【声劇台本】素行不良の優等生
澄田ゆきこ
本編(タイマンバトル)
〇学校、廊下(SE:チャイム)
まひろ:(背伸びしながら)はー、ホームルーム長かったぁ。
みっきー:やっと帰れるねえ。――あ、阿久津くん、第二ボタン、あいてるよ。
阿久津:うん? あ、ほんとだ。なんで勝手に外れるかな。……まあいいや、あと帰るだけだし。
まひろ:おーい、指導主任に見つかったらまた怒られるぞー?
阿久津:別に怒らせておけばいいだろ。あいつ、無意味にキレるのが趣味みたいなもんなんだから。
みっきー:ははっ、そういえば今朝も廊下で捕まってたっけ。
まひろ:ったく、そんなだから職員室で「素行不良の優等生」とか言われるんだよー?
阿久津:勝手に言わせとけよ。どうせ内申は一般受験組には関係ねーし。つか「勉強の前にいい加減まともにボタンとめれるようになれ」ってどういう論理だよ。ほんとあいつ無理だわ。死んでほしい。
まひろ:あくつもあくつだと思うけどねー? そのあと舌打ちして「これで満足ですか?」とか鼻で笑ってさあ。態度悪すぎ。
阿久津:だって勉強よりボタンだのネクタイだのって筋通ってなくね? クソすぎんだろマジで。制服の着方で大学合格するんですかって話。馬鹿すぎ。
みっきー:阿久津くん、今日は一段と口が悪いねえ。――あ。
まひろ:げっ、指導主任! フラグ回収ってかあ? うわ、完全にこっち見た!
みっきー:照準が合ったねえ……。
阿久津:(溜息、舌打ち)だるっ。これからバイトあんのに……。
まひろ:(小声)……ねえ、みっきー。阿久津、今日なんか不機嫌じゃない?
みっきー:(小声)うん、なんだか波乱の予感がする……。
まひろ:(小声)ひッ、あくつが呼ばれた……っ!
〇阿久津vs生徒指導主任、タイマン開始(遠巻きに見るまひろ&みっきー)
(SE:開始ゴング)
まひろ:なんかおれら、咄嗟に逃げてきちゃったけど……。
みっきー:うーん、まずいな。阿久津くんが最初にわざと無視したことで、先生もスイッチが入ってる……。
まひろ:でた、「服装の乱れは心の乱れ」「どうせ勉強も中途半端」……! あーあー先生、人格否定止まらないじゃん! ほら、あくつ「はぁ?」って顔になった!
みっきー:阿久津くんはこういう論理破綻に敏感だからな……。
まひろ:わああああ先生! あくつに「親の顔が見たい」はだめだって……! それだけは!
みっきー:あー……ここまで来ると、否応なしに臨戦態勢だ。阿久津くん、自衛のための攻撃モードに入るね。
まひろ:何冷静に解説してんのさ……。うわ、あくつニヤっとした! あの薄笑いはやばいやつ!
みっきー:最悪のカードを連続で切ったからねえ……。
阿久津:へえ……。先生、教育学部って論理飛躍を習うとこなんすね。俺、はじめて知りました。(わざとらしく感心したように)
まひろ:ぎゃーー出た冷笑! 皮肉でぶっさした!!
みっきー:人格否定のカウンターに職業アイデンティティの否定をぶつける……。うん、すごく阿久津くんらしい。
まひろ:うわー効いてる効いてる。先生、顔真っ赤だもん……。今にも怒鳴りそうじゃん……。
みっきー:阿久津くん本人は淡々としているぶん……余計に相手が滑稽に見えるね。
まひろ:せ、先生! 「教師に対してその態度はなんだ」って、この期に及んで教師マウント……!?
みっきー:きた……ここからだよ、本領発揮……。
まひろ:やめてよぉ……。
阿久津:(大袈裟に溜息をつき)教師、教師、……って、あんたそれしか威張れる材料ないの? かわいそ。何もないやつほどそうやって無条件に尊敬されたがるんだよな。そういうことしてるから尊敬されないのわかんないんだ。……ほんと救えないっすね。まだ人生長いのに。
まひろ:ひぃぃ! あくつの言葉が刃物すぎる!!
みっきー:うん……阿久津くんの理路整然とした毒は本当に強烈だ。権威依存を暴いて「尊敬されない理由は自分にある」と突きつけ、最後に突き落とす……。
まひろ:先生、「舐めた口をきくな」しか言えないの、もう完全に負けてるじゃん!
みっきー:うん、権威しか武器がないのを指摘された直後だからね。……でもさ、これ、阿久津くんは、本当は父親に言いたかったことをぶつけてるだけなんだよな……。
阿久津:で、なんでしたっけ。服装の乱れは心の乱れ? 心の乱れの定義ってなんですか? 先生はどんな意図でこの言葉を使おうとしたんですか? 僕わかんないんで教えてください。――まさか単に従順じゃないって意味じゃありませんよね?
まひろ:あくつぅぅ! 煽りながらオーバーキルすな! ほらー先生口ごもった!
みっきー:あーー、ここでソクラテスメゾット……!
まひろ:ソクラテスメゾット?
みっきー:相手に言葉を定義させて、自分は干渉せずに矛盾を浮き彫りにさせるんだ。「わからないから教えてください」って姿勢をとるから対話に見える。実際は答えられないことを見越して、沼に引きずり込んでるんだけどね……。
まひろ:えっっっぐ! これ先生はなんて答えるんだ……? おま、「社会に出てから困る」ぅ!? 定義すら出てきてない! 墓穴ほってるよぉ!
みっきー:きれいに論点をずらしたね。脅しに逃げた。
阿久津:へえ、社会? ここって社会じゃないんだ。僕たちは社会の一部じゃない。なるほど。未成年のうちは人権もないし、大人の言う通りにしないなら何されても何言われても仕方ないってこと?(あくまで確認するトーン)
まひろ:社会って言葉を逆手にとってきたぁ!?
みっきー:先生が雑に使った抽象的権威の象徴としての「社会」を完全に剥がしてきたね。
まひろ:なんでこんな皮肉が即座に出んの!? こわっ!
みっきー:皮肉っていうか……突き返しだよね。「お前は俺を人間として見てない」っていう。
まひろ:ひぃ……。おおっと、ここで先生から「屁理屈」って言葉が出ましたー! これは論理で返せなくなった時の常套句……!
みっきー:これはまた、一段階温度が下がるやつだ。
阿久津:(溜息をつき)おめーこそ恥ずかしくねーのかよハゲ。まともに理由も言えず感情だけで威圧して、たかが生徒、たかがガキ相手に通らなかったら逃げて逃げて、なのに体裁だけは守るのに必死? そんなことがしたくて教員免許とったの? だっさ。
まひろ:うわあああああハゲはあかん!
みっきー:冷笑から切り捨てにフェーズが移行したね……。論理の土台を相手が投げたから、全部をゴミ箱に放り込んだ……。
まひろ:ただいま、廊下の体感気温が氷点下であります……。あっ、出た! 最終奥義「保護者を呼ぶぞ」だ! 先生は万能カードだと思ってるやつ!
みっきー:あーーーー。これは阿久津くんのトラウマにも直で踏み込みにいくやつだ……。
まひろ:それな!?
阿久津:ふーん、なんて言って呼ぶんすか?
まひろ:ひいい! ほら挑発した!
みっきー:これ、悪く言われることに慣れすぎてるから出る余裕なんだよな……。相手の言葉を先取りして見下ろすことで優位を保ってる。
阿久津:ふむ。教師に逆らう問題児。なるほど。……で、とうに親権者じゃなくなって家裁の命令で俺に近づけないクソ暴力親父と、十歳で俺を置いて出てって再婚して乳児育ててる母親、どっち呼ぶんすか?
まひろ:あああああそれ禁止カード! もうこれ自爆テロじゃん!(泣きそう)
みっきー:……踏み込まれたくない領域に踏み込まれたから、あえて抉り返したんだ。自分の傷を盾にして。
まひろ:冷静な風だけど怒りで自暴自棄になってるだろあくつ!
阿久津:呼ぶんだろ、先生。俺が問題児だって言いつけるんだよな? 自分の代わりに俺を叱って反省させるために。俺がしおらしくなって言うことを聞く可愛い生徒になるように。なあ。そうなんだろ? 早く呼べよ。(静かに迫る)
まひろ:ほらあああやっぱり! やけっぱち!
(先生、激昂して壁をグーで叩く)
まひろ:ひぃっ!? なになに!? 先生壁殴った!?
みっきー:うわ……。最悪だ……。
阿久津:(鼻で笑い)ほんと小者っすね。しょーもな。その程度でこっちを威圧できると思ってんだ。喧嘩売る相手も売り方も間違ってるよ? こっちは親父に殴られて何度も死にかけてるんで。おかえりの代わりに顔面に灰皿とんでくる家だったし。先生の想像力じゃわかんないかもだけど。
みっきー:あー……。
まひろ:……やばいって、これ以上は本当にやばいって……。せ、先生、「被害者ぶるな」って……! 火に油! いや傷口に塩!?
みっきー:一周回って一番だめなセリフが出てきた……。
まひろ:あくつの目! 殺気えぐ……っ!
阿久津:あーあ。それ聞いたことあるわ。思考回路が貧困なのか語彙が貧困なのかどっちなんでしょうね、このテンプレ。どっかのアル中クソ野郎の言い回しとそっくり。子どもとか殴らないように気をつけてくださいね、先生。……ま、もう手遅れかもしれませんけど。
まひろ:あくつ……!
みっきー:完全に殺しにいったね。……阿久津くんは、父親と同じ轍を踏みたくないから、暴力は絶対に使わない。その代わりに言葉で刺す。
(沈黙)
阿久津:……はあーあ、くだらな。時間の無駄すぎ。もういいですか先生。俺今日バイトなんで。"受験をサポートしてくれる親御さん"とかいないから俺。遅刻してクビになったら俺のこと養うわけじゃないでしょ。どーせ学校の中までしか責任もたないんだから。……帰っていいですか。(冷め切った声)
(SE:終了ゴング)
まひろ:……っ!(息を呑む)
みっきー:構図は勝ち逃げ。……でも結果は、阿久津くんからしてみれば、大人に対する不信感が増しただけ……なんだろうな。
まひろ:まって、あくつ帰っちゃうじゃん!
まひろ:……あくつっ! (飛びつく)
阿久津:うわっ、なんだよ。……先帰ったのかと思ってた。
まひろ:そんなわけねーだろっ!
みっきー:阿久津くん、ちょっと本気で怒ってたでしょー?
阿久津:まーな。マジで時間とエネルギーの無駄だったけど。……時給も出ないくせに、あんなの相手にしてなにやってんだか。
まひろ:もう、馬鹿! やりすぎ! よくやった! スカッとした!
阿久津:ははっ、なんだよそれ。……まあ、よくあることだろ。
まひろ:あんなのよくあっちゃだめだって!
みっきー:まあまあ、とりあえず3人でお茶でもしよ、阿久津くんもそのくらいの時間はあるでしょ?
阿久津:給料日前。
みっきー:おごるよ。 (ゆっくり、区切るように)
まひろ:おれも半分出す!
阿久津:……なんでそんな必死なわけ?
みっきー:ねぎらいたいんだよ、がんばったから。
まひろ:うんうん。
阿久津:……じゃあコメダな。カツパン食いたい。あのでけーやつ。
みっきー:ふふ、そうしよー。僕あそこの豆菓子好きなんだよね。
まひろ:おれシロノワール食べるー!
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