜜を舐める。まるで別の世界のことみたいだ。


 ──私も、出会ってしまった。

 ならば、どうなるのだろう?この気持ちは、この想いは。


 窓から入ってくる陽光が、暑いくらいだ。

 今、あの人は何をしているんだろう?

 秋元は、街の喧騒を眺めながら、そんなことを考えていた。

 地面には、桜の花びらが絨毯のように敷き詰められている。

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