第39話 霊姿 羽生晴花
田中さんのお話の、犬が吠えた相手は、ご友人のひいおじい様ではないと思います。葬儀帰りで塩を振って祓うのは、人の死にまとわりつく『邪気』であると言われています。亡くなった方がついてくるわけではありませんので、遠慮なく塩を振っていただいてよいと思いますよ。
祖母の妹さんが、亡くなられた時のことです。
まだ、私は四歳か五歳くらいだったと思います。
母方の祖母の妹さんが亡くなられたということで、祖母と両親と叔母と私の五人で、お別れのために出かけて行きました。電車を乗り継いで行った記憶があります。
お通夜があって、祖母と両親は寝ずの番をしていました。
翌日は葬儀で、火葬場へ行って、お骨を拾って、また家に戻って・・・・・・。
それから、お墓にお骨を納めに行きました。親戚一同、二、三十人はいましたかしら。ずらりと並んで、田畑の間を縫うように墓地へと歩いて行きました。
他に子供の参列者がいなかったので、私はおとなしく両親の後ろについて歩いていました。私は東京生まれの東京育ちですので、田園風景が珍しくて、母に手を引かれながら、きょろきょろと辺りを見回していました。
五分ほど歩いた所で、林のそばを通りかかりました。私は、その林の中に祖母によく似た女性が立っているのをみつけ、前を行く祖母の喪服の
「あそこに、おばあちゃんがいる」と。
祖母を相手に、向こうに祖母がいる、と言うおかしさもわからない子供でしたね。
祖母は、はっとした様子で歩みを止めて、林の方に体を向けました。祖母の手元が陽に反射して強く光りました。祖母は遺影を持っていたのです。角度が変わって光が消えてから、私はその写真に見入りました。
そこには、祖母によく似た女性が、うっすらと笑んで写っていました。林の中の女性です。
「はるちゃん、どこにいるの?」
祖母が尋ねるのに、私は林の中の彼女を指さして場所を教えました。
親戚もお坊さんも、一緒になって足を止めて見ていました。
彼らの様子から、皆には見えていないことがわかりました。
私にははっきり、見えるのに。
両親を見ると、二人とも怪訝そうに視線を交わしあっていました。
祖母は、目をこらして、私の示した場所を見ていました。けれど、見えていないのがわかりました。
「はるちゃん、あそこにこの子がいるのね?」
祖母がまた、遺影を示しながら尋ねるのに、私はとまどいながらも頷きました。祖母と同じ年頃の写真の人を『この子』と呼ぶのを不思議に思いながら。
祖母の頼みで、お坊さんがその場でお経を上げ始めましたら、その方、祖母の妹さんは、姿を隠してしまわれました。
私がそう言うと、皆、ほっとした顔をして、それからお骨を納めに行きました。帰りにまたそこを通りかかって、また、彼女がこちらを見ていましたが、今度は私は黙っていました。
後に、叔母に聞いた話では、その林の中で祖母の妹さんの遺体がみつかっていたのだそうです。
ひき逃げされたあと、そこに運ばれたようだと聞きました。犯人が見つかった話は聞いていません。
三回忌でお墓に行った時にも通りかかりましたが、彼女はもういませんでした。
私に霊の姿が見えると、私が知り、家族が知った、最初の出来事でした。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
『百物語が終わるまで』
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。
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