筆名は、心の宝物と父が書いた余計な一文から

朝羽岬

筆名は、心の宝物と父が書いた余計な一文から

 私には、忘れられない景色があります。


 小学四年生の時、父方の兄弟家族一同と三重県の鳥羽市に旅行したことがありました。水族館に宴会、カラオケ。従妹たちと雑魚寝。常とは違う環境に、すっかり興奮してしまった私は、眠れないまま一夜を明かしたのでした。


 泊まった部屋は、海に面していました。海あり県に住んでいるといっても、家から海を見れるところではありませんから、ずっと窓に貼り付いて、海を眺めていたのです。


 やがて、空が白み始めました。波が光の道を作る様は、子供の私の心の宝物となったのでした。


 ところで、筆名はいつ決まったのかというと、高校生活の終わり、もしくは進学後の生活に馴染んだ辺りだったでしょうか。高校時代の漫画描きの友人から、私が原作担当、友人が漫画担当の同人誌を作らないか、という話が持ち上がったのです。


 この友人とは、高校一年生の時に仲良くなりました。この子がきっかけで、友達の間で創作し合い(と言っても、当時は専ら漫画です)回し読みするのが流行りました。私が今、小説を書いているのも元はと言えば、この友人に勧められたからに他なりません。筆名も、考えろと言われたから考えました。流される人生です。


 しかし、考えろと言われても、どうしたものか。好きな漫画家を参考にしても良かったのですが、ここで自分の本名の由来を思い出しました。


 私が生まれた産婦人科では、出生当時の体重や足形などを冊子にして渡してくれるサービスを行っていたようです。その冊子には、生まれた時の様子や名前の由来が、父の言葉で書かれていました。そこには、最後にこう書かれていたのです。


『本当は、美咲、と名付けようと思ったが、美しく咲かなかったら困ると思って止めた』


 冊子を見つけた当時、この一文を読んで、失礼な、と思ったのです。違う名前にしたのなら、わざわざ付け加えなくてもいいではありませんか。


 いっそのこと、にしてやろうと思ったのです。


 しかし、自分でも、美しく咲いているとは思えません。でも、意地でも『みさき』にはしたいのです。


 その時、心の宝物が開きました。子供心に、輝いて美しいと思った、あの光景です。


 厳密に言うと、岬ではありませんでした。鳥も、飛んではいませんでした。それでも、あの朝の光景を思わせる名前にしたい、と思ったのです。


 筆名は決まったかと電話で問う友人に話すと、いい筆名だと言ってくれました。『岬』という名前に、悪い人はいないと。


 友人は、キャプテン翼の岬くんの大ファンだったのです。


                              〈了〉

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筆名は、心の宝物と父が書いた余計な一文から 朝羽岬 @toratoraneko

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