EVIL LIVE~ニチアサ世界に転移してしまった【悲劇の復讐者】、魔法少女になった妹を守るために悪魔と契約して転生凶悪犯罪者を狩り殺す~
烏丸英
プロローグ~凶悪犯罪者百名、異世界召喚される~
第1話 【悲劇の復讐者】大神怜仁
『起きて、お兄ちゃん』
……とても懐かしい声が聞こえた気がした。
俺を呼ぶその声は温かくて優しいのに、どうしてだか寂しさを覚えてしまう。
「風花……」
自分でも意識していない内にその声の主の名前を呟いた俺は、ゆっくりと目を開ける。
そうすれば、俺の顔を覗き込む不安気な老人の姿が目に入った。
「あっ……! お、おはようございます。その、大丈夫ですか……?」
「ん……? ここは……?」
おどおどとした態度を見せる老人を一瞥した後、むくりと起き上がった俺は周囲の光景を目にして小さく呟いた。
周囲を囲む岩壁と暗い空間……自分がどこからどう見ても洞窟のような場所にいることに気付いた俺は、現在の状況がわからずに困惑してしまう。
「何がどうなってるんだ? 俺は、確か……」
「そ、そうですよね? 私たち、飛行機に乗って、それで……!」
俺の呟きに反応し、再び老人が声をかけてくる。
無視し続けるのも悪いと思った俺は、自分を落ち着かせるための深呼吸をした後で彼に応えた。
「その口ぶりと格好から察するに、俺たちは同類っすよね? 乗ってた飛行機ってのも……?」
「は、はい。囚人輸送用の飛行機です。その、同類かと聞かれると少し違うような気もしますけど……」
そう言いながら、自分が着ているオレンジ色のつなぎ服をアピールした老人は気まずそうに笑った。
黒いつなぎ服を着ている俺もまた、彼が何を言わんとしているかを理解すると共に頬を掻く。
目の前の老人も、俺も……刑務所に収監されている立派な犯罪者だ。
それも普通の犯罪者とは一線を画した特別な犯罪者として、これまた特別な刑務所に収監されていた。
特別刑務所内には合計百名の犯罪者がいて、それぞれが罪の重さや犯罪の内容によってランク分けされている。
この老人が着ているオレンジ色のつなぎは最低ランク(そこまで重罪を犯したわけではないという意味だから、むしろ最高ランクだと思う)のC級犯罪者としての身分を表すもので、逆に俺が着ている黒のつなぎ服は……と考えたところで、恐る恐るといった様子で彼が質問を投げかけてきた。
「あの……あなたって
亜門怜仁、それが俺の名前だ。年齢は十八歳。逮捕されるまではどこにでもいる普通の高校生だった。
犯した犯罪は殺人。それも一人二人ではなく、六十六人もの人間を殺した大量殺人鬼として特別犯罪者に認定された。
自分の罪を思い返し、犯行に及んだ際の記憶を蘇らせかけた俺は、首を振ると共に老人に問いかける。
「……そうです。そう言うあなたの名前は?」
「もっ、申し遅れました! 私、
そう言って、緊張気味に老人こと鷺宮さんが引き攣った笑みを浮かべる。
まあ、大量殺人鬼と二人きりという状況なら嫌でもそんな反応になるよな思いながら、俺は自分の両手を見つめた。
「手錠も消えてる。他の連中も見当たらないし、いったい何がどうなってるんだ?」
「私たち百人の犯罪者の他に警察官も大勢いたはずなのに、どこに消えちゃったんでしょうね……?」
定期的に行われる刑務所移動のために飛行機に乗ったことは覚えている。問題は、そこから何があったかだ。
無事に目的地に到着したとは思えないし、墜落したとしても不可解な点が多過ぎる。乗っていた飛行機や俺たち以外の乗客がいないことを不審に思っていた、その時だった。
「お前たち、動くな!!」
洞窟の中に威圧するような大きな声が響く。
驚いて声が聞こえた方向へと顔を向ければ、銃を構える警察官の姿が目に映った。
「お前たち、手錠はどうした? 他の仲間は? これはお前たちの仕業なのか? 何が起きている!?」
「あわわわわわっ! わあっ!?」
あの警察官の顔には見覚えがあった。輸送任務のために俺たちと一緒に飛行機に乗り込んだ、若い男だ。
どうやら彼も状況が飲み込めていないようで、明らかにパニック状態に陥っている。
「お前たち、手を上げろ! この状況はお前たちが引き起こしたのか!? ここはいったいどこだ!? 何を企んでいる!?」
「俺たちは何もしてませんよ。本当に、何もわかんなくって困ってるくらいです」
「そう言いながら、実は何か知っているんじゃないのか? 貴様はS級犯罪者、脱走計画を企てていたんじゃないのか?」
血走った目で俺たちを睨みながら銃口を向ける警察官が無茶苦茶なことを言う。
パニックになっているせいでいつ引き金を引いてもおかしくない警官の様子に恐怖する鷺宮さんは、過呼吸気味になりながら叫んだ。
「わたっ、私は何も知りません! だ、脱走なんて企んでません! な、なにせ、もう少しで通常の刑務所に戻れるところだったんですから!!」
「なに……?」
鷺宮さんの言葉には、警官だけでなく俺も驚きを隠せなかった。
特別犯罪者として認定された人間が普通の犯罪者として再認定されるだなんて、前代未聞だ。
そんな話は聞いたことがないと驚く俺であったが、鷺宮さんは追い詰められながら真剣に話を続けていく。
「見ての通り、私はC級犯罪者! 詐欺で数億稼いだとはいえ、他の特別犯罪者と比べればちんけな罪です! しかも年齢が年齢ですし、警察の上の方たちも脅威らしい脅威はないと判断してくださったんですよ!」
「し、しかし、そんな話は……」
「娘が! 娘が待ってくれているんです! 特別刑務所から通常の刑務所に移ったら、娘が面会に来てくれるって! 手紙が送られてきたんですよ! そんな時に脱走だなんて大それたことをするわけないじゃないですか~!」
そう叫んだ鷺宮さんがわんわんと大声で泣き喚く。
情けなくもあるが、悲壮感たっぷりなその姿はどう見たって嘘を吐いているようには見えなくて……そんな彼の姿を見ている内に、俺も警察官も落ち着き始めていた。
「わかった。いきなり銃を向けて悪かったと思ってるから、お前も落ち着け」
「は、はひぃ……!」
鼻水が垂れるくらいに泣きじゃくる……というより、自分よりパニックになっている人間の姿を見たことで冷静さを取り戻した警官が銃を下ろしながら言う。
多分、鷺宮さんはこれを狙ってオーバーな反応を見せたんじゃないかと、数億稼いだ詐欺師である彼の妙技に感心しつつ、俺は警察官に尋ねた。
「他の警官たちはどこにいるかわからないんすか? 無線とかで連絡は……?」
「わからん。さっきから試しているんだが、全く連絡が取れな――っ!?」
ホルスターに銃をしまい、こちらへと近付きながら俺の質問に答えていた警官が、不意に言葉を途切れさせた。
直後、苦しそうに顔を歪めた警官は首を掻きむしり始め、顔も真っ赤に染まっていく。
「あ、あの、どうしたんですか……?」
「た、助け……っ!!」
何かが妙だと気付いた鷺宮さんが声をかければ、警官は片腕をこちらに伸ばしてきた。
それが助けを求めているが故の行動だと理解した俺は慌てて駆け寄ろうとしたのだが……びくん、と最後に一つ痙攣した警官は、全身から力が抜けたかのようにその場に崩れ落ちてしまう。
「……死んでる。いったい、何が……?」
「ひ、ひいいっ!?」
倒れた警官は、もう息をしていなかった。
真っ赤だった顔は蒼白に染まっており、瞳にも光が宿っていない。完全に命が潰えていることを見て取った俺は愕然としながらその遺体を見つめていたのだが、顔から首に視線を向けたところで違和感に気付いた。
「この跡は……?」
必死に搔きむしられていた首に、深く何かが食い込んだ跡がある。
爪ではない。それよりもっと細くて長い何かが、警官の首を絞めたのだと……直感で理解した俺が同時に彼の死因に辿り着く中、頭上から声が響いた。
「危なかったな。お前ら、俺に感謝しろよ?」
「!?!?!?」
到底、聞こえてくるはずのない方向から響いた声に驚いた俺と鷺宮さんが上を向けば、そこから黄土色をした何かが下りてくる様が目に映った。
何かにぶら下がるようにゆっくりと下りてきたそれが小さな音を響かせながら地面に足をつけた時、声を震わせながら鷺宮さんが呻いた。
「ば、ば、ば、化物……っ!?」
彼の言う通り、俺たちの目の前には化物が立っている。
黄土色の体色をした、額に幾つもの目が並んでいる化物。鋭い牙を生やしているそれは、口の端を吊り上げながら俺たちへと言った。
「命の恩人にひどいこと言うじゃねえか。折角、
「……待て。その声……お前、まさか……!?」
「ああ、わかっちまうか? 流石はS級犯罪者、こんな状況でも冷静だな」
蜘蛛と人間が交じり合ったような化物の姿に圧倒されかけていた俺は、その化物の声に聞き覚えがあることに気付く。
同時にあの警官が絞殺されたことを思い出した俺がまさかという思いを抱きながらも声をかければ、蜘蛛の化物は楽しそうに笑いながら人としての姿を俺たちに見せてきた。
「あ、あなたは……!!」
「B級犯罪者、【連続絞殺魔】
「大正解! 【
小太りの、お世辞にも格好いいとは言えない容姿の男。
一見するとどこにでもいるような人間にしか見えないこの男もまた、俺たちと同じ特別犯罪者だ。
字雲政則……犯した罪は俺と同じ『連続殺人』。二年間に渡り、日本の各地を逃亡しながら人を殺し続けたシリアルキラーだ。
字雲は老人か子供、あるいは女性といった自分より弱い人間をターゲットとし、犯行を重ね続けた。
犠牲者の数は二十名。その全員を首を絞めて殺していることから、【連続絞殺魔】という異名と共に恐れられている。
「自分の手の中で消えていく命の脈動を感じられて楽しいから」……絞殺に拘った理由を、字雲はそう語った。
命をなんとも思っていない上に二十名もの犠牲者を出した字雲ですらB級犯罪者ということを考えると、俺たち特別犯罪者は本当に危険な集団なのだと思ってしまう。
その中でも最上位ランクの危険人物だと警戒されている自分自身にも嫌気が差すなと、そう思いながらニタニタと笑う字雲を見つめていた俺であったが、そこで意を決したように鷺宮さんが口を開いた。
「あの、字雲さん……ど、どうして……?」
「ああ、この力か? 安心しろよ。お前らも契約さえすればすぐに手に入れられる」
「契約……?」
化物に変異していた字雲が発したその言葉に、俺は何か嫌なものを感じた。
契約……それが何を意味するかを考える俺であったが、鷺宮さんが抱いた疑問はそこの部分ではなかったようだ。
「い、いえ、そうじゃなくって、あなたが警官を殺したんですよね? どうしてそんなことを……?」
「あ? そりゃあ、お前たちを助けるために決まってんだろ。こいつ、お前たちに銃を向けてたじゃねえか」
「でっ、でも、落ち着いてくれてましたよね? 状況が全くわからない今、警官とはいえ、協力し合った方が良かったんじゃ……?」
「……くっ、くくくくくっ! なるほど、確かにそうだなぁ。お前さんの言う通りだ……!」
怯えながらも自分の意見を述べた鷺宮さんへと、不気味な笑いを浮かべながら同意する字雲。
そのままぽんぽんと鷺宮さんの肩を叩いた字雲は……何の前触れもなく、握り締めた拳を彼の腹に叩き込んだ。
「ぐはっ……!?」
「鷺宮さんっ!」
殴り飛ばされた鷺宮さんへと駆け寄り、声をかける。
苦し気に呻き、荒い呼吸を繰り返す彼を抱き締めながら顔を上げた俺が字雲を睨めば、あいつは腹の立つ笑みを浮かべながら吐き捨てるようにこう言ってきた。
「お前、詐欺師のくせに馬鹿なんだな! 俺が本当にお前たちを助けるためにこの警官を殺したと思ってんのか? んなわけねえだろ! 俺が殺したかったから殺したに決まってんだろうがよ!」
最初からわかっていた。字雲はそういう男だ。
誰かを助けるだなんて殊勝な真似ができる人間が二十名もの命を嬉々として奪ったりなんかしない。こいつはただ、自分の中のどす黒い欲望を満足させようとしただけで、俺たちのことなんてなんとも思っていない。
……いや、違う。少し訂正だ。
俺たちのことをどうでもいい存在だと思っていると言ったが、そうじゃない。字雲は俺たちのことも警官と同じ……殺してもいい存在だと思っている。
字雲の目を見ればわかる。あいつはまだ、自分の中の欲望を解消し切れていない。
次は俺たちの番だと……そう理解した俺は、奴から逃げる方法を考えていく。
(ここがどこだかも、出口がどこにあるかもわからねえ。だが、逃げないとやられる……!!)
視線を動かし、逃げるための道を探しながら字雲の動きも窺う。
負傷している鷺宮さんを連れて逃げ延びる方法を模索する俺であったが、そこで予期せぬ事態が起きた。
「ん? 何だ……?」
ザッ、という何かが機敏に動き、地面を蹴る音が響いた。
俺と同じく、その音を耳にして周囲を警戒し始めた字雲を、背後から何かが急襲する。
「うっ!? うおおおっ!?」
その何かに突き飛ばされ、バランスを崩した字雲が地面に倒れ込む。
奴の背中を蹴ってジャンプした何かは、そのまま俺たちの前に着地し、こちらを見つめてきた。
「赤い、狼……?」
鋭い目でこちらを見つめる乱入者……真っ赤な毛をした、とても大きな狼の姿を目にした俺は、思わずそう呟いてしまった。
大きな炎と見間違えるくらいに煌めく赤い体を見せつけるように立つ狼は、字雲が立ち上がろうとしている気配を感じるや否や、大声で叫んだ。
「お前ら、死にたくなかったら俺について来い!」
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プロローグ部分になる3話まで更新してます。
そこまで読んでいただけると嬉しいです。
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