異世界での再会、妹は魔法少女
第4話 何故、彼は悲劇の復讐者になったのか?
『なあ、相棒。一つ聞かせてもらっていいか?』
「助けてもらった恩があるから別に構わねえけど、相棒って言うな」
『そう言うなよ。同じアモンなんだ、運命的な出会いを果たした相棒に親しみを込めて呼んでるんだからよ』
悪魔たちの巣から脱出した俺は、その翌日には大きな街にいた。
もしかしたら追手を差し向けられるかもしれないから、できるだけ人が多い場所に身を潜めた方がいいというアモンのアドバイスに従った形だ。
ちなみにだが、囚人服はアモンの力で別の服に変えてもらった。
特に目立つところのないTシャツと黒のファー付きジャケットにダメージジーンズという、厳ついがまあまともと呼べるデザインの服は、少なくとも囚人服よりはマシだと思う。
そして、アモンはシルバーのブレスレットに憑依した状態で契約者である俺と行動を共にしていた。
このアモン、かなりおしゃべりな奴で相手をさせられている俺は若干辟易させられてしまっている。
しかも言葉にして会話しているわけではなく、どういうわけか頭の中に直接あいつの声が響くせいで無視することもできない。
アモン曰く、俺の思考を読んでいるわけではないから、伝えようとしていないことはこっちには伝わってこないとのことだが……最低限のプライバシーが守られているとはいえ、頭の中に響く声はやかましいことこの上ない。
ただ、俺が持っていないこの世界の情報に関しては適時教えてくれているし、協力的な悪魔であることは間違いないみたいだ。
人間が好きだという言葉にも嘘はないのだろうと考える俺は、一応恩人(人ではないが)であるアモンの質問に答える構えを見せる。
「んで? 何が聞きたいんだよ?」
『ズバリ、だ……相棒は本当に人を殺したのか?』
アモンのその質問に、俺は動かしていた足を止めた。
そのまま、無言でいる俺に対して、アモンはさらに言葉を続ける。
『俺には相棒がどうにもS級犯罪者って呼ばれるような人間には見えねえ。動けない爺さんを背負って逃げたり、安全圏への脱出より敵討ちを優先することを考えても、相棒は明らかに善人寄りの魂を持ってるはずだ』
「ありがとう、悪魔にそう言ってもらえると自分がいい人間だって勘違いできそうだ」
『なあ、相棒は本当に人を殺したのか? 誰かに罪を擦り付けられたとか、誰かを庇ってるとか、そういう事情があるんじゃないか?』
悪魔が人の善性を信じるだなんて思わなかった俺は、そのおかしさについ笑みを浮かべてしまった。
小さく息を吐いた俺は、自嘲気味に笑いながらアモンの質問に答えてやる。
「……残念ながらそういうんじゃねえよ。俺は本当に人を殺した。立派な大量殺人鬼だ」
『……どうしてそんなことをした? 一体化して戦ったからわかる。相棒は、殺すことに喜びを見出すような類の人間じゃあねえだろ?』
見透かされているようなその言葉に、苛立ちを覚えることはなかった。
恩がある悪魔に対し、俺は正直に自分の身に起きたことを話していく。
「……俺には妹がいたんだ。風花って名前でな、ちょっと体が弱いけど本当にかわいくて、優しい妹だった」
生まれた時から病弱で、だけど本当に優しく、かわいい妹だった。
俺も両親も、風花にはありったけの愛を込めて接したし、風花も俺たちのことを愛してくれていたと思う。
幸せだった、胸を張ってそう言える人生を俺たちは過ごしていた。
……あの日が来るまでは。
「ある日、俺たち家族が出掛けた先でちょっとした事故が起こった。その事故で妹は怪我をして、病院に搬送されることになったんだ。ただ、病院までの距離はそう離れちゃいなかったし、適切な治療を受ければ妹も助かるはずだった。だが――」
『……何かあったのか?』
「ああ。地球環境を守る会だとか、この星の未来を考える会だとか……そんな感じの名前の環境保護団体が病院に続く道のど真ん中で座り込みをしてたんだよ」
救急車の中で妹を励ましていた俺たちの前に現れた深くて大きな絶望は、人間の姿をしていた。
救急隊や俺たち家族の説得を受けても、妹が苦しんでいることを伝えても、その人間たちは抗議をやめないどころか半泣きになって自分たちの行動の正当性を主張し、道を空けようとはしなかった。
「結局……そのせいで妹は間に合わなかった。直接手を下されたわけじゃない。だが、妹は、風花は……あいつらに殺されたんだ」
『だから相棒は復讐に走った、そういうことか?』
「……あなたの妹の死は、この世界の未来を考える大きなきっかけになる。これは必要な犠牲なんだ……道を空けてくれって頼む俺に、あいつらはそう言ってきたよ。この星にとっては、小さな犠牲だともな。俺は、どうしてもそれが許せなかった」
多分、あいつらは善人だったのだろう。地球という大きな単位で見れば、妹の命はほんのちっぽけなものだということも正しくはある。
だが、俺たち家族にとって風花の命はちっぽけなものではなかった。到底看過できる犠牲じゃなかったし、あいつらの主義主張のために利用されるべき命でもなかった。
妹を殺され、そのことに対して何の罪悪感も抱いていない連中の顔をニュースで見た時、俺の中で何かが壊れたことを覚えている。
そして俺は、抗議活動をした団体の集会に潜入して……そこで、六十六人殺しという大罪を犯した。
「一連の出来事は連日ニュースで報道されたみたいだ。環境保護団体に妹を殺された青年の復讐劇……元凶の団体こそ悪で、俺を罪に問うのはおかしいって声も多く上がってたらしい。だけど、俺がやったことはただの殺人……そこにどんな理由があったって、その罪は消えない」
『それで【悲劇の復讐者】なんて異名で呼ばれるようになったのか』
「気に入ってないけどな、その名前」
俺はただの犯罪者だ。そんな大層な名前で呼ばれるべき人間じゃあない。
まあ、特別犯罪者は何かしらの異名を持つ人間ばかりだし、俺にも何かいい名前を付けたかったんだろう。
『話したくない過去だったろうに、俺の質問に答えてくれてありがとうな、相棒』
「別にそっちは構わねえよ。ただ、相棒って呼ぶんじゃねえ」
アモンへとそう言いながら、俺は思う。俺はやはり、ただの殺人犯だ。
元の世界で六十六人、こっちの世界でもまた一人……命を奪っている。
でも、そんな俺だからこそできることもあるはずだと、この世界に起きている異変を理解している人間の一人として、今後のことを考え始めた時だった。
「っっ!? 何だ!?」
突如として激しい振動が響き、爆発音が耳に飛び込んでくる。
明らかに何か事件が起きていると察知した俺へと、アモンが言った。
『相棒、どうやら魔人が近くにいるみたいだ』
「相棒って言うな。昨日、こっちの世界に呼び出された連中か?」
『いや、多分違う。あいつらはまだ慣らし運転の最中だろうからな』
アモンの言う通り、力を得たばかりの俺たち異世界人がいきなり外で暴れるというのは少し不自然な気もする。
ただ、完全にそうじゃないと断定できない俺は確認のために騒ぎの中心部へと向かおうとしたのだが……そこで何かがものすごい勢いで吹き飛んできた。
「はっ!? なんだぁ!?」
「くっそ~……っ! あいつ、思いっきりふっ飛ばしてくれちゃって……!」
飛んできた赤い何かは、そのまま近くの店の壁に叩きつけられた後でそんなことを呻きながら立ち上がった。
燃える炎のような長髪を靡かせ、派手なデザインのドレスのような服を着ているそれが女の子であることに気付いたタイミングで、あちらも俺の存在に気付いたようだ。
「さっさと逃げて! すぐに魔人がここに――!」
「はっはっは~っ! どうだ、ブライトフレア! 俺のパンチは効いただろう!?」
赤い女の子が俺にそう言い終わるよりも早く、どこからかファンシーなゴリラのような怪物が跳んできた。
そのゴリラに煽られた女の子は顔を真っ赤にすると、大声で叫び返してみせる。
「なめんじゃないわよ! 力だけの取り柄の脳筋魔人なんて、ちゃちゃっと浄化してやるんだから!!」
「むっほっほ~! やれるもんならやってみろ~!」
どこかコミカルなやり取りを繰り広げた女の子と怪物が激しい戦いを繰り広げ始める。
炎を操る女の子が果敢に怪物に殴り掛かる様を唖然と見つめていた俺は、アモンに説明を求めた。
「アモン、あれはなんだ? ゴリラは魔人だろうが、あっちの女の子は……?」
『あれはブライト、魔人と対を成す存在……いわば、正義の魔法少女ってやつだな』
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次話、プリ○ュアの放送時間に合わせて8時半に更新します。
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