第11話 断らない理由


朝の空は、

雲ひとつ

なかった。


治癒工房ルーメン

扉を

開けながら、

ルーチェは

昨日の

夜を

思い出す。


告白。


その言葉の

重さは、

まだ

胸に

残っていた。


「……考えすぎ」


小さく

呟き、

頭を

切り替える。


今日は、

今日。


仕事は、

待ってくれない。


店内を

整え、

準備を

終えた

その時。


カラン。


鈴が

鳴る。


「おはよう

ございます」


聞き慣れた

声。


顔を

上げると、

ケリーが

立っていた。


昨日と

同じ

穏やかな

表情。


けれど、

どこか

緊張が

混じっている。


「……おはよう

ございます」


少し

間を

置いて、

返す。


気まずさは、

なかった。


それが、

逆に

不思議だった。


「今日は……」


ケリーは、

言葉を

選ぶ。


「お願いが

あって

来ました」


胸が、

小さく

鳴る。


「はい」


促す。


「昨日、

言った

通りです」


「店を

手伝わせて

ください」


直球。


逃げ道の

ない

申し出。


「治癒は

できませんが」


「雑用でも、

力仕事でも」


「迷惑には

なりません」


必死さは、

感じられる。


けれど、

押しつけが

ましさは

ない。


「……どうして

そこまで」


素直な

疑問。


ケリーは、

一瞬

考え、

答えた。


「断られる

理由が

ないと

思った

からです」


「え?」


「あなたは、

誰かに

甘えない」


「一人で

全部

背負おうと

する」


「でも」


一度、

言葉を

切る。


「支えを

拒む

理由は

ないはずだ」


胸の

奥を

突かれた。


図星。


否定

できない。


「……私は」


言葉を

探す。


「仕事に

集中

したい

だけです」


「恋愛を

する

余裕は

ありません」


ケリーは、

静かに

頷く。


「それで

いいです」


「俺は、

恋人に

なる

ために

ここに

来た

わけじゃ

ない」


その言葉に、

目を

見開く。


「一緒に

働く

仲間に

なりたい

だけです」


仲間。


その響きは、

心を

軽く

した。


「……条件が

あります」


自然に

口が

動く。


「はい」


「恋愛を

期待

しない

こと」


「私の

生活や

判断に

口出し

しない

こと」


「それでも

いいなら」


一つ

一つ、

区切って

伝える。


ケリーは、

迷わず

頷いた。


「全部

守ります」


即答。


「……本当に

いいんですか」


「告白して

おいて」


「それは

矛盾

していませんか」


ケリーは、

少し

笑った。


「気持ちは、

俺の

問題です」


「あなたに

背負わせる

ものじゃ

ない」


その

考え方に、

胸が

じんと

する。


「……わかり

ました」


ルーチェは、

一息

つく。


「人手は、

正直

足りません」


「お願いします」


それは、

仕事としての

判断。


感情は、

後回し。


ケリーの

表情が、

一瞬

明るく

なる。


「ありがとうございます」


深く

頭を

下げる。


その姿に、

少しだけ

胸が

温かく

なった。


午前中。


二人で

店を

回す。


包帯の

補充、

掃除、

客の

誘導。


ケリーは、

指示を

待ち、

黙々と

動いた。


余計な

ことは

しない。


距離も

保つ。


その

態度が、

ありがたかった。


「……助かって

います」


思わず

口に

出る。


「よかった」


短い

返事。


それだけ。


昼過ぎ。


一息

ついた

時間。


二人で

水を

飲む。


「……どうして

護衛を

やめたんですか」


ふと

尋ねる。


ケリーは、

少し

考えて

答えた。


「守れなかった

ことが

あった」


それ以上、

語らない。


深追い

しない。


それが、

自然に

できた。


夕方。


店を

閉める

準備。


今日一日、

問題は

なかった。


むしろ、

スムーズ

すぎた。


「……断らなかった

理由」


鍵を

かけながら、

ルーチェは

呟く。


「はい?」


「あなたを

断らなかった

理由です」


ケリーは、

静かに

待つ。


「あなたは、

私の

時間を

奪わない」


「踏み込む

ところと、

踏み込まない

ところを

わかって

いる」


「それは……」


言葉を

探す。


「信頼

できる

と思った」


ケリーは、

何も

言わなかった。


ただ、

深く

頷いた。


「……それで

十分です」


夜の

通りに、

灯りが

ともる。


二人は、

並んで

歩き出す。


距離は、

まだ

ある。


けれど、

無理に

詰める

必要は

なかった。


断らない

理由は、

恋では

ない。


信頼と、

安心。


それだけで、

今は

十分だった。

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