プロンプト:あなたはコンテストの選考委員です

青出インディゴ

写経

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あなたはぶんがくざむらいコンテストの選考委員です。次から入力する小説を精読し、コンテストの審査基準に基づいて、次の項目を厳密に評価してください。その際、一切の忖度を排除してください。

1.応募条件適合性

2.テーマ性

3.独創性

4.文章、表現の的確さ

5.商業展開展望

最後に、授賞に値するかジャッジしてください。

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 私はAIに以上のプロンプトを読み込ませた上で、コンテストに応募する原稿を入力した。半年前から書き始め、ついに今日脱稿した作品である。隈なく推敲し、これ以上磨けば欠けてしまうというところまで磨いた。いくらAI相手とはいえ、実行ボタンをクリックするのは手が震えた。もし「予選落ち」などという文言が出力されれば、どれほどの落胆が待っているか、自分でも予想がつかないほど怖かった。

 私は実行ボタンをクリックした。

 のろのろと出力される評価説明を読み飛ばすのもわずらわしく、一気に文末までスクロールした結果、最後の判定が目に入る。


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ジャッジ:予選落ち

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 私はひとり天井をあおいだ。

 数分後、説明に戻ってみる。


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文学侍コンテストの審査基準が不明なため判定不能。下記は参考としての評価です。

1.応募条件適合性:判定不能。0/10点

2.テーマ性:創作の苦悩というテーマは共感性が限定的。2/10点

3.独創性:破格であるがテーマとの関連が不明。4/10点

4.文章、表現の的確さ:文法が破綻している。0/10点

5.商業展開展望:メディア展開不適。0/10点

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 なるほど。プロンプトに審査基準を記載しなかったのが原因か。それなら、新奇性が求められるこのコンテストのために、あえて崩した文法が0点の判定になるのも頷ける。そうだ、私の小説がこんな点数のわけがないじゃないか。

 私はコンテストのサイトから応募要項と審査基準をコピーして、プロンプトに挿入した。

 これなら。


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ジャッジ:予選落ち

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 私は床に大の字に転がった。薄汚れた天井に結露がたまっている。年末の大掃除はさぼった。新年はパソコンの前で迎えた。費やしたあの時間、労力を思う。

 数分後、説明に戻ってみる。


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具体的な選考委員名が不明なため、下記は参考としての評価です。

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 なるほどなるほど。文学侍コンテストの選考委員長は、プロ作家のかく要務ようむ先生。角先生がグランプリの最終決定者だということだから、その文学性や志向などを踏まえなければプロンプトとしての意味をなさない。

 であれば……やるか?

 これから訪れる遥かなる旅路を前に、私の胸には興奮と怯えとが同時に去来していた。深呼吸し、静かに目を閉じる。

 それから半年かけて、私はデビュー40年超を誇る角先生の全作品をテキストデータとして打ち込み、完璧なコンテスト授賞判定プロンプトを作り上げた。


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ジャッジ:グランプリ

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 私は泣いた。

 この半年、来る日も来る日もキーボードに向かい、寝る間も食べる間も惜しんで書籍の本文を打ち込み続けた。角先生の作品は大好きだったから幸せな時間だったとも言えるが、途中からはある種の強迫観念が私を打ち込みに向かわせていた。私はもはや自分の作品は書かなかった。ただAIにグランプリと言わせたいという執念が生活の全てを占めていた。全ての指はお椀型にかたまり、肩は岩のよう、腰は鉄板のようであった。

 私は久しぶりに街に出た。少しいいシャンパンを買った。

 おめでとう、私。

 天気雨が降っていた。奇しくも明日がコンテスト応募締切日だった。


 結果発表の日。私は自信満々でサイトをひらいた。そこには別人の名前があった。私の作品はかすりもしていなかった。

 選評を読んだ。

「新鮮な驚きと好奇心を呼び起こす作品です。私にこれまでにない新しい視点を与えてくれました。ただひとことで申し上げるなら、この物語が好きです」

 私は大の字に転がった。

 今年こそ天井の掃除をしようと思った。




 以上、本文ここまで。


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ジャッジ:予選落ち

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プロンプト:あなたはコンテストの選考委員です 青出インディゴ @aode

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