可愛いものだけ溺愛して生きていきます

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

01.婚約を解消して自由の身だ!

 美しいものは好きだ、可愛いものも大好き。どちらも心を癒してくれるし、満たしてくれる。その両方の要素がない男を婚約者に据えた国王陛下を恨むくらいには……心が荒れていた。


「貴様のようにガサツな女など御免だ」


 無理やり参加させられた夜会の広間で、第二王子イラリオが叫ぶ。おっといけない、王子には「殿下」と呼称するのが決まりだったか。はっと鼻で笑い、それで? と斜めに構える。


「その態度はなんだ! 不敬だぞ、追放してやる! この国を出ていけ!!」


 追放? その単語を聞いた瞬間、私の目は輝いた。この国を出て行っていいのか……そうか、そんな選択肢があるとは気づかなかったな。だったら早く出ていこう。


 まだ喚こうとするイラリオ王子の鼻先に、鞘の先を突き付ける。といっても、儀礼用の剣だ。さらに鞘を払っていないので、剣先を向けたわけでもない。失礼は失礼だろうが、指さした程度の罪だった。国を出ていくなら、不敬罪も問題あるまい。


「反逆罪で処刑してやるっ! この男女が!!」


 息切れしながら叫んだ王子を、控えていた侍従が支える。彼の気の毒そうな眼差しに微笑んでおいた。頬を赤く染める姿が初々しい。鞘を突き付けたまま、私は一方的に宣言した。


「ベアトリス・ヒメノ・ウルティア。ただいまをもって、第二王子との婚約を解消し自由の身となる!」


「よく言った! ベアトリス、我がウルティア一族はアルダ王国と決別する。ともに国を出よう!」


 後ろから父上が同意する。ウルティア辺境伯家は、アルダ王国から離脱するのだ。母上は満足げに頷いて、手を叩いた。誘われたように数人の貴族が拍手し……第二王子に睨まれて身を小さくした。仕方ない、我が辺境伯家ほど気合いの入った一族は滅多にないからな。


 だが、睨まれても拍手をやめない者もいた。ウルティア辺境伯領は国境に沿って、広大な領地を有している。中には山脈や森も含まれるため、人が住める地域はさほど大きくないが……隣国と半分にして管理する砂漠もあった。


 広すぎる領地を管理するため、傘下に伯爵家が一つ、子爵家が五つ、さらに九つもの男爵家が存在する。彼らは分家であり、ウルティア一族として認識されてきた。誇りも忠誠も生活も、すべてが辺境伯家とともにある。


「え? あ、その……」


 あまりの展開に、咄嗟に言葉が出ない大臣を残して背を向けた。長いポニーテールが揺れる。ウルティア家に代々伝わるドレスの裾が翻った。騎士服の上着が、裾の膨らんだコートのように風をはらむ。立っていれば前スリットのスカートにも見えるが、内側は騎士服そのものだった。


 常に戦場に立ち、他国との矢面で戦う。その覚悟が、ウルティアの女性にこのドレスを考案させた。母上も同じタイプのドレスを纏い、細い腰にレイピアを下げている。短剣を腰に下げ、大剣を背負った私が歩き出すと……父上や母上が斜め前に立つ。


 着飾った貴族の中から、一族の男女が進み出た。出ていく数は、この国の貴族の二割に当たる。この意味を理解できない第二王子は、さらに叫んだ。


「貴様ら! 勝手な行動は許さん。戻れ!!」


 誰一人敬意を払うことも、一礼することもなく。淡々と王宮の外へ出た。といっても、邪魔した騎士の一団を弾き飛ばして……だが。


「父上、よろしかったのですか?」


「構わんよ、俺が忠誠を誓ったのは先代だからな」


 にやりと笑う父に、私もよく似た顔で笑った。自由になったことだし、明日から何をしようか。

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