綻びの日常
有心
第1話 召集
▽side 光
『
実験と論文の休憩も兼ねて、何となくつけたテレビからまた事件の報道が流れた。
最近、街のあちこちで色々な事件が起きている。
内容は近所の住民同士が突然殴りあっての喧嘩や、物を突然破壊し始めるなどのことだ。
それだけなら割とどうでも良いが、問題はそれを止めるために俺たちが頻繁呼び出されるようなことが起きていることだ。
もちろん止めに入ればすぐに住民は冷静になる。
しかしなぜそのような事をしたのか、原因を聞いても本人たちは何も覚えていないのだから気味が悪い。
マスコミの報道では、6年前に発生した
『杜霞市地核エネルギー異常災害』の影響ではないか?と推論されているがそんな気は正直全くしていない。
その場合、俺たち『特異災害被害者』のように元の人間よりも全ての能力値が数倍跳ね上がるという事が起こるからだ。
そんな事を思いながらコーヒーを飲んでいると手元のスマホから着信音が鳴った。
画面を見ると表示されたのは、俺らを保護してくれている市長の名前で何事かと思い電話に出る。
「星谷です。……はい、…はい分かりました。
電話を切り数秒天井を見つめた後、他の『特異災害被害者』もとい俺の大切な弟に
「17時に杜霞市役所集合、依頼だ。」
とメッセージを送った。
〜杜霞市役所前〜
16時55分、腕時計を眺め市役所の扉の傍で待っている声をかけられる。
「兄さんごめん遅くなった…。時間、間に合ってる?」
走って来たのか、額に少し汗を浮かべながらも謝る弟に少し罪悪感を抱きつつ
「お〜全然大丈夫5分前。逆に悪い、時間に余裕持たせればよかったな。」
そう返しながら中に入ると、待ってましたと言わんばかりに市長が出迎えに来た。
そのまま市長室に通され、向かい合って座ると市長の口からそのまま本題に入る。
「最近この市では、住民による暴行が増えている。
原因が不明なことは、君たちも知っているだろう。
正直、気味が悪い。」
「これは調べた上での発言だが、加害…いや被害者の数名は事件の前にある教会を訪れていてね、それを君達に見てきて欲しい。」
そうしてその後、ざっくりとだが依頼内容とそれに関連する資料を貰い市長室を出ていった。
ペラペラと1枚ずつページを捲り資料を流し読む。
さっき市長が言ってた通り、被害者の数名が同じこの教会に行っているのがどうにも引っかかる。
実際に見て判断しないと何も言えないが、だいたい嫌な予感というものは当たるのだ。
「蒼空は
「分かった、明日教会に行くってことで良いんだよね?」
「もちろん。じゃ頼んだ。」
蒼空と市役所前で別れたあとどっちに行こうか悩んだが、遠い方から行く方が案外楽だったりするよな。
そう思い町の外れにある大屋敷に足を運んだ。
〜花咲家屋敷前〜
呼び鈴を鳴らしその場で待機すると、威圧感のある巨大な門が鈍い音をたてながらゆっくりと開いた。
正面に向かって数歩足を進めると、
門から屋敷まで続く長い道と、その周囲一面に咲く薔薇の景色が目に入る。
やがて視界は、天井に煌びやかなシャンデリアが吊るされた玄関へと変わった。
何度も訪れた事があるからわかってはいるが、やはり最初は驚いてしまう。
靴を脱ぎながら家主を待っていると足音が近づいてくる。
そうして、白髪に碧眼を持った女性。
花咲家当主であり、俺と同じ特異災害被害者でもある、花咲ツツジが出迎えに来た。
「あら、珍しいですわね。今日は何か予定を入れてたかしら?」
「いや、元々用があった訳じゃない。とにかく花咲妹にも関係のある話だから一旦呼んできてくんね?」
「勿論ですわ、少々お待ちあそばせ。」
そう言いながらツツジが手元にある分厚い本を開き、ページに触れるとまた景色が急変し、大広間へと移動する。
正面のテーブルには入れたてであろう白い湯気の上る紅茶が三セット、そしていかにも高そうなソファーも用意されていた。
恐らくここに座って紅茶でも飲んで待ってろって事だよな。
そう予想し、自分に近い位置に置かれているティーカップを取り紅茶を啜りながら資料を軽く読み直す。
これからどう動くべきか、頭の中で整理し始める。
本当にどこにでもある教会なんだよな…。
気になるのは最近新しく出来たっつーのと場所が町から微妙に距離のあるって所か。
カップの中身を飲み干しぼんやりとすると背後から声をかけられた。
驚きのあまりカップをソーサーに勢いよく置いてしまう。
「お待たせいたしましたわ。」
「…急に現れるとビビるからやめろ。」
「姉さんがすみません…。それで、用と言うのは?」
流れるように席に座り紅茶をゆっくりと飲む双子に相変わらずコイツらはマイペースだなと思うも本題に入り直す。
「超簡潔に言うと、面倒な依頼を頼まれたから手助けして欲しい。んで今のところ資料はこれだけ。」
机の上に資料を広げ市長の話と、これまで報道されてきた些細な事件について、一通り説明した。
「事情は把握致しました、私で宜しければ是非力を貸しますわ。」
ツツジの言葉にツバキも小さく頷いた。
「助かる、それじゃ明日の昼頃、教会前集合で。
後、神葉とリオにも伝えるから俺はもう行く。」
軽く礼を伝えて立ち上がり、大広間を後にした。
玄関を抜けると、外の景色が一変する。
ツツジの使う転移魔法は相変わらず便利で、気づけば神葉とリオの家に近い場所だった。
…最後まで面倒見られた感が半端じゃないな。
〜神葉、リオの自宅前〜
先程と同じようにまたチャイムを鳴らす。
…いるといいんだけどなこれ。
そう思った数秒後に勢いよくドアが開いた。
「ひかっさんじゃん!どしたんスか珍しい。」
相変わらず元気な声だ。
この調子なら、話は早いか。
「なんだその呼び方…。まぁいい、急で悪いけど話したいことがある。神葉も居るか?」
「いるッスよ?まぁここで話すのもアレなんで、中入ってください。」
部屋に入ると、珍しく真面目な顔をしながらパソコンの画面に集中している神葉がいた。
パソコンの画面をチラりと覗くと画面に流れる文字の速さからして邪魔をしていい状態では無いと察する。
普段はふざけている印象しかないが、こうして黙っていると別人みたいだ。
カタカタとキーボードを叩き、一段落が着いたのか背伸びをした瞬間、俺と目が合った。
ゆっくりと瞬きをした後驚いた様子で慌ててパソコンを閉じる。
「え、光ちゃんじゃん。なに珍しいね、こっち来るとか。…何かあった?」
「いや、面倒な依頼を頼まれて、手伝って欲しいって思ったんだが…。今忙しそうだし無理ならリオだけにって思っただけだ。」
「あ〜確かに今は忙しそうッスもんね。」
「リオちゃんお黙り!パソコンのはどうでも良いやつ!で、依頼って何?」
パソコンの内容に若干の疑問を抱きつつも今は知る必要ないと判断し、資料を神葉とリオに渡す。
そして、市長の話やこれまでの事件の話を共有した。
「………………教会、ねぇ。」
「大体は分かったし面白そうだから、オレは全然手伝うッスよ。」
「…そうだね僕も手伝うよ。」
「マジで助かる。明日の昼頃に教会前集合な。じゃ、話も済んだしおいとまするわ。」
そうして俺は神葉、リオの家を立ち去った。
▽said 蒼空
兄さんが動いている間、僕もやらないといけない事がある。
そう思いながらスマホを手に取ってメッセージアプリを開いた。
選んだのはいつも話している友人二人の名前。
リオにも僕から伝えるなら、皆入っているグループチャットでこっちに来て欲しいってメッセージを送ろうと思ったけど、兄さんが神葉さんと一緒に伝えてくれるって言ってたから…。
そう脳内でつぶやきながら、個人チャットの画面を開いた。
『頼み事があって、今すぐ僕の家に来て欲しい。』二人の個人チャットに同じ文を送信すると、どちらもすぐに既読が付いた。
浠からは了解のスタンプ、ライからは『わかった。』と返信が来る。
返信を確認したあと十分も経たないうちにインターホンが鳴った。
ドアを少し開けると、そこには浠とライが並んで立っていた。
「…2人とも早くない?」
そう言うと、二人は「何が?」という顔で
視線を交わし、不思議そうに僕を見てきた。
「別に普通じゃない?そうだよねライ?」
「呼ばれたし、普通じゃないの?」
相変わらずの2人に、肩の力が少し抜けた。
とりあえず上がって、と伝える感じでドアを先程よりも大きく開ける。
察したのか、遠慮がないのか2人ともすぐに玄関に入ってくる。
「なんか市長さんから依頼が来て、教会を見てきて欲しいんだって。それで2人にも手伝って欲しくて」
そう言いながら2人に資料を見せる。
「教会〜?ま、明日の学校サボれるならいっか!」
浠は首を傾げつつ、笑いながらそう言う。
「蒼空と多分リオも行くんだったら俺も全然手伝う。」
資料を読みながらライもそう軽く答えた。
「2人ともありがと、明日昼ぐらいに現地集合で。」
「分かった。」
「りょ〜!あ、今からナクドナルド行かん?」
「いいよ行こ。」
重い話は早めに終わらせ、僕は2人と一緒にナックに向かった。
━━━━━━━━━━━━━━━
用語解説
・
6年前の大災害(杜霞市地核エネルギー異常災害)の影響で、後天的に身体能力や感覚が人間の限界を超えてしまった人々の総称。
行政上は「被害者」として扱われ、保護対象となっている。
・
6年前、杜霞市一帯を中心に発生した大規模災害。
被害は市を中心に確認されたが、明確な境界は存在せず周辺地域にも軽微な影響が報告されている。
発生原因は現在も特定されておらず、公式には杜霞市地下に存在するとされる地核エネルギーが何らかの要因で異常反応を起こした可能性が高いとされている。
しかし、それがどのように人体の変異へ繋がったのかについては詳細な機構が解明されていない。
綻びの日常 有心 @pan_yoriha_men
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