ショートショート 「私は美食家」

海水

私は美食家

私は美食家である。美食の為に、金、時間、面倒な人付き合いすら捧げている。そんな私が今日やってきたのは、金星のレストランだ。

「お待ちしておりました。どうぞ、こちらです。」

ふむ、当然だが公用語が上手いな。頭が赤く青い触手を垂らしたウェイターに、ピカピカと黄色……いや、金色に輝くレストランを案内されると、一番奥の個室に案内された。

「ただいまもうすぐ出来上がるので、ウェルカムドリンクと前菜を楽しみながら、お待ちください。」

「ああ、楽しめるといいがな。」

私は食前酒の辛口のドライシェリーと、ブロッコリーとタコと豆の和え物を食べる。フィノか。うん、和え物もまぁまぁだな。まぁ前菜ならこんなものだろう。味が濃すぎてもよくないからな。店内はだいぶ賑わっている。ドア越しでも盛況なのが分かるな。こいつらが食通なのか、ただの地元民かは知らんが。ドアノック音で現実に引き戻されると、ついにお目当ての物が来た。

「お待たせ致しました。こちらが、金星名物、金星エビのサラダでございます。」

来たのは……これは……ゴ……ゴキブ……。

「いかがなされましたか?」

「いや、り、立派な金星エビだと思ってな……」

「ふふ、恐れ入ります。」

いや!金星エビだ!私は、わたしは美食家だ!見た目で食べるのをやめるなどという、貧弱で軟弱な凡人の考えなど私には無い!わたしは恐る恐る口に入れた……。む、……美味い。旨いが……。ぐぅ。異文化というのは、ときにこういうこともある。次だ、次で口直ししよう。やれやれ……。旨かったのに口直しが必要になるとは。

「お待たせ致しました。こちらは、金星のスープ料理、鳥の卵です。」

おお、これは美味そうだ。シンプルに大きい卵が、豪華な皿に乗っている。割って開ければ、中からはこれまたなんとも美味そうな……。こ、これは……。

「ば、バロット……。」

その中にあるのは紛れもなく、疑いようもなく、ヒナ、のしがい……。

私は美食家だ!バロットぐらい平気に決まっておろう!ナイフとフォークで……。き、キツイ。私は個室の中、死んだヒナに対して、もくもくと斬首刑を執行しなければならなかった。口に含むと……。

「うまい。」

濃厚なチキンスープのごとく、あっさりながらも食感と肉も地味深い味わいだ。岩塩を振ると、より一層鳥本来の風味が、鳥の美味さだけを抽出したような味が楽しめる。

「むぅぅ……。」

これでまずかったら絶対に許さなかった(こんなメニューだとは知らされておらん!)が、美味い。つまり、逃げられん!

「お待たせ致しました。こちらは金星で今朝、とれたばかりの……」

その後も、ゲテモノばかり出てきた。いや、ゲテモノしか出てこなかった。まったくもってあきれ返るばかりだ!逆に尊敬できるわ!よくここまで世界各国のゲテモノを知り尽くし、用意でき、しかも味も文句無いレベルに持っていけるな!

ウーパールーパー、猿の脳みそ、昆虫、カエル、ヤモリ、亀ゼリー!?まさか悪趣味だと思っていた、日本のイカの姿造りと蛇酒がまともに思える日が来るとは思わなかった。最後の金星ドリンク、金星触手のバラリャントの赤ワイン漬けを呑んでいると、私のフルコースを味わっていると、ウェイターと一緒に、金星人のシェフがやってきた。

「初めまして、今回のお料理を担当させていただきました、パーニャンと申します。」彼は長いコック帽を取り、丁寧に緑色の頭を下げた。

「おお、どうも。」

「今回のフルコースはいかがでしたでしょうか?金星の自慢の名産品を、僭越ながら料理長の私みずからが、金星の伝統的手法で作らせていただきました。」

「うむ……。非常に美味しい、でした……。で、ではなく、美味しいコースだった。いい腕だ。」

「恐れ入ります。」

パーニャン料理長は、すこし逡巡したような顔をしてから、こう聞いてきた。

「ちなみに、どれが一番おいしかったですか?」

「うむ……。そうだな、どれも良かったが、やはり金星カエルだな。」

「……そうですか。」

「カエルという食材は、一見、鶏肉と似ているため調理しやすいと思われがちだが、食感は鶏肉、だが味は白身魚のようなあっさりしすぎた味わいだ。ものによっては草のような味もする。そこを七味、マスタードで押さえ、オリーブオイル、バター、みりんのソースで満足感を得られるようにしたのは見事だ。付け合わせのじゃがいものソテーも、塩加減、火の通り具合は完璧だった。」

「……みりんを入れたこと、よくお分かりになりましたね。」

「あの旨味と甘みなら、おそらくみりんだろう。違ったか?」

「いえ、合っております。」

何か含みがあるような感じだったが、まぁいい。

「本日は、ご来店ありがとうございました。当店に、また、来ていただけますか?」

私は少し悩んだが、本心からこう答えた。

「そうですな、非常に美味しかったが、私は金星名産の見た目は少し苦手な事がわかった。次来るときは、目隠しを持ってこよう。うわっはははははは!!!」

美食家としての矜持を持って笑うと、突然パーニャンシェフは頭を下げた。

「申し訳ございませんでしたぁっ!!!」

「なっなんだぁ!?」

「じ、じつは傲慢な美食家が来ると聞いて、あえてゲテモノばかり食べさせていたのです!金星産の物は、ほとんどありません!」

「なんだとぉ!?」

ははぁ、そんな浅ましい事を……。ウェイターも必死に頭を下げている。そういうことか。

「ですが、まずい料理を出せば当店の名声は下がりますし……。なので、二度と来ない様に、と思って……。ですが、その実力、その舌の本物さに、私は罪悪感がどんどんと心の中から登ってきて……。」

「さぞや、楽しかったでしょうな。」

「すいません!!すいません!!」

「まぁしかし……。味は良かった。私は美食家だ。味だけで評価する。ですから、そうですな、次回はちゃんと金星のフルコースを出してください。そうすれば大目に見ましょう。」

「良いんですか!?」

「ええ。」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

パーニャンシェフは私の手を強く握り、ぶんぶんと感謝の意を表した。ウェイターも。寛大で優秀な美食家の私は、嫌がらせ事件すら綺麗に「完食」してみせた。

「うわっはははははは!!!」

後日。

「料理長!あの美食家の方が、大手グルメ雑誌にわが店のレビューを書いてくださいましたよ!」

「おお!どれどれ……」

「……この店は、料理長の性格は完全に終わっていて、ゴミみたいな人間だが、味は最高だ。読者の皆さんも一度、来てみるといいだろう。まさにゲテモノのような、食えない人間だ。」


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