冤罪で追放された文献修復士、世界初の「読むだけで発動する」魔導書作ってみたら、規格外すぎて魔法界に革命が起きたようです
菊池 快晴@書籍化進行中
第1話:底辺修復士、理不尽に追放されてしまう
「この文献は……
俺、ラルフ・イーターは小さな明かりの下で古い文献を修復していた。
かつて世界を恐怖に陥れた魔王は、人類の手によって倒された。
だがその代償は凄まじく、魔法使いの9割が葬られた。
その結果、魔法を扱えるものはごくわずかとなり、今や魔法文明は終わりを告げようとしている。
俺も生まれてから二十五年間、魔法を見たことがない。
けれども、こういった歴史を読み解いていると、その時代に存在していたように感じることがある。
ワクワク、というのは不謹慎かもしれない。
でも俺は、この瞬間がたまらなく好きだった。
「一文字ずつ、丁寧に……」
俺の職業は、古い文献を修復する仕事、いわゆる修復士だ。
復元する内容は様々で、歴史、魔法、個人的な日記、たまに料理のレシピなんてものもある。
世界中から集められた文献は、再度必要な人に届けられるので、直接依頼者と会うことはない。
誰からも賞賛されることのない地味な仕事だ。
それでも、過去の文献からは未来へつながる大切な情報は多い。
誇りを持ってこれからも頑張ろう。
そう、思っていたのだが――。
「ラルフ、今日限りでお前は
突然現れた金髪の男にそんなことを言われた。
長い間このボルド国の下で働いていたが、見たこともない相手だ。
しかし、襟についている金の紋章から貴族だとわかった。
後ろには私兵と思われる男たちが立っており、俺を警戒している。
俺はただ真面目に仕事をしてただけだ。なぜ、犯罪者だと?
もしかして、誰かと間違ってるのか?
「何の話ですか? それと、あなたは誰なんですか」
少し強めな口調で問いただすと、男はこのボルド国へ赴任してきたという証明書を見せつけてきた。
ドルチェ、という名前が書かれている。
この男は、確かにこの建物の統括を任されたみたいだ。
「任命されたのは一か月ほど前だ。所轄内で問題がないか確認していたところ、君の悪行に気づいた」
「悪行?」
ドルチェは、ぶしつけな態度で修復中の文献を手に取る。
文献は乱暴に扱うとすぐに破損してしまう。咄嗟に取り返そうとするも、後ろの兵士たちが俺の行く手を阻んだ。
「何をするんだ!」
「いい加減にしろ。そこまでシラを切るのなら教えてやる。――貴様が修復した、火の文献についてだ」
「火の、文献?」
俺は、過去の記憶を思い返す。
確か、誰も復元ができないからと国をたらい回しにされていたものだ。
それが手元にきて、俺が修復した。
ただ9割以上が焼失していたこともあり、まる三カ月ほどかかってしまった。
内容は火の魔法についての論文で、今までに見たことのない原理が書かれていた。
それが何の関係があるんだ?
「ラルフ、貴様は修復できないからと勝手に書き換えただろう」
「な……そんなことはしていません!」
そもそも、古代文献は書き換えが禁じられている。
法律で決まっているというわけでなく、文献のほとんどが記憶型の魔法紙で出来ているからだ。
もし書き換えなんてすれば塵となって消えてしまう。
俺は、そのことを伝えた。
しかし、ドルチェはまったく信じてくれなかった。
「そこまで言うのなら証拠を見せてやろう」
ドルチェは腕にある小さな火傷を見せつけてきた。
これが何なのかさっぱりわからず、眉をひそめる。
すると、とんでもないことを言い放つ。
「あの文献に書いていた術式で魔法を行ってみたが、まともに発動せずに暴走した。その結果がこれだ。わかるか? 貴様は”魔法使い”の私に怪我をさせたんだぞ!」
ドルチェは激昂し、机を強く叩く。
この男は魔法使いだったのか。
しかし、自分が使えなかったからというだけで俺が書き換えをしたなんて無茶な理論じゃないか?
「手順が間違っていただけじゃないんですか。俺は正しく復元しました」
「ほう、往生際の悪いやつだな。――死にたいのか?」
するとドルチェは火の魔法を漲らせた。
心臓が締め付けられるように痛み、驚くとともに後ずさる。
俺は、魔力に敏感な先天性の持病があるのだ。普段は何ともないが、魔力が濃い場所に行くと体調が悪くなる。
しかしこれが……”魔法”なのか。
「私は世界でも希少な火の魔法使いだ。だからこそわかったのだよ。お前の悪行がな」
「いえ、俺は書き換えなんて――」
「黙れ!」
文献自体が間違っている可能性もあるだろう。
なのにドルチェは俺が悪いかのように決めつけていた。
なぜ、頑なに信じようとしないんだ。
「だが私も温情がある。ここから静かに立ち去れ。それで許してやろう」
この建物は、俺が住むこのボルド国から借り受けていたものだ。
生来人と話すのが苦手なことと、静かな所じゃないと集中できないので、ここで寝泊まりもさせてもらっていた。
するとドルチェはまるで家を決めるときかのように周りを見渡した。
いったい、どういうことだ。
「ここは気温が一定でよいな。文献の修復なんかよりも、私のワインセラーになるほうがいいだろう」
ドルチェは、ふんと鼻を鳴らして周りを見渡した。
……そういうことか。
今まで貴族というだけで偉そうな人間は見てきたことがある。
けれどもこの男は、さらに希少な魔法使いということもあってここまで傲慢なのか。
「このことは上も知ってるんですか」
「当たり前だろう。それより、いい加減出ていかなければ武力行使になるぞ?」
ドルチェは、兵士に目くばせした。
これ以上何を言っても無駄か。
俺は、静かに仕事道具を片付け始める。
国のためにと思っていたが、これ以上、ここで仕事をする義理はないな。
去り際、ドルチェは嬉しそうに笑っていた。
「ラルフ、最後にいいことを教えてやろう。お前の文献は”ある方”に送られている。おそらく大問題になるだろう」
ある方? 魔法使い仲間……ということか。
いや、それなら――。
「見る人が見ればわかると思いますが」
「ふっ、人間のお前には何もわかるわけがない。魔法を扱えるかどうかは、生まれた瞬間に決まるのだ。お前のような貧弱な人間に、魔法のことなど未来永劫わかるわけがない」
ドルチェはふたたび掌に火を漲らせた。
魔法使いとは、強くて気高く、この世界を救う英雄たちだと聞かされてきた。
しかし、とんだ思い違いだったようだ。
まあいい。もう関わることはないだろう。
いい機会かもしれない。
これからは誰の下にもつかず、好きに生きることにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇
残党魔族との戦いの激しい北部のテント内で、一人の女性が文献を手に取っていた。
驚いたような顔で、一枚ずつページをめくっていく。
それは、ラルフが復元した火の魔法についてのものだった。
「シルヴィア様、失礼します! 不滅の魔族は南へ移動したらしく、その延長線上には、ボルド国があるとのことです! ――シルヴィア……さま?」
そこに入ってきた兵士が敬礼し、声をかける。
しかし、シルヴィアと呼ばれた長い金髪の女性は気づかない。
それから何度か声をかけると、シルヴィアは「申し訳ない」と言った。
「なら私はボルド国へ向かう。それと、前線にいる全員に、この文献を読ませておけ。とんでもない内容が書かれている」
「随分と綺麗ですが……新書ですか?」
「いや、違う。聞いて驚くな。――
シルヴィアの言葉に、兵士が驚きを隠せない様子で声を上げる。
「え……ど、どういうことですか!? あの時代の文献は、まともな形で残っていないはずでは!?」
「その通りだ。この文献も、元は焼けただれて文字すら見えなかった。しかし、こうやって完璧な状態で復元されて戻ってきた。私の知っている限りでは、世界初の事例だろう。この修復士は控えめにいっても天才だな」
「……初めて魔族の強さを知ったときほどの衝撃ですよ」
「今までの魔法理論がひっくり返るようなことが書かれていた。この原理をうまく使えば、魔族にも勝てるだろう」
「……まさか、そんなことが……!?」
「そのまさかだ。急いで文献を復元した奴に連絡をとってくれ。直接、専属契約を結びたい。契約金は、いくらかかっても構わない」
シルヴィアの言葉に、兵士が慌てて書類を確認すると、何かに気づく。
「シルヴィア様、失礼ながら申し上げます。文献を復元された修復士は、ボルド国にいらっしゃると書かれております」
「魔族が向かった先か。名は?」
「――”ラルフ・イーター”、と書類には書いてあります」
「なら私が直接会いに行く。お前たちは前線で監視を続けろ」
「一人で行かれるのですか!?」
「そうだ。気にするな。私一人のほうが安全だ」
「……それは、そうかもしれませんが」
「
シルヴィアは恐ろしいほど魔力を漲らせ、兵士はその鋭い眼光に震えた。
人類は魔王倒した。
しかし、残党の魔族は未だ世界を苦しめていた。
当時よりも遥かに強く、魔法使いが激減している今、人類は滅亡の危機に瀕している。
シルヴィアは、稲妻が描かれたマントを羽織ると、部下とともに外へ出た。
そこでは、多くの兵士たちが暖を取っていた。
肩には金の鷹の模様が入っており、軍の中でもトップの実力を持つものに与えられるものである。
全員がシルヴィアに向かって敬礼し、背筋を伸ばす。
「私は先に行く。後は頼んだぞ」
「「「「ハッ」」」」
次の瞬間、シルヴィアの体中からビリビリと電気が巻き起こる。
風が巻き起こり、右足の腿に、稲妻模様の
直後、目にもとまらぬ速度で駆けて行く。
数十秒ほどでその姿は見えなくなり、部下たちが感嘆の声を漏らす。
「もう見えなくなっちまった。相変わらずすげえな、シルヴィア様は」
「当たり前だろ。
「まだ飯も食ってないってのに……本当に魔族を恨んでるよな」
兵士たちが同じようなことを話している中、一人の兵士が「それに――」と声を上げた。
全員が、顔を向ける。
「……めちゃくちゃ美人だよな」
その言葉に、
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