第34話 首無し幽霊 相川芳生
何年か前に、三か月でやめた新人さんに聞いた話です。
彼は、いわゆる鉄ちゃん、鉄道マニアで、鉄道関係の情報通だったんですよね。それで、その関係で怖い話がないか訊いてみたところ、教えてくれた話です。
中央線のK駅に、ヤバイのが出る。
私も利用していたことがあるけど、残念ながら遭遇はしてないです。噂はあったから、視える人には視えてたんだろうね。
彼、鉄也君としておくかな、鉄也君が言うには、その霊は監視カメラに映るんだって。
鉄也君が関係者に聞いた話では、その時点の五年ほど前に駅のホームから電車に飛び込んだ男だろうと言われていたそうです。
なんでも、その男は飛び込むタイミングが微妙だったらしく、頭を電車とホームの間に挟まれて、頭だけ粉々になったんだそうでね。丸っこいのにどんな具合にか、もげた頭が車輪に挟まったらしい。ホームで転がる体で怪我した人もいたって話だけど、頭だけですんだから片付けも楽だったとか運休の時間も短くてすんだとか言ってたな。人一人死んでも、問題はそっちになっちゃうね。私も電車使ってたから、人身事故で遅延って聞いたら、やっぱり迷惑だって発想が先だなあ。
僕は昔将棋を結構本気でやっててね。昇段がかかった対局に向かう一本前の通過電車に飛び込んだ人がいてねえ。もう、なかなか動かなくてね。対局に遅刻したことがあった。時間不足のせいにはしたくないけど、負けちゃったんだよねえ、その対局。
それも響いて昇段できなくて、その一年後には普通に就職したよ。鉄也君に話聞いたとき、それを思い出したね。
話がずれたけど、鉄也君が言うには、その事故は帰りの通勤時間帯に発生した。K駅の某ホームのとある車両の乗車口付近。
頭のとれた事故のあと、たびたび、同じ場所で飛び込みが発生するようになったんだそうです。
それで、あとで被害者の行動を確認したりするのに監視カメラをさかのぼってみると、首無しの幽霊が映っている。被害者も、その日いろんなところで映っている。
学校や会社に行こうとして駅まで来たけど、そのまま駅でさまよっちゃう人って結構いるんだってね。駅員さんも気づいても気にしない。利用客の多いところじゃなおさらね。
それが、帰宅時間になって家に帰るならいいんだけども、その首無し幽霊が映った日は、そういった人が帰宅時間に問題の場所で飛び込んでいる。
ある日、カメラに首無し幽霊が映ったのに気付いた駅員がいて。すでに駅員の間では因果関係があるんじゃないかと言われていたので、手が空いているタイミングだけでも映像をみていようって、交替で見ていた。
そうして、駅をうろうろしている人が数人いることがわかった。そのうちの一人と、首無しが、近い距離にいるらしいことがわかった。
これはヤバイと。
問題の時間は駅員も忙しい時間帯なんだけども、事故が発生したらとんでもなく忙しくなるので、未然に防げるなら防ごうと、時間間近になったところで、問題のホームの階段手前で、駅員の一人がその日首無しの近くにいた人物を捕まえた。
捕まえたったって、駅構内に長時間いただけだからね。普通に話しかけただけだろうけど。モニターを見ていた人によると、二人の方に首無しが歩いてくる。そして、うろついていた人に首無しの姿が重なったと思ったそのタイミングで、その人、駅員を突き飛ばして階段を駆け上がって行った。
もちろんすぐに追いかけたし、念のため飛び込みポイントにも人を置いていた。
階段を駆け上がってきて、一生懸命通勤混雑の中をそのポイントに向かって走って来て。
でも、時間を引き延ばしたおかげで、電車がそのポイントを通過する方が早かった。
駅員を突き飛ばした人は、電車が脇を通過していったら途中でへたり込んじゃったので、保護されたそうです。
飛び込む意思があったと聞き取りできたので警察呼んでね。一日中うろうろしているうちに、夕方電車に飛び込もう、あのホームにしよう、あの場所にしようって、今階段を上って、来る電車にしようって、だんだん思考がせばまって行ったと語ったそうだよ、その人は。
その後しばらくは監視を続けて、お偉いさんも立ち会ってお祓いして以降、その場所での飛び込みはなくなったって話でした。
もっとも、今も、その駅は沿線でダントツの件数らしいけどね。飛び込みの。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
『百物語が終わるまで』
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。
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