プロローグ 〜His Dream〜



「う……ん?」



 少年は雲の切れ目から射した日光に当てられ、目を覚ます。

 視界にまず映るのは青い空に白い雲。

 室内ではなく外にいるということが確認できる。


 少年がゆっくりと起き上がると目の前に広がるのは青々とした若草の生え揃う草原らしき場所。

 そして、そこは見える景色からしてどこかの丘の上のようだ。

 地面からは青々とした草木が生えて揃っており、日の光はポカポカとして暖かい。


 のどかで陽気な場所。

 そこでは蝶や蜜蜂などの虫たちが花の蜜を求め、飛び交っている。

 青い空には真っ白な雲が流れ、身体を突き抜ける爽やかな風が心地いい。


 そんな緑豊かな場所で幼い少年は僅かにカールがかった黒髪を揺らしながら、彼と同じぐらいの年の真っ白な長髪をした人物と楽しそうに話していた。


 相手の顔は長い髪で隠れよく見えない。

 その声は霞がかったようにぼんやりとしていて男性なのか女性なのかは分からない。


 けれど、二人の仲は良い。

 少なくとも少年はそう思っている。


 二人はしりとりをしたり、好きなゲームは、アニメは、マンガは、映画は、ドラマは? と、他愛ない会話を楽しんでいた。


 しばらくすると空高く昇っていたはずの太陽は大きく傾き、青かった空は赤く照らされる。

 そんな時間。白い髪をした人物は思い出したかのように決まってこんなことを聞いてくる。



『もし、今というものの何もかもが跡形もなく消え去って、争いだらけの世界へと変わったらどうする?』



 突如、何の前置きもなく聞いてくるそんな質問。



「それは、わからないよ。そんなことは起きてみないと……」



 何故、そんなことを聞いてくるのか理由は分からない。

 それでも少年は迷いはしても戸惑うことはなく、答える。



『なら、その争いによって大事な何かが壊されそうになったら?』


「もし、そうなら壊されそうになったらそれを持って逃げるんじゃないかな?」



 少年は思ったことを正直に嘘偽りなく思ったことを口にする。



『ならそれが大切な家族や友達で壊そうとしているそれがとても強く逃げられないとしたら?』


「逃げられないなら……僕は……」



 少年は言葉に困り、口籠った。

 それを見て白い人物は少し考えたように顎を下げると静かに言い加えた。



『その恐ろしいものと戦える力があったら?』


「力があったら……僕は……多分、戦うよ」


『もしかしたらそれに勝てないかもしれない。ううん、勝てないとわかったとしても?』


「うん、強くて勝てなくても、もしかしたらそれで守りたい人は守れるかもしれないから」


『そうか、なるほどね……』



 白い髪をなびかせ、その人はすっかりと赤くなった空を静かに見上げると



『そろそろ時間みたいだ』



 そう言いながら立ち上がり、どこかに行ってしまう。



「え!?  ちょっと待ってよ!!」



 少年は叫びながら後を追うために立ち上がって彼の消えた視界の先へ向く。



「……あ、あれ?」



 しかし、周囲を見渡してもすでにその姿はない。

 代わりに白い人型のロボットらしきものが少し離れたところに立っていた。

 いや、正確には白銀の鎧をまとった人が立っているというべきだろうか。



「あれ、は?」



 その顔は変わった形をしたヘルメットによって完全に覆われていた。

 それが先ほどまで話していたその人なのかは見ただけではわからない。

 まるで生気のない人形のように静かに、ぼんやりと浮かんでいた。


「――っ!」



 しかし、それは恐ろしいものであると感じた少年は、怯えつつも視線を合わせたままゆっくりと後ずさっていく。



――ソウカ、マダ……デモ、モウスコシ。モウスコシデ、ワタシハ……。



 白い鎧を纏う人の口が開き、先ほどよりも一段とひどくぼやけた声が少年の耳に届く。

 もはや人から出たものであるのかさえ疑うほどにひどくぼやけた声。

 それが発せられるとともに草原は一瞬のうちにして火の海へと変貌する。


 赤く染まった世界はさらに真っ赤に変化する。

 襲い来る熱気から少年の肌からは汗が吹き出し、視界は熱で酷く揺らぐ。

 やがて目の前に立つ鎧の輪郭すらもぼやけ始めた。



――ソロソロカナ。



「――っ!?」



 突如、少年の足元に大きな穴が開いた。

 彼の体は重力に従ってその中へ落ちていく。


 真っ赤に染まっていた視界はすぐさま真っ暗な世界へ変化。

 唯一見える赤い光と身体を突き抜ける風だけが今どちらが上なのかということを教えてくれていた。



「うぁぁぁぁぁぁ!!」



 大きな悲鳴を上げたところでその落下が止まることはない。

 気付けば上空に見えていた真っ赤な世界はもはや小さな点程度にしか見えていない。



「…………。」



 そしてその光すらも完全に見えなくなる頃。

 少年の意識は深い闇へと落ちて行った。

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