第3話 妹・あみとの再会


玄関の鍵が、

静かに回った。


葛城亮は、

一瞬だけ

動きを止める。


懐かしい音だった。


異世界では、

決して聞くことの

なかった音。


扉が開く。


「……あ」


短い声。


リビングの奥にいた

少女が、

ゆっくりと

こちらを見た。


「……兄さん?」


その一言で、

胸の奥が

強く締めつけられた。


あみ。


間違いない。


背は伸び、

顔つきも

少し大人びている。


だが、

視線の鋭さは

昔のままだ。


「……ただいま」


亮は、

そう言うのが

精一杯だった。


あみは、

しばらく

黙っていた。


数秒。

あるいは、

数分だったかもしれない。


やがて、

小さく息を吐く。


「遅すぎ」


それだけ言って、

靴を脱いだ。


怒っているようで、

責めてはいない。


その距離感が、

余計に胸に刺さる。


リビングは、

きれいに片付いていた。


五年前と

大きく変わらない。


だが、

生活の痕跡が

増えている。


「……一人で

 やってたのか」


思わず

口にすると、

あみは肩をすくめた。


「母さんも

 父さんも

 忙しいし」


「兄さんは

 いなかったし」


事実を

淡々と並べる。


亮は、

言葉を失った。


自分がいなかった

五年。


妹は、

確実に

一人で

成長してきた。


「……ごめん」


それしか、

言えなかった。


あみは、

スマホを

テーブルに置く。


「別に」


「帰ってきたなら

 それでいい」


簡単な言葉。


だが、

その裏にある

感情を、

亮は感じ取っていた。


夕食は、

あみが

用意したものだった。


温かい味噌汁。

簡単な炒め物。


「……うまい」


亮がそう言うと、

あみは

少しだけ

目を伏せた。


「普通」


照れ隠しのような

言い方。


食事をしながら、

亮は

異世界の話を

簡単にした。


召喚されたこと。

戦っていたこと。

帰ってきたこと。


細かい部分は、

伏せた。


あみは、

黙って聞いていた。


「……で」


箸を置いて、

彼女は言う。


「その力、

 まだあるんでしょ」


核心だった。


亮は、

否定しない。


「ああ」


短く答える。


あみは、

一度だけ

頷いた。


「隠して」


即断だった。


「今の世界、

 目立ったら

 終わりだから」


その言葉は、

妙に現実的だった。


亮も、

同意する。


勇者として

祭り上げられる

危険性。


それは、

異世界で

十分に味わった。


「勇者は、

 もうやらない」


亮がそう言うと、

あみは

少しだけ

安心したようだった。


食後、

あみは

一枚の画面を

見せてきた。


探索者登録。


ダンジョンに

潜るための

制度。


「生活費、

 どうするの」


現実的な問い。


亮は、

言葉に詰まる。


五年の空白は、

重い。


「……考えてる」


あみは、

ため息をついた。


「兄さん」


「弱くやれるなら、

 それが一番

 安全」


弱くやる。


勇者にとって、

それは

最も難しい選択だ。


だが、

妹の視線は

真剣だった。


信じている。


兄なら、

制御できると。


「……わかった」


亮は、

静かに

頷いた。


帰る場所がある。


守るべき

日常がある。


勇者ではなく、

兄として。


葛城亮は、

この世界で

生き直す。


その第一歩が、

今、

静かに

踏み出された。

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