141.女傑の夫らしく ***モンタネール

 モンタネール辺境伯家、そう呼称することを許した。小国ながらも、強国として名を馳せた一族の誇りは失っていない。辺境伯という肩書きは、事実上侯爵と並ぶ。重要性という意味では、公爵にも肩を並べると自負してきた。


「貴様のようにガサツな女など御免だ」


 夜会の豪華なシャンデリアの下で叫んだ第二王子に、眉根を寄せる。不快だと示しながら、ウルティアの長子を眺めた。美丈夫と表現したくなる、凛々しい立ち姿だ。かの一族もモンタネールと同じ、戦いと誇りを重視してきた。


 守る領地は互いに長細く、アルダ王国を守るように包んでいる。その意味を理解しない阿呆が、一人でお道化ていた。先祖の偉業を台無しにしていると気づかない、愚者が次の世代か。アルダ王国も終わりのようだ。


 隣にいる妻カランデリアが、口角を持ち上げた。魅惑的で美しい笑みだが、その顔で何人をほふったのか。恐ろしさにぞくっと背筋が震える。


 これ以上カランデリアを怒らせないほうがいい。そう思う反面、本気になった彼女を見たいと願う。夫として、当主補佐として、僕は失格なのだろう。そこがいいと妻が言ってくれたとしても、これで一族が解放される未来があるとしても。


「その態度はなんだ! 不敬だぞ、追放してやる! この国を出ていけ!!」


 ああ、ついに最後の一手が差された。婚約が解消されたと喜ぶのは、顔に傷のある美女だ。化粧で隠せる傷を、わざと残している。あれは王族への牽制もあったのだろう。


「よく言った! ベアトリス、我がウルティア一族はアルダ王国と決別する。ともに国を出よう!」


 興奮した様子で、ウルティア一族の総領が同意する。アルダ王国の終焉が見えてきた。


「ねえ、あなた。私達も我慢することはないと思わない?」


 ウルティアが消えたら、王国の防衛ラインの半分が消滅する。海側を担当するモンタネールへの負担が増える計算だった。国の外周をすべて、辺境伯家に任せるのは危険だろう。


「モンタネール伯爵家は今日をもって独立します」


 カランデリアの赤い唇が毒を吐き出す。まさにアルダ王国滅亡の毒だった。ウルティアが消え、モンタネールが独立したら……アルダ王国は丸裸になる。戦いの経験を持たず、剣術ごっこしか知らぬ騎士団が残るのみ。


「独立か、忙しくなるね」


 僕にできるのは妻を支えること。彼女がウルティアへ滞在すると聞いて、すぐに戦支度を命じた。アルダ国王は単純で我慢が利かない。国を守る鎧である二つの家が離脱すれば、どちらかに攻め込むだろう。


 ちょっとやりすぎたみたい。そんな手紙が届いたのは、カランデリアが出発して一週間後。行き掛けの駄賃とばかり、アルダ国王を煽ったとか。やれやれと苦笑いしながら、後始末のための兵力増強を急がせた。彼女の尻ぬぐいは、夫たる僕の特権だからね。頑張ろう。

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