第5話 二人で歩く
どこからか、シオが異世界から来た者で、由喜乃もそうだと噂がたった。だからこそ魔力が大きいと。
貴族は魔力が大きい跡継ぎを欲する。
シオは師匠から遠回しであるが、由喜乃を一人にしないように言われていた。
彼は由喜乃の性格を誤って理解しており、家に戻った時、日本語で書かれた置き手紙を読んで血の気を失った。
警報装置として渡したペンダントの気配を手繰って、彼は行き先を見つけ出す。
屋敷で邪魔をする者すべてを力づくで押しのけて、奥の扉を開けた時、その光景を見て怒りで我を失いそうになった。
殺すのではなく、氷で動きを止めた。
こんな目に遭ってでも彼女は日本に帰りたいのだと、シオは完全に理解した。そして彼女を日本へ返すことを約束した。
ローマ字で日本名が彫られた指輪を見つけ、それを使って日本へ返そうとしたのに、由喜乃は泣き出してしまった。
まるで八歳のシオのように。
もう少しいたいという彼女の希望を叶え、今に至る。
「お米とかこの世界にないのかな?シオくんは知ってる?」
「聞いたことないけど」
由喜乃は料理をするのが好きで、毎日色々研究している。炙る温度とか、火力調整のために、彼女の火の魔法のコントロールはシオより勝るようになってしまった。
「そうだ。由喜乃。どっかに一緒に旅行へ行く?お米がある国があるかもしれないし」
「そうだね」
彼女は曖昧に笑った。
★
由喜乃がしばらく残ることを決め、一か月がたった。
彼女にとってシオは保護すべき男の子だった。
八歳児だったし、当然だ。
再会したシオは成長していて、別の人のようになっていた。
由喜乃がいつからか、彼を保護すべき対象ではなく、異性として意識してしまったのか、彼女には本当にわからない。
だけど、由喜乃はこの気持ちが恋愛感情であることに気が付いてしまった。
(一緒にいたい。だけど、今のままはいやだ。私はシオくんにとっては恩人もしくは過去のあと腐れ?義理で保護してもらっている気がする。そんな関係は嫌だ)
「で、私に相談なの?仕事?魔法を使った?ああ、あんた文章読めないし。ちょっと、魔法使いを甘く見過ぎよ」
由喜乃が相談できる相手は限られている。
シオか、シオの師匠サリーだ。
だからこれからのこと。
まず自立だと仕事のことを相談したら一蹴された。
(魔力が高いから行けると思ったのは間違いだった。ごめんなさい)
心の中で謝っていると家政婦の仕事を紹介された。
「……えっと」
仕事先は、シオの家。現在の由喜乃の家でもある。
「我ながらいい仕事したわ」
シオの師匠サリーは腕を組んで、満足そうに微笑んでる。
「え?」
「師匠、ご手配ありがとうございます」
「シオくん、あの私、仕事見つけようとして」
「うん、そうだね。僕の家の家政婦、頑張って。今までと同じ働きでいいから。お給料はちゃんと出すよ。今までごめん」
「いやいやいや、私は」
「何が不満?」
「不満はないんだけど、関係を見直すため、自分を見つめ直すために一人で生きていこうと……」
「もう見つめたよね?関係って誰のこと?由喜乃」
シオは圧力たっぷりに微笑む。
「もう、あなたたち。どっちも正直になりなさい。間に挟まれる私が迷惑だわ。私だって、恋をしたいのに!」
「恋?!」
そう言ったのは二人同時だ。
「お邪魔虫はここで退散するわ。じっくり話すのよ。私にもう相談しないでちょうだい。私は、私の恋を探すのよ~」
サリーは二人に手を振ると、さっさといなくなってしまった。
「あの……」
「えっと…」
二人が同時に口を開く。
「えっと、私が先でいい?」
「いや、僕が先に言いたい」
二人は譲らず、
「好きになったみたいなの」
「好きだ。帰らないで」
二人はお互いの言葉を聞いて、顔を真っ赤にさせる。
「返事は?」
しかし先に再び口を開いたのはシオだった。
「……一緒にいたい」
「ありがとう!」
★
正式に付き合うようになって、シオの両親が訪ねてきた。
「君が由喜乃姉ちゃんか」
そう言われて、由喜乃は思わずシオを見る。
彼は動揺しており、明後日の方向を眺めている。
(可愛い。なにそれ)
「シオは、いつも君の事ばっかりを話していたよ。二ホンの話と言えば、君の話が中心だった」
「お父さん!」
「ああ、悪かったね。シオ」
(めちゃめちゃ、照れる。そんなこと)
その後もシオの両親は、彼の子供のころの話をたくさんしてくれて、由喜乃は嬉しかった。彼自身は恥ずかしくなったのか、とうとうその場からいなくなったが。
(六歳まで彼は幸せじゃなかった。だけど、異世界に来て、彼は両親に恵まれ、幸せな生活を送れるようになった。本当によかった)
「シオは寂しがり屋だ。私たちの代わりに君がシオの孤独に寄り添ってくれるからとても嬉しいよ」
★
シオはいたたまれなくなり、庭に出ていた。
彼の両親と由喜乃は楽しそうに話している。
由喜乃のことは、拾ってくれた両親に沢山話した
それはいいことばかりではない。
彼が恨んでいること。
小さいときは責任転嫁することが多くて、自分を引き留めてくれなかった由喜乃を恨むこともあった。
(きっと両親はそのことを話さないだろう)
しかし、シオは由喜乃に打ち明けようと決める。
あの後、何があったのか、彼女は知らないだろうし、これからずっと一緒にいるなら、知るべきだとも思ったからだ。
「シオくん」
彼女が彼を呼びに庭に出てくる。
「由喜乃。聞いてほしい話がある。僕があいつに連れていかれた後の話だ」
そう言うと彼女は怯えた顔になる。
悪いことが起きたことは予想がついているだろう。
シオの心に、急にあの時の気持ちが蘇ってくる。
「由喜乃。僕は実の父親に売られそうになったんだ。トランクにいられて運ばれ、あと少しだった。異世界に転移できてなければ、今頃僕は別の国だ。もう死んでいるかもしれない」
「シオ、くん」
「僕はあなたを恨んだよ。あの時」
「シオくん、ごめんなさい」
彼女が泣き始める。
すると彼の黒い気持ちは溶けていき、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「ごめん。僕こそ。怒りをぶつけたいわけじゃないんだ。僕はただ知ってほしかった。僕に何があったのか。僕が何を考えていたのか」
「……シオくん、私の事、本当は嫌い?」
「そんなことないよ!好き。ううん。多分これは愛だ。ずっと深い。一緒にいてほしい。どこまでも。どこにもいかないでほしいという強い思いだ。こんな押しつけがましくてごめん」
(そう、これは恋なんかじゃない。愛、執着だ。一緒にいてほしい。僕と一緒に。こんなんじゃ嫌われる)
「シオくん」
名を呼ばれ、ぎゅっと由喜乃にシオは抱きしめられる。
「うん。わかった。ずっと一緒にいるよ」
触れた部分から彼女の温かさが伝わって来る。
ほろほろと彼の黒い感情が消えていく。
いつものように彼の中でその感情が小さくなる感じではなく、完全に溶けていく感じだった。
「シオ、ユキノ。さあ、食事にしますよ」
シオの
抱き合うところを見られ、二人は真っ赤な顔で振り返った。
「行こう。シオくん」
「うん」
二人は手を繋いで歩いていく。
優しい日差しが二人を照らし、その未来を祝福しているようだった。
(終わり)
異世界で再会した少年が年上になっていたんだけど ありま氷炎 @arimahien
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