9月29日 / 真実

消毒液の匂いがする。

ぼんやりした意識の中で、声が聞こえた。


「先生、今回もダメでした。ちゃんと見ていたはずなんですけど……」

「残念ですね。いまは何回目でしたか」

「132回目です。ゆうくんは徐々に変わってきてはいるんですけど」


舞と、誰かの話す声。


「なにか懸念点があるんですか」

「私が愛を教えても、最後はどうしても悲しい結末になるんです」

「もしかしたら、AIが記憶を取り違えているのかもしれませんね」

「私が思い出や日記から作り出した人格プロンプトに、バグがあるのかな」

「検証を続けましょう。最初に比べれば随分と変わりました。研究として素晴らしい成果ですからね」


思い出してきた。

何度も僕は、あの日を繰り返している。

きっと何かの装置で記憶を呼び出しているのだろう。


「そうですね。私が愛を教えて結末を変えれば、ゆうくんが目覚めるって信じています」

「私も同じ気持ちです」


近くから舞の声。


「ゆうくん、今日もお疲れ様。」


目は見えない。

声も出ない。

聞いていることしかできない。


「じゃあ、また明日も頑張ろうね」


僕は必死に動けと念じた。

指先が、ぴくりと動いた気がした。

気づいてくれと願う。

でも足音がひとつ遠ざかっていく。


「中村悠太さん」


年配の男の声。

舞に先生と呼ばれていた人だろう。


「私はあなたの意識があることを知っています。ですが、永山さんには伝えていません」


体の力が抜けていく。


「彼女は耐えられないでしょうから。これからも頑張ってくださいね。」


病室の窓から風が吹く。

木々の揺れる音から、葉が散っていくイメージがよぎった。

飛ばされた葉は、いつか枯れていくのだろう。

これは僕に与えられた罰だ。

いまは風に身を任せるように、眠りについた。


***


愛の定着実験に関する観察記録


被験者:中村悠太、永山舞


経過記録

12月18日 100%

12月24日 78%

01月07日 60%

02月14日 45%

03月30日 22%


備考

・中村悠太の記憶に変化あり。

・永山舞の心理的変化あり。

・愛の定着と感情の変化に相関あり。

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愛の定着率 アオヒラ @aohira_m

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