「DDクラスと恋愛偏差値」
イロイロアッテナ
第1話 DDクラス
「それで飯田ちゃん、結婚相談所には登録したの?登録してないの?」
暑さがようやく落ち着いてきた秋の日の午後、私はDDクラスにいた。
「ねぇねぇ、飯田ちゃんどうなの?」
クラスの1番後ろ、私から見て左斜め後方にいた山田さんが右手で首を揉みほぐしながら、左手を微妙に上げている。
「まずな山田、飯田ちゃんじゃない。飯田先生。補講でも授業中は飯田先生な。」
山田さんは首を揉みほぐしながら口を尖らせる。
「わかったけど、で、どうなの?」
「プライベートはトップシークレットや。それより、再追試で全員崖っぷちって認識してるか?」
教壇に両手をついた飯田先生はDDクラスの面々を見渡した。
「っていうか、担任の私が現国の担当なのに、何で、おまえら揃いも揃って、現国で再追試を受けてんねん。」
飯田先生の言葉に私は思わず首をすくめたが、山田さんは眠たそうに目を擦り、田中くんも、だるそうに机に突っ伏している。背筋を正して前を向き、飯田先生を見つめているのは佐藤くんだけだった。その横顔を私はこっそり横目で見つめた。
「でも飯田ちゃん、俺らもガチでやってんのよ。」
1番後ろで、机の足を蹴って椅子にもたれかかり、バランスを微妙にとって揺れている田中くんが手を挙げた。
「だから問題やねん。手抜いてDDに来てるんやったら、こっちもそないに心配せぇへんけど、お前ら全員マジやろ?マジのガチで現国できへん子やろ?」
飯田先生はクリーナーを大きく動かしながら、ホワイトボードに書かれた文字を消し、振り返りながら大声で言った。
「うわ、できへん子って傷つくわ。」
山田さんが笑いながら周囲を見渡して同意を求める。私は慌てて目線を外して下を向いたけど、山田さんの目線は当然のように私を通り過ぎ、田中くんと佐藤くんへ注がれた。田中くんはへらへらと笑いながら山田さんにうなずき返していたが、佐藤くんは、その目線を完全に無視して前を見続けていた。
「なぁ、佐藤もそう思わへん?」
山田さんの言葉に佐藤くんは前を向いたまま、目線だけ、チラリと山田さんに向け、小さなため息をついた。
「現国ができないのは、飯田先生の言う通り事実だ。だから、DDにいるんだろう?」
そう言うと、佐藤くんは、また目線を前に戻した。佐藤くんの言葉に、山田さんは鼻にしわを寄せてそっぽを向いた。
そうなのだ。
私たち4人は、追試をさらに落ち、再追試のためのダブルダッチクラス、通称DDに集められた、いわば、逆選抜だ。
ダブルダッチ、すなわち「ちんぷんかんぷん」ってこと。
私たちが通う県立雛園高等学校、通称ひよこーでは、赤点後の追試に落第するとラストチャンスとして再追試を受けることになる。もし、それも落ちると本当に留年することになるから、飯田先生の言うとおり、今の私たちは崖っぷちだ。
そんなDDクラスが裏ではダメダメクラスと揶揄されているのは、ひよこー生なら誰でも知ってる。
そんな私たちをなんとか通そうとしているのが私たちの担任、飯田先生というわけだ。
だけど、一つだけ。
山田さんや田中くんはわからないけれど、佐藤くんだけは、ちょっと違う。少なくとも私はダメダメだけど、佐藤くんは学年でもトップクラスの成績でDDにくるような人じゃない。噂では、現国だけが局所的に弱い‥らしい。そんな少しだけ弱点があるところも、佐藤くんが人気があるところだと思う。
誰に頼まれたわけでもないのに、心の中で、佐藤くんがDDにいることを必死に弁護していたら、飯田先生の言葉で、私は現実に引き戻された。
「昨日やった小テスト返して解説していくねんけど、まさかと思うけど、この中に問題を解くのに本文から読んでる奴、いねぇよな?」
小テストの結果を配りながら、飯田先生は一人一人の顔を見つめていく。そして、私の顔を見たとたん、飯田先生は眉をひそめた。
「藤原、お前、今、「あれ?違うの?」って顔したな。お前、まさか本文から読んでんのか?」
名指しされて、みんなの視線が私に集まった。私は飯田先生が言っている意味がわからず、赤面して、下を向いて小さくうなずいた。
「藤原だけじゃなくてみんな聞いてくれ。国語の問題は、解き方の手順がある。その手順と設問の解析の仕方を習得すれば誰でも解けるから、それを覚えてくれ。それから山田。」
飯田先生は、鉛筆を鼻の下に挟んで、タコみたいに口をとがらせていた山田さんの方を向いた。山田さんは飯田先生に見られると、タコのような唇をやめ、落下する鉛筆を右手で受け止めた。
「私の心配は嬉しいが、まず、再追試を何とかしようぜ。ダブって1コ下に「リフレイン山田」とか、あだ名つけられんのは嫌だろ?」
山田さんは右手で受け止めた鉛筆を器用に指先で回しながら、今度は鉛筆なしで、タコみたいな口をして飯田先生を見返した。
「そうならないためのDDだ。みんな頑張ってくれ。お互いのためにな。」
飯田先生は、そう言うと教壇に戻り、マジックを片手にホワイトボードに向かい補講を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます