第2話 長谷川真昼、猿と出会う
「おばちゃーん、あんがとねー!」
私はひとまず近場の民家を見つけ、馬を売却するから飯をくれ、あと一泊もさせてと交渉し、見事成功させて戦国時代1日目を生存した。
いっぱいおにぎり貰ったし、今日1日はなんとかなるかな。
全部塩おにぎりだけど満足満足♪
ゲヘヘ、馬の価値も知らぬ阿呆な小娘よ。
ん? なんか奇声が聞こえた気がするけど、まあいっか。
さてと、おばちゃんから聞いた情報によると、今は永禄3年の4月。
西暦でいつだか分かんないけど、各地で合戦が起きまくってるっていうから戦国時代なのは間違いないよね?
「じゃあ任せたぞ真昼。108個集めたらまた会おうぞ」
正岡のおっさんは、そんな捨て台詞吐いてどっか行っちゃったし。
なんかよくわからない野球の歴史を一生懸命熱弁してくれたけど、分かったことといえば108の英霊たちは全員個性豊かで、大人しく回収されるつもりもないってこと。
ボールには108の赤い縫い目があること。
それと、ボールたちは野球に携わることは覚えているけど、歴史知識は一切合切記憶してないこと。
まあそれは未来人は私だけってことになるし、私の価値が高まるから、オッケーだね。
「全員、野球で倒すのじゃ。そうすれば連中は従う……はず。多分……きっと……うん」
そう言ったおっさんの歯切れは悪かったけど、もしそれでも反抗的なら始末すればいいよね。
相手はボールなのだ。遠慮一切必要なし!
さて、と。
私は整備されている街道を歩いていく。
おばちゃん情報によると、この先に清洲って城下町があるらしい。
ここは尾張の国で、領主の名前は織田信長。
フフン♪ 歴史の成績2の私でもさすがに信長は知っている。
マンガやアニメやソシャゲで超有名人だもんね!
特に私が好きな少女マンガがあるのだ。
それは信長と帰蝶のイチャイチャラブストーリー!
えへへ、俺様な信長が奥さんの帰蝶にだけは甘えるのがよだれが出……もとい胸がキュンキュンするんだよね。
個人的に俺様キャラは目の前にいたらぶん殴るんだけど、マンガの場合は相手の心情も分かるのが良いよね~。
帰るためにボールを集めるってことだけど、まずは衣食住を手に入れないとね~。
信長様に雇ってもーらお。
そんでもって帰蝶様の親友ポジをゲットして、2人のイチャイチャを間近で見よっと。
頑張るぞ~。お~。
なんてことを思っていると、清洲の城下町が見えてきた!
おお! 全員和服! 活気もめっちゃあるね。血飛沫とか喧嘩とかもない。
そりゃそうか、戦国時代っていっても人が生きてるんだもんね。
平和最高! さあてと、まずはお城に行って事情を話して信長様に協力を仰ぐとしますか!
「面妖な恰好……お引き取りを」
お城の出入り口で、あっさり門前払いされる私。
うん、そりゃそうだよね。アポも取ってなかったし。
でも伝手なんて持ってないからしょうがないじゃん。
「あの~、帰蝶様でもいいんで、どうかお目通りを! おなしゃす!」
大声を張って、90度の角度でお辞儀する。
ここで引いたら駄目だ。このままだと茶屋で看板娘として生涯終えるか、道場破りして食いつなぐ人生しか想定できないんだから!
「き、帰蝶様だと⁉」
おお、食いついた。こっから一気に捲し立てるしかない!
「掃除洗濯買い出しに礼儀作法、それと料理は一切できませんが護衛にどうですか? 私、頑張ります!」
「なんちゅう怪しい奴じゃ……」
「なんて真っ直ぐな眼で見てくるんじゃ……」
あれえ? なんでドン引きしてるんだろ?
は⁉ まさかスパイだと思われてる?
「私、生まれは東京です! バイト経験はありません! 普通の学生です!」
「「……」」
しまった。バイトは横文字だから通じないか。えっと、バイトって日本語でなんて言うんだっけ?
「ええい! これ以上騒ぐと、この場で成敗してくれるぞ!」
「酷い! 騒ぎたくて騒いでるわけじゃなくって、自己アピールしてるんです!」
「まーたわけわからん言葉を! ええい! 実力行使じゃ!」
わーお。戦国時代の人って好戦的だなあ。槍を構えないでよ。
私だってここで騒ぎを起こして織田家出禁になって、信長と帰蝶のイチャイチャラブラブを見れなくなるなんてバッドエンド、絶対嫌なのに。
スマホの翻訳機能使えるかな? ん?
モゾモゾとポッケを探るがスマホがない。
しまった! 教室に置き忘れた!
こうなったら、躱し続けて相手がへたり込む作戦でいくか。
なんて思ってる私だったけど、背後からアルト声の美声が私の耳に届いた。
「なんの騒ぎだ?」
振り向いて声の方向を確認すると、そこにお侍さんが立っていた。
おお! 背は低いが超絶美形だ! さすが織田家! マンガで見るみたいに、現実でもイケメン多いんだ!
誰だろ? 長秀さんかな? 利家さんかな? 成政さんかな? 信長様はもうちょっと背が高いよね?
ん? 肩に猿が乗ってるぞ? ああ、あれが秀吉かな?
「いえ、この小娘が帰蝶様に会わせろなどと申して」
「ほう? そなた、何故帰蝶様に会おうとしてるのだ?」
澄んだ眼に透き通った目鼻立ち、喉仏が出てないのもポイント高いよ~。
「えっと、私、帰蝶様の大ファンなんです!」
「だいふぁん?」
しまった。ファンて日本語だと……なんだっけ?
「あ、そのお、信長様の奥様の帰蝶様に憧れてるんです!」
そう私が口にした瞬間、空気が変わる。
門番さんが緊張した面持ちになって、目の前のイケメンも雰囲気が変わって不機嫌なオーラを放ってきた。
嘘……私、なんか間違ったこと言っちゃった?
「信長様の奥方は
「ほえ⁉」
なんてことだ。……嘘でしょ? 私、あのマンガ大好きだったのに……。
両手両膝を地につけて項垂れる私の様子を見て、私が不審者でないと感じたのか、イケメンさんが頬をポリポリ掻いた。
「まあ、その、なんだ。そなた、珍しい恰好をしておるな。信長様は変わった物が大好きだから会ってくれると思うぞ? ただし、太腿は隠してもらおう」
おお? 急展開! これってもう、織田家就職の流れ確定でしょ。
てかジャージ持ってないし、私暑がりだし、動きが鈍くなるからこのままでいいよね?
白ソックスの靴下をピンと伸ばしておこっと。
「任せてください! バリバリ働きます! よっしゃああ、職ゲットおおおお! ボール探しもこの調子で頑張るぞおおおお!」
「え? 仕官するの? 侍女として奉公したいってこと? ぼおるって何?」
「あの、お名前をお聞きしてもいいですか!」
私はこの救世主にもなったイケメンさんに運命を感じ、キラキラ眼を輝かせて訊ねていく。
すると?
「私の名前は木下藤吉郎。信長様の配下で足軽頭をしている」
……? 木下藤吉郎ってたしか……。
「猿じゃん!」
「ウキー!」
私の叫びに、イケメンさんの肩に乗ってる猿が満面の笑みで返答してきたのだった。
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