1章10話:樹海生活
「うぅ」
「わわわ、凄いね。もう本当に女の子にしか見えない」
「気にしてるんでそれ、本当に……」
巫女服を、着ました。
質の良い巫女服が残っていたらしく、カビの匂いもしなかった。やはり時間が止まっている所為なのだろう。というか、かみさまが取りにいってたものってやっぱこれか……。
姿見がないのでわからないけど、かみさまは凄く褒めてくれた。複雑だ。
「えへへ、お揃いお揃い〜」
ま、かみさまが嬉しそうにしてるなら良いや……。
「くすくす。巫女服は趣味もあるけど、儀礼的な意味もあるから。ちゃんとほの囮は正式な巫女ですって意味でもね」
「まぁ確かにしっかりとした生地ですけどね」
これが本物の巫女服なんだろう。でも僕、これで寝るのかな。
「取り敢えず、一度休もうよ。お布団敷くからさ」
そう言うとかみさまは本殿に戻って行った。
色々考えるべきことや考えたいことはある。かみさまの存在、ニコラの存在、ゲーム盤、駒、色恋の神、巫女、海知の気持ち、夏葉たちの騙し討ち。
でも流石に疲れた。1日で色々起こりすぎだと思うんだ。ということで取り敢えず一晩寝て、それから考えよう。
……で、この状況は、何ですかね。
「ふふ、あったかい〜」
「何でお布団1つしかない訳!?」
「あれ? あれあれあれあれ? ご不満? 温かいじゃない?」
「あったかいですけどね!」
そういうことじゃなくてね!?
美少女と同じ布団に入ってる事実がもうヤバい。体温とか全部伝わってて恥ずかしいし。匂いとか大丈夫かな……いや、同じお風呂の匂いするな。
「私、こうやって誰かと眠るの初めてかも。凄く安心する」
「……まぁ、それは確かに」
妹が昏睡状態になってからは僕も誰かと同じ布団で眠ることはなかった。そう考えると久しぶりだなぁ。なんて思ってたらかみさまが話しかけてくる。
「ほの囮」
「はい?」
かみさまが振り向いた僕のほっぺに人差し指を当てて笑った。
「明日も遊んでね」
「なっーー!?」
悪戯っ子みたいな顔をしてかみさまはそのまま向こうを向いて暫くして、
「す〜……す〜……zzz」
「うそん……」
寝息を立ててしまった。
僕はというと、余りにもドキドキし過ぎて眠れず、朝になってかみさまが目覚めた頃には目の隈が凄いことになっていた。
「隈本当に凄いよ〜? あ、そう言えば隈繋がりだけど、この山熊いるから気をつけてね」
「え、あ、はい……。まじですか……」
一晩寝たら考えるなんて出来るわけない……。眠い。
「眠かったらまだ寝てていいんよ? 私朝ごはん作ってくるし」
「お言葉に甘えます……」
かみさまが居なくなった部屋。それをなんだか寂しいなと感じている自分に驚いた。
あまりに人と触れてこなかったせいで人恋しくなってるのかも知れない。そんなことを考えながら僕は眠りについた。
◇◆◇
魚の焼ける良い匂いで目が覚めた。……ん? 魚?
「おはよ」
「……おは、ようございます」
起きた瞬間、かみさまの顔が目の前にあってびっくりした。また布団に潜り込んでいたらしい。心臓に悪い……。
「朝ごはん、出来てるよ〜」
そう言ってととととっ、と走っていった。
寝ぼけ眼を擦りながら廊下に出る。窓の方を見ると境内が見え、その奥には森が……というか樹海が広がっていた。
「じゅ、かい……え、樹海!?」
匂いのする方、本殿の一室にてかみさまは手を合わせて座っていた。
「な、なんか森の方凄いことになってるんですけど!?」
僕の慌てように反して、かみさまの反応はえらく淡白だった。
「あー、私の神域はこっちから見ると樹海で覆われてるように見えるんよ。北湊都の街なんて見たくないもん。つい焼き払いたくなっちゃう」
「闇が深いよぉ……」
「あははっ! ぶりてぃっしゅじょーく!」
「昨日も言いましたけど英国要素はどこ?」
これ口癖なのかな……。
「あ、同様に向こうから神域に入ることも出来ないからね。私の許可がない限り。だからここが見つかる心配はないよ〜? それよりね、ね! 食べよ」
「は、はい……っておぉ、なんか凄い」
目の前には2人分の食事が並んでいた。白米、お味噌汁、なんかの魚の塩焼き、小松菜のお浸し。
「80年前のお供物が残ってたからね。台所の
「すいません、今度から僕も手伝います」
「わあ〜い! 一緒にやろうね! あ、このお魚はちなみに釣ってきたやつね」
「今度から僕も釣ります」
「じゃ今日は釣りして遊ぼっか〜」
なんか全て任せてしまって申し訳ない。ていうか火を起こせたり料理できたり釣りできたりとかみさまってかなり万能な気がする。
楽しく食卓を囲むのも本当に久しぶりだ。別に海知や夏葉とご飯を食べるのも楽しくなかったわけではないんだけど、もう全ての思い出に悪印象しか抱けなくなってしまった。
「美味しいね〜」
「はい、本当に美味しい……」
こういう何気ない会話が幸せなんだって、それを思い出した。
「ほの囮はこれからどうするの?」
不意にかみさまが尋ねてくる。その口元にご飯粒がついたままだった。
そんなかみさまに見惚れていて返答を考えるのを忘れていたけれど、よく考えたら凄く重要な問いである。
「どう……と言われましても。出来ればまだ帰りたくないというか……なんならもう帰りたくないというか」
ニコラのゲーム盤と化した北湊都にいても、僕はまともな生活を送ることができないだろう。
信じてた親友たちとの関係は偽物で、ニコラは全てをもって僕をメス堕ちさせようとしてくる悪意の塊。街の連中も同様、気持ち悪くて狂気的な風習の数々。学校も家もクソ。
入院中の妹を残して失踪はしたくない。
けれど、僕は北湊都で生きることに疲れた。
明日も、明後日も、その次の日も北湊都で逃げ場のない暮らしをすることに疲れた。
だから、本音が出た。
「
ぼそりと発した言葉。
自覚する。強がっていたけどかなり限界だった。
かなりかみさまに甘えてしまっている自覚はある。けれど今まで青春を楽しむことができなかった分、此処で失われた青春を取り戻している気持ちになった。
「そっか。うん、それじゃあ2ヶ月分くらいここにいよっ」
「2ヶ月、ですか?」
「うん。何時までも此処に引き篭もってる訳には行かないもん。私80年後の世界も見てみたいし……それに、多分お参りしなきゃいけないお墓もあるだろうから」
「あ…………………………そう、ですね」
80年経ってるなら、本来のかみさまは今頃95歳。それなら同世代だと亡くなっている人も少なくない。
北湊都の人間はみんな嫌い。そう言ってはいたけれど、僕の中に見ている"誰か"みたいにきっとかみさまにとって大切な人だって80年前には居たはずなのだ。
「あとね、やらなきゃいけないことはまだあるよ」
「それはまさか」
「色恋の神をボコボコにしてつまみ出す」
「まぁ、デスヨネ……」
「北湊都は滅べば良いと思ってるけど仮にも私のお庭なんだよ? しかも私の力も信仰も奪ってるんだよ? 正直ぶち殺してあげたいくらいだよ。ぶっ殺だよ〜」
「は、はは……」
フォーク片手に笑うかみさまはちょっと怖かった。
「作戦会議の為にも2ヶ月。妥当な時間だと思うんよ。ほの囮の心の傷を癒す面でも、ね? ま、それでも2ヶ月居なくなるって相当なんだけど、その覚悟ある?」
まず間違いなく家出扱いになるだろう。けれど別に心配してくれる家族は居ない。ほとぼりが冷めた頃にしれっと戻っても誰も何も言わないだろう。
「……お心遣い感謝します。誰も気にしないと思いますよ。でも、妹が心配なので2ヶ月はちょうどいいかもです」
この瞬間、僕の2ヶ月の家出が確定した。
「かしこまりー。さて、辛気臭い話やめよ。昨日はあんまり案内できなかったから神社の中を案内してあげるね! ……ていっても私もずーっと眠ってたからあんまり知らないんだけど」
「お、神社探索いいですね、やりましょう」
「あははは〜探索探索〜ほの囮の巫女服も堪能するぜ〜」
「忘れてた! 恥ずかしい!」
そう言えば巫女服着てたんだった。うう、なんかそう考えると落ち着かなくなってきた。
「いいから行くよ、私の巫女さん?」
「え、ちょっ!?」
と言うことでまずは本殿から。
本殿はそれなりに広くて、トイレやら木造の風呂場やらもあった。上下水道に関しては何故か普通に使えた。だがしかし、ボットン便所だった……。紙はあるので取り敢えずトイレの心配はないけど、やっぱり抵抗感がある。
因みにかみさまは神さまなので本来食事もトイレも必要ないらしい。アイドルはうんこしない理論をこんな所で見ることになるとは思わなかった。
そんな本殿だが、いくつか興味惹かれるものもある。
「本殿で開かない部屋も幾つかあるんだけど、ヤバそうなのはかみさまが寝てた部屋ですね……」
「私ヤバいとこで寝てたんだねえ〜」
件の1番奥の部屋を開けると、そこにはびっちりとお札やらしめ縄やらが張り巡らされ、真っ赤に塗られた部屋だった。……狂気を感じたのでそっ閉じ。
次に本殿の周辺。境内には狛犬が2匹。可愛い。でも他には特になし。
ということで神社の奥の林に入る。少し下った先で湧き水を見つけたので、バックから水筒を……と今気づいた。
「そういえばリュックに水も食料もあったな」
昨日は色々ゴタゴタしてて忘れていた。これは後でかみさまに振る舞って差し上げよう。少なくともこの湧水は飲めそうなので水の問題は解決だ。
そして少し歩けば食料の問題も解決しそうだった。
「これは食べられる木の実だね〜。あとその川では鮎が釣れるよ」
「あー、今朝の魚」
「後でいっぱい釣ろうね!」
「釣ります!」
ヤバい正直超楽しい。まさか家出2日目でこんなにも充実した生活が送れるとは思わなかった。家出サイコー。
その後洞窟で木材を発見。更に、
「田んぼまであるんですけど……」
結構色々な作物が実っていた。というか今朝のきゅうりは此処で採ってきたものか。
「
「まさか農作業する気じゃ……?」
「作物の種があればね〜。取り敢えず使えそうな木材を持って戻ろっか」
木材を運んでさっきの水も運んで、境内に戻ってくると日は高く登っていた。
時間経過が無いとは言え疑似的に太陽は昇ったり沈んだりするらしく1日の流れがなんとなく分かる。生活リズムが崩れないのは有難いことだ。
「そう言えば80年後の食べ物、気になりません?」
「え、あるの!? やったー! 何か美味しいものあったりする? パンとか!」
「パン好きなんです?」
「うん! 大好き!」
屈託のない笑み。可愛い。
そんな可愛いかみさまに何かしたいという衝動に駆られた僕は、取り敢えず食事の準備をすることにした。
リュックサックから色々と出してみる。それを興味深そうに眺めるかみさまは、子供のようで可愛らしかった。
「といっても、あんまし食料持ってきてないんですよねぇ……」
「おお〜! これがこの時代のパン? はむ……おおおお! ふわっふわだね〜!」
持ってきた菓子パンにご満悦なかみさま、可愛い。可愛い言い過ぎてこれが褒め言葉に聞こえなくなってしまうんじゃないかと少し不安。
「んー、私はご飯食べなくても神だから生きていけるけど、やっぱり食事はいいよね〜。私の時代、パンなんてそんなに食べられなかったんだから〜」
「そうなんですか?」
「うんうん。ふおぉおおお、美味しい〜! 現代人凄いね! 私の時代は木の根っこ齧ってたから何食べても美味しく感じちゃうんよ〜」
どういう状況!?
「……よくわからんですけど、山を降りた時にまた沢山ご馳走しますよ」
「ほんと!? 良い時代になったね〜」
それから僕たちは釣り竿を持って餌を取り、釣りをして、木の実を集めた。
「釣れぬ……」
「コツがあるんよ〜見てて見てて!」
かみさまにコツを教わってにもかかわらず、2日目の夜は釣れずに食卓には木の実と菓子パンが並んだ。かみさまは大興奮だった。
で、3日目からようやく鮎が釣れたので食卓に魚類が並ぶことになった。
「お、釣れた」
「慣れてきたね〜」
何故かニジマスまで釣れてしまった。
こんな風に出来なかったことが出来る様になる経験はいつぶりだろう。いつも何か出来る様になった時、そこには同時に海知らも出来る様になった姿があった。
今は違う。隣にはかみさまがいて、周りに海知らは居ない。僕は昨日の僕じゃなくなっていく。変化していく。それが楽しくて楽しくて仕方がない。
そんなこんなで僕のサバイバル生活は15日目に突入していたが、存外楽しく暮らせている。
なにぶん環境が良いのだ。特に温泉に関しては身体の不調を全部消し去ってくれる優れもので、美肌効果まである。入るたびに肌がツルツルになってくし髪も艶々、身体からいい香りも……。あれ?
「ほの囮も随分巫女らしくなってきたね」
「そうですかね?」
「うん。ほら、鏡」
「あるんですか………………って、は!?」
ーー手渡された手鏡には、自分によく似た美少女が写っていた。
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