「あさぎりあさひ」バトルロワイヤル
わさび醤油
導入
九月三十日まで
恥ずかしながら、今でもたまに夢に見ることがある。
子供の頃の思い出。今よりもずっと臆病で人に馴染めていなかった中に起きた、あの鮮烈な光のような一瞬のことを。
『ねえきみ、そんなとこでなにやってるの?』
幼稚園の隅っこ。砂場すらない木陰で一人寂しく、木の枝で地面に絵を描いていた。
周りに馴染めず。遊びたいのに、自分から話しかける勇気なんてなくて。
先生達にも見つからない一人だけの隅っこで、隠れるように絵を描いて遊びの時間を越えようとしていた。
そんなときだった。
彼女が──
『ねえ、いっしょにあそぼ! おすなばで、おっきなおしろつくりたいの!』
あさひは俺の手を掴んで、笑顔でそのまま引っ張り光へと連れ出した。
俺の答えなんて聞かないで。持っていた木の枝を落としてしまうほど力強く。一緒に遊んだ方が楽しいだなんて、子供らしい単純な言葉と共に。
その瞬間は、君にとっては偶然だったのかもしれないけれど。
それでも、そんなたわいのない言葉の一つが、俺にとってはどれだけ嬉しかったことか。救いだったのかは、きっとあさひは知るよしもないだろう。
それからあさひとの付き合いは、不思議と何故か続いた。
実は家が結構な近所で、俺達をきっかけに両親の方が気が合ったってくらいには仲良くなってしまったことで、家族ぐるみで交流する機会が多くなって。
小学校は運が良かったのか、通っていた六年もの間ずっと同じクラスで。
流石に中学校では最後の一年以外はクラスが分かれてしまったり、ちゃっと荒んでいた時期もあったけれど。それでも彼女は、思春期の恥ずかしさとかそういうのとは無縁ってくらい普通に接してくれた。
……それからこれは気持ち悪い自覚があるし、実際その通りだから、決して彼女には言えないけれど。
高校は彼女が通うっていう学校がちょっと偏差値の高い所だと知ったから、偶然被ったような態度をしておきながら、裏では一生懸命勉強して同じ所に合格して。
そうして一緒の学校になったと伝えてからかわれたとき、実は彼女は全部お見通しなんじゃないかってちょいと後ろめたくなったりもしたっけか。
だらしないのにちょっと厳しいし、もう少し肩の力抜けばいいのにと思う所もあるけれど。
それでも真面目で、ひたむきで、何だかんだ言いながら優しくて。
嬉しいことがあったときは、昔から変わらず全力で喜んでくれる女の子。ちょっと鋭いけど優しい目をしている、艶のある黒髪の美少女。
そんなあさひのことを考えると、いつも胸が締め付けられるくらい苦しくなって。
それが恋であることには、中学の頃から何となく理解していて。
「好きです。俺と、俺と付き合ってください」
だから俺は、彼女へ告白した。してしまった。
いつか伝えたいと心に秘めていた想いは、ある日偶然帰る時間が一緒だったから並んで帰路についていたあの日。
言った自分でも驚いてしまうほど呆気なく、初恋の女性へ、その言葉を口に出してしまっていた。
「……ごめん。ほんの少し……一日でいいから、考える時間をもらえない?」
そんな告白に、彼女は頬を赤く染め、少し驚いた顔をした後、静かにそう答えてくれた。
付き合いの長さもあるからか、傷つかない断り方を考えようとしてくれたのか。
俺を一度も異性として見たことがなくて、冷静さを欠いてしまったのか。
或いは、これは想う側の妄想でしかないけれど。告白が嬉しくて、ついそう返してしまっただけなのか。
どうとも取れるあさひの返事。
どちらに寄っているのかさえ曖昧な、あさひの頼み。
そんな彼女の返事に、俺は頷くことしか出来ず。
気まずさを抱えたまま別れ、その日の夕食の味や何時に布団に入ったのかさえ、記憶にないほど浮き足立ってしまっていて。
だから俺は、そんな色んな感情がごちゃ混ぜになってしまった頭では、考えもしなかったのだ。
その夜を……その告白をきっかけに、俺の運命は大きく変わってしまうなどと。
俺の──
奪われ、出会い、最愛を失いながら、最後には取り戻す。
全てが終わったあと、誰一人とて思い出すことのない、それでも確かにあったあの戦いが始まることなど、露にも。
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また、今日と明日は二話投稿で、19:06分に投稿する予定です。
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