第25話

📘 第25章:声が光る場所



🔷 【施設からの逃亡】


2039年、雨の夜。


街灯の届かない廃工場裏で、少女は膝を抱えていた。


(寒い……お腹……すいた……)


痩せた腕には無数の痣と注射痕。

その指先は小刻みに震えている。


幼い頃から両親の犯罪に巻き込まれた。

覚醒剤運搬、窃盗補助、詐欺現場での“同情誘導役”。

「お前は生まれた時から役立つ存在だ」と言われ続けた。


やがて、両親は逮捕。


彼女には“危険因子”の烙印が押され、改訂者予備軍育成施設へ収容された。


(……誰も……いらないって言う……)


閉ざされた隔離病棟。

注射と電気刺激で「従順さ」を強要される日々。


(……もう、いや……)


隙を突いて逃げ出した少女は、雨に打たれながら廃材に凭れかかった。


(死ぬ……のかな……)


その時だった。


「大丈夫……?」


優しい声が闇を裂いた。



🔷 【光生との邂逅】


少女の瞳に、白衣を着た女性が映る。


「……動かさないで……今、手当てするから。」


差し出された手の温かさに、少女の張り詰めていたものが崩れた。


「やだ……帰りたくない……施設……やだ……」


涙で濡れる頬を、光生はそっと撫でた。


「大丈夫。もう戻さない。」


(……戻らない……?)


「あなたには……声がある。

声はね、奪われちゃいけないものなの。」


その言葉が、少女の中で深く灯った。



🔷 【VTuber“LUKA_ノイズ”】


2048年、NOISE地下拠点。


薄暗い部屋に、一際明るい配信ブース。

ヘッドセットを装着した銀髪碧眼の少女が、ゆっくりとカメラを見つめる。


《配信開始まで…3…2…1…》


「こんばんは。ルカだよ。」


コメント欄が一瞬で埋まる。


【ルカちゃんきたー!】【待ってた!】【NOISEの女神】


その中に、ひっそりと一つ。


【今日も無理すんな。ご飯、ちゃんと食べろよ】


ルカは無表情のまま、口元だけを僅かに緩めた。


「……ご飯は、佳乃さんが作ってくれたカレー。ちゃんと食べたよ。」



🔷 【透也の秘密コメント】


別室。


タブレットを握る透也が、小さく微笑む。


(よかった……)


背後から、佳乃が呆れた声を上げる。


「隠してるつもり?バレバレ。」


「……確認だ。」


「はいはい、“確認”ね。」



🔷 【アンチと優しいファン】


コメント欄に流れる鋭い言葉。


【NOISEとかテロリストだろ】【こいつ洗脳されてんじゃね】


ルカは無表情のまま呟く。


「……そう思う人も、いるよね。」


だがその直後、画面は嵐のように変わった。


【アンチは帰れ】【ルカちゃん泣かすな】【ルカ様はNOISEの希望】


一つの長文コメントが目を引いた。


【アンチさんへ

私も最初はそう思ってました。

でも……ルカちゃんの配信に救われたんです。

仕事で失敗して、自分を責めて……でも、ルカちゃんの“声”で救われました。

今度、カフェ開きます。もしNOISEの方が来ても、差別しないで迎えたいです。

だから……どうか、少しだけ優しい目で見てください。】



🔷 【未来の協力者】


このコメント主は、都心で個人カフェを開業準備中の男性バリスタだった。


昔は暴走族に所属し、度重なる窃盗や暴行で保護観察処分を受けた過去を持つ。


(俺だって……救われた。

あの声に。)


彼はこの後、NOISEの地下連絡ルートに店を提供する事になる。まだ少し先の話しです。



🔷 【ルカの独白】


配信終了後。


ルカは静かなモニターに向かって呟いた。


「……光生さん。」


ヘッドセットを外し、虚空を見つめる。


「私……誰かを救えてる?」


返事はない。


けれど胸の奥で、あの夜聞いた声が今も灯っている。


(声は奪われちゃいけないもの……

私の声で……救えるなら……)


ルカは無表情のまま、ゆっくりと笑った。


その微かな笑みは、雑音の中で確かな光となっていた。



🔚 第25章・完

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