第四巡 呪い
第19話 懐剣 神谷冬季
これも、知り合いの刑事さんに聞いた話です。連続自殺事件。
世間では、それぞれ単発の自殺として認識されています。殺人が疑われたもの以外は、ほとんど新聞とか記事にならなかったそうですしね。
それは、お寺に泥棒が入ったことから始まりました。
歴史のあるお寺だったので、古美術品を色々盗まれて。その中に、供養のために納められた懐剣があったんです。
なんでも、その懐剣の持ち主はそれで自殺してしまうっていう伝説があるんだそうで、それで、江戸末期だか明治だかからそのお寺にあったものなんです。それが、盗まれた。
盗まれた数日後、最初の自殺体がみつかりました。
竹やぶの中から、喉を刃物で突いた遺体がみつかりました。遺書はポケットからみつかり、借金を苦にした自殺だと裏づけも取れました。ただし、 喉を突いた凶器がみつからない野良犬がくわえてちゃったんじゃないかとも、まあ、もしや殺人か? とも。なんにせよ刃渡りがそれなりにある十分に殺傷力のある刃物が消えている。連日周辺を探しまわったそうですよ、警察は。
最初の遺体が発見された二日後に、今度は河原で遺体がみつかりました。これは首筋と左手首に刃物傷がありました。ほとんどためらい傷ですね。それもあって、遺書などはみつかりませんでしたが、自殺とされました。けど、これまた凶器がなかった。河原で、体は半分水に浸かっていたし、川に流されたんだろうってことになりましたけど、いくらさらっても出てこなかったんだそうです。最初の現場から二キロほど離れた現場だったので、いずれにしろ川も探す予定だったそうなんですが、みつからないうちに大雨で捜索中止になって、数日は川は諦めるしかなくなった。
次は少し間を空けて河原の遺体発見から一週間後。川の捜索を再開する前に、今度はアパートの一室で遺体が発見されました。鍵は開けっ放し、ポストには新聞がたまっていた。不審に思った大家が発見して、やはり凶器はなく、血まみれの死体に殺人だって通報がきたんだそうです。けど、やっぱり遺書があって、そこには、知人から預かった刀で自殺する、と書いてあったんだそうです。
すべて自殺だとしても、連続三件の凶器なしの自殺です。そこでようやく刃物の出どころのヒントが出てきたので、関連性はともかくとしてその知人を探すのに全力を尽くした。結果、警察はその知人を二日でみつけだして事情を聞いて、ようやく、その凶器を発見したんだそうです。彼の話から、 彼の近所の家で、新たな自殺体と一緒に。
結局、事件はすべて、自殺でした。彼は自殺幇助の罪にも問われませんでした。ただし、窃盗罪で起訴されました。彼は、窃盗犯の一人だったんです。
お寺から二人の仲間たちと一緒に盗みを働いて、何故か、その懐剣だけは手元に残しておきたくなったんだそうです。仲間たちにも内緒でね。どうしてもそうしたくなったんだと、供述したそうです。けど、仲間にみつかるとやっかいなことになる。それで、盗難事件の翌日に、品物を売り飛ばした仲間が彼の家に集合するというとき、一時的に彼はその懐剣を知人に預けたのだそうです。
分け前をもらって仲間が帰ったあと、彼は預けた懐剣取り返しに行く途中、近道の竹やぶを通って、そこで懐剣を預けた相手が死んでいるのをみつけた。月明かりの中、喉に深々と刺さっている凶器を見て、どうしても持ち去りたくなって、本人曰く、頑張って引っこ抜いた。
でも、血まみれのそれに怖気づいて、ふらふらと家から遠ざかるように歩いているうちに河原についた。河原に懐剣を投げ捨てて、手を洗って家に帰ったものの、今度はそれが窓を突き破って襲ってくる夢を見て怖くなり、せめてどこかに密封して埋めようと、暗いうちに再び河原に回収に行ったら、今度は知らない人がそこで死んでいて、怖くてまた懐剣を持って帰って来てしまった。
結局、泥棒仲間の一人に白状して、後日またもう一人の仲間と一緒に対応を考えることになり、懐剣一旦預けた。
もう一人の仲間と連絡がとれたので集まろうと、懐剣を預けた仲間の部屋に行ったら、これまた死んでいた。先にみつけたのはもう一人の仲間で、そいつがまた何故か懐剣だけ持って出てきて、それを彼にどうとでもしろと押し付けた。もう二度と会わない、と言ってね。
途方に暮れた彼は、どうせならと、嫌っていた近所の男の家の庭に懐剣を放り込んだ。
翌朝見に行ったら庭に懐剣はなくて、家の中が血まみれになっていた。今度は外から懐剣が転がっているのを確認しただけで、放置したんだそうです。
いろいろ支離滅裂ですけどね、行動が。自分でもなんでそんなことをしたのかわからないと供述したそうですよ。
さすがに、警察も異例の迅速さでお寺に懐剣を返したそうです。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
『百物語が終わるまで』
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。
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