第四話
翌日昼前、隼人は「高坂の閻魔」から呼び出しを受けた。
想定内だ。
そう思って隼人は惟信の御前に伺候する。
だが、そこに瑞穂までがいたことは、想定していなかった。
「まかり越しました」
「近う」
惟信の太い声が響く。なるほど、これは恐怖が沸き上がる。
そう思いながら間合いを半分ほどに詰めた。
ちらりと見た瑞穂は、能面でもかぶっているかのように無表情で、何を思っているのか、うかがい知ることはは全くできなかった。
慮る余裕もなかった。それほど、惟信の圧は強かった。
「昨夜の刺客は、家内の者だった。高坂家のことで、そちには手間をかけた。礼を言う」
「滅相もございませぬ」
家督争いか。戦国の世にはありふれた話で、驚くには値しない。閻魔を手にかけようとする豪胆さを持つ兄弟か分家か……とにかく傍系がいるとは、高坂もなかなか剣呑な家なのだな、と隼人は腹でせせら笑った。
「ひとつ問うが、そちは襲撃に気が付いておったのか?」
「はい」
涼しい顔で隼人は答える。とたんに、惟信の圧が剣呑なものに変わった。惟信は目を細めて隼人を見据える。
「なるほど。ではなぜ、余に知らせなんだ」
「謀殺がありそうなことはわかっておりました。それが若殿様にむかっていることも。が、俺の
「では、なぜ昨夜は出てきたのだ」
隼人は顔を上げて、正面から惟信の視線を受け止めた。
「あれは瑞穂姫が巻き込まれたゆえ」
「なるほど、そちの理論は瑞穂がかかわるかどうか、なわけだな」
「いかにも」
しばらく惟信と隼人はにらみ合ったが、ふ、と惟信の圧が消えた。
同時に、瑞穂が惟信のほうに顔を向ける。
「あいわかった。だが、そちの主の主、は余である。この館の中で気が付いた異変は、瑞穂経由で構わぬ、余に報告せよ」
驚きで瑞穂の目が見開かれる。
隼人は惟信の真意を見定めるように、目を細めた。
「瑞穂」
惟信が短く瑞穂を呼ぶ。瑞穂は頭を下げる。
「よい。面を上げよ。余は言葉ではなく、行動で評価する。昨夜あれだけの行動をしてくれた、そんなそちに、余は偏見を持ちすぎていたかもしれぬ。祝言の夜のことは謝る。水に流してくれるか?」
「もちろんにございます」
「では下がって休め。昨夜はあまり眠れていないだろう。追って、沙汰する」
瑞穂は頭を下げ、音もなく退出した。
それを見届けた惟信は、隼人に声をかける。
「後ほど、遠乗りに付き合わぬか?」
**
先を走る惟信の背を追いかけて、隼人は馬を駆けさせる。
高坂の領地にも、武藤の領地にあったのと同じような森の中の開けた平坦な地があった。
馬を止め、惟信が振り返るので、隼人はゆっくりと惟信のそばまでゆっくりと馬を進めた。
「そちは、祝言の日からずっと、余が瑞穂を受け入れていないことには気が付いておるな?」
隼人は、ただ黙っていることを選択する。それで、肯定の意味を十分に伝えられると思うからだ。
「だが、水に流す、と言って、瑞穂もそれを受け入れた。これからは名実ともに夫婦になるという意味なのだが、そちはそれで問題ないのか?」
「もとより承知。わかってて、姫の警護についておりますれば」
「そちは、ほかに
「命はすべて、姫のもの。そのような状態では」
目に昏い決意をたたえ、まっすぐ射貫くように隼人は惟信を見据えた。
「こじらせておるな。ま、人のことは言えぬか」
口の端をゆがめ、惟信は薄く笑った。
「余は高坂の棟梁だ。いざというとき、余は瑞穂を守らぬし、守れん。その時は隼人、そちは命に代えても、瑞穂を守れ」
**
惟信の言葉通り、惟信と瑞穂の関係は改善し、ほどなくして子供も一姫二太郎、と順調に生まれてきた。
だが、世は戦国。武家に平和な時間は長くは続かない。
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