1-13 ペンギン(燕(カラス))
「む、あれは……」
ふと、カルマリオンは何かを見つけたのかどこかへと駆け出していく。それにつられてアンクルコミーとヤルダバルトも彼を追いかけた。
「ああ、そこの君。少し待ってくれないか?」
一度カルマリオンを人混みで見失ったヤルダバルトとアンクルコミーは彼が街外れの角で街から出ようとしている人影に声をかけている姿を見つけ、合流すべくそこへと向かった。相手の姿を確認したアンクルコミーは困惑した様子でヤルダバルトへ問いかける。
「なんというかこう……珍妙な姿をしているな。アレは一体何だ?」
「えーっと? ありゃカジノコインの報酬で手に入る黒い燕尾服のワンセットに、これまたカジノのマスコットキャラクターのキグルミを頭だけ装備しているな」
「あのキグルミは確かカラスだったか? ならなぜ燕尾服を着ている」
「あー、カラスはカラスなんだがな、あのマスコットキャラクターのあだ名は畜ペンだ、略さずに言えば畜生ペンギン。本人(?)はカラスなのになぜこんなあだ名になっちまったのかといえば、単純にそう呼ばれている現実世界でのプロ野球チームのマスコットキャラクターにそっくりになんだよ。んで、そのプロ野球チームの方のキャラクターも実際のところペンギンじゃなくて燕だからな。つまり、今カルマリオンの前にいるアイツは畜生ペンギンヘッド(実は燕(に似ているだけのカラス))に燕尾服で揃えた全身燕スタイルってことだ」
「ええい、ネタが細かいな! そんな複雑なボケを理解できる者などいないだろうに!」
「ええっと、名前は……ウォルター・ムーンクレストかよ。名前こそ俺達が探している重要NPCの一人と一致するが、流石にこんなバカみたいな格好をしてるようなヤツじゃない。おおかた、NPCになりきるためのアバターを作った後それに飽きちまって、こんな風に変な装備をして遊んでるってとこだろうな」
「しかし、よくあんなネタ装備が残っているものだな」
「性能自体は初期装備と同等かそれ以下だからデータの初期化に巻き込まれなかった、ってことなのか?」
ウォルターはカルマリオンの声に気がつくと足を止めて彼の方へと振り向いた。
「呼び止めてしまってすまないね。我々はムサマンサから今ここに来たところなんだが、何かこの状況について新しい情報はわからなかったか?」
「うーん? わーるいけどぉ、おーいらにもよーくわーかんなーいかなぁ」
その声を聞いたヤルダバルトは口に手を当てて驚きを隠さなかった。
「こ、この独特の喋り方は……!」
「あの間抜けな喋りがどうかしたのか?」
「ウォルター・ムーンクレストと同じ声優がサンプリングをしてるのにあまりの声質と演技の違いから真偽を問われ話題となった別のNPCの喋り方なんだよアンクルコミー! しかもそっちにメチャクチャ似てるぞオイ」
「それはまた……随分とネタが細かい、細かすぎる……」
「なりきりキャラを諦めた癖にそういう小ネタだけは仕込んでくるとか一体何考えてるんだこのウォルターは?」
「カルマリオンはそんなことは一切気にもとめずに話を続けているな」
「よくそんな格好の相手とシラフで話ができるな、お前のその精神力というかスルー力には正直感服するよ……」
外野の声など気にも留めずにカルマリオンはウォルターとの話を続ける。
「君が向かっている方向を見るにどうやらムサマンサ方面が目的地みたいだが……どうだい、我々がそこまで君と同行するからあっちで軽く情報交換といかないか? 君にとっても、我々の視点から得られる情報というのは有用なものになると思う」
「え、あれ? カルマリオンお前もしかしてもう交渉の詰めに入ってるのか?」
カルマリオンはニコリと穏やかな微笑を浮かべ、キグルミの頭をかぶっていてどこを見ているのか判然としないウォルターの目を見据えた。そのままカルマリオンはニコニコとウォルターを見守って返答を待っている。その様子を見てヤルダバルトがアンクルコミーへ耳打ちをした。
「気のせいか、目があったであろう瞬間にこのウォルター、一瞬だけビクッと身体が飛び上がったようにも見えたぞ」
「なぜだろうか、何か妙な威圧感のようなものを感じるな」
「カルマリオンお前、一体どういう……」
ウォルターは少し考える素振りを見せた後、カルマリオンへ向き直り変わらず間の抜けた声で答えた。
「わかったよぉ。おーいらもちょーっと前のムーサマーンサのことはぁ、なーんだかぁ気になってたもーんねぇ。向こーうについたらぁ、どーこかでゆーっくりはなしをしよーっかぁ。」
「交渉成立だな、ウォルター。さあ二人とも、彼と一緒にムサマンサへ戻るとしよう。」
「おいおい、さっきここに来たばっかりなのにもうとんぼ返りするのかよ。せっかくこのポートエスケンまで来たんだから、もう少しNPCが見つからないか粘ってみてもいいんじゃないか?」
「いや、だとしてもここは一度戻るべきだヤルダバルト。ただでさえこのように人でごった返しているのに、この中から更に重要NPCを見つけようというのは流石に無謀が過ぎるだろう。だからこそ今はムサマンサに戻って体制を整えつつ彼とゆっくり話がしたいんだ。だがこのままだとこの議論が平行線になりかねないな。アンクルコミー、君の意見はどうなんだい?」
「私か? 正直なところ、どちらの意見にも利があるとは思うのだが、強いて言うのならカルマリオンに賛成だ。私としては、何もせずじっと待つより、何かしらの行動を起こしている方がよっぽど気が楽でいい」
「あっ、カルマリオンお前、アンクルコミーがそう言うと思って話を振ったな!?」
「はっはっは、何のことかな?」
「まあとはいえだ、別に俺もそこまで強硬に反対する理由もない。さっさと逆戻りしてムサマンサへ帰ろうぜ」
そうして彼らはウォルターを加えた四人でムサマンサまでワープした。
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