いつも眠そうな猫耳を、アホ剣士が モンスターの死体を貢いでオトそうとしている話。

へろあ・ろるふ

プロローグ


 淡く透き通った黒蜜のような色。それが、長く柔らかい髪に染み込んだように見える。


 僅かに温かみのある色合いの、白い肌。整った目鼻立ち、長いまつ毛、ふわりと揺れる黒い尻尾。


 凛として、しかし眠っている間はぺたんと倒れる猫耳。



 ――俺は、この猫耳の彼女に惚れている。絶対オトしたい。結婚したい。いや、する……!!

※しない。


 酒場のウェイターがパンとミルクを運んでくると、俺は彼女を軽く揺らして起こした。


「やい、お嬢ちゃん。ディナーが到着したぜ。」

「んぅ……。」


 金色の大きな瞳がゆっくりと開く。小動物のような雰囲気にぴったりの目だ。


 眠そうに起きた彼女は、俺を見もせず、いつものメニューに手を伸ばす。


 新鮮なホットミルクとライ麦の大きなパン。いつもこれだけだ。


 もしかして、彼女は貧乏なのか……?

 そう思った瞬間、俺の脳内に閃きが走った。


「やい、お嬢ちゃん。もっと食べなくていいのか?」

「——……。」


 金色の目が『は?』って言ってる。俺は思わずドキッとする。


「……お金、ないから」

「そうかそうか」


 俺はにやりと笑う。俺の視線が気に入らなかったのか、彼女はじろりと睨んできた。


「何なの?」

「俺は結構強いハンターなんだぜ。お嬢ちゃんの為に、このテーブルからはみ出るくらいの肉、狩ってきてやる。」


「……貴方、なんか弱そう。」


「失礼な! 俺めちゃくちゃ強いんだぞ!? きっとこの酒場のどんなハンターよりも、俺の方が強いぞ!!」

「ホントに?」

「本当にッ!」


 胸を張ると、彼女は面白そうに笑った。


「じゃあ30分以内にお肉持ってきて。」

「なっ!? 流石にそれは――」

「最強なんでしょ? はい、今から30分ね。よーい……」


「ま、待て、」

「どん」


 数秒固まった俺は、店主のもとへ全力疾走した。銅貨を数枚置いて会計を済ませると、剣を掴んで店を飛び出す。


「おいグリフ、お釣りは!?」

「いらん!! 今急いでる!!」


 隣町のギルドへ駆け込み、掲示板から依頼ポスターを1枚むしり取る。受付嬢に叩き付けるように渡した。


「頼むッ、大至急!!」

「は、はいっ……!?」


 新人らしい受付嬢が、慌てて許可印を押す。見ない顔だ。いい顔してるが、今はどうでもいい。


「早く!!」

「で、できました――」

「よしっ」


 走り出した瞬間、後ろから声が飛ぶ。


「剣士さん、剣を置いてってますよ~!!」

「いらん、今急いでる!!」


「剣ですよ、剣!」

「剣!?」


 Uターンして剣をバトンのように受け取り、そのまま走り続ける。


 モンスターがいる山は徒歩で半日の距離だが、全力で走れば3分で着く。

※この世界の物理法則はだいたい気合でどうにかなる。


 依頼ポスターをもう1度確認する。


「ブレイズカノン・ドラゴン!!?」


 モンスターを格付けすると、上から2番目のランクインする超強力ドラゴンだ。


「ええい、知ったことかッ。5分で倒してやる!!」


 火山の麓に到着し、岩と溶岩に覆い尽された坂道を駆け上がる。

 火山の標高は4000mくらい。まあ何とかなる。


 

 噴火口に到着すると、やはりドラゴンは眠っていた。


「はッはッはッはァッ!! 見つけたぜ、ブレイズ何ちゃらドラゴン!!」


 ※この男は、奇襲という戦法を知らない。


 俺は剣を抜き、眠るドラゴンを見下ろして嘲笑する。


「くははは、間抜けな奴め。最強のハンターであるこのグリフ様を前にして居眠りとは! 早く起きろ、この馬鹿がッ。」


 ※実はこの時、抜剣の衝撃波で既にドラゴンは死んでいる。


「おい馬鹿ドラゴン、起きろってば! 時間がないんだぞ!!」


 ※あと5分で時間切れ。


「こうなったら俺から斬りかかってやる!!」


 ※本当に気付かないが、もう死んでる。


 俺は剣を振り、飛ぶ斬撃でドラゴンの首を切り落とした。

 マグマに飛び込み、死体を担ぎ上げて外に出る。


「うおっ、上着が溶けてなくなった!」


 坂道を駆け下り、火山から離れてもスピードは落とさない。






 ようやく酒場に戻ると、ちょうど彼女が店から出てきた。

 俺の背後の巨大なドラゴンを見て、眠そうな目が大きく開く。


「どうだよ、お嬢ちゃん。」

「1分オーバーしてるけど。」

「ぎくり。」

「……でも、すごい。」


 喜びかけた瞬間、彼女は俺の横をすっと通り過ぎていった。


「へ?」

「じゃあ、また明日。」

「……おう。」


 あの子が素っ気ないのはいつものことだ。

 でも、もう少し嬉しそうにしてくれると思っていた。


 滲み出る悔しさと寂しさが、俺の肩を軽く叩く。


「何やってんだ、俺。」


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いつも眠そうな猫耳を、アホ剣士が モンスターの死体を貢いでオトそうとしている話。 へろあ・ろるふ @bkuhn

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