時の上下
@AIokita
時の上下
ある時代、ある場所に、二人の旅人が同時に現れました。一人は遠い未来から、もう一人は遠い過去からやってきました。二人はこの「現代」という見知らぬ土地で生きていくため、自らが持つ知識を人々に授け、自らの価値を証明しようと決めました。
未来人は、光り輝く知性を持っていました。彼は人々に、無限のエネルギーや、精神の調和、病を根絶する論理を説きました。しかし、彼の言葉はあまりにも難しいので、現代の道具や考えでは再現できないものばかりでした。
彼は人々にこう言いました。
「あなたがたの営みはあまりに非効率で、野蛮だ。私の言う通りにすれば、数百年後の楽園を今すぐ作れるというのに」
人々は彼を敬遠し、やがて「誇大妄想の夢想家」だと呼びました。未来人は、自分が「進んでいる」という自信があったため、理解できない人々を遠ざけました。彼は誰とも視線を合わせず、いつも遠くの空ばかりを見ていたため、誰一人として彼に近づく者はいなくなりました。彼はわかってもらえない時代の中で、自分の居た『未来という世界』を守るために孤独でいることを選ぶようになりました。
一方で、過去人も必死に自分の知恵を伝えようとしました。彼は、石を削って鋭い刃を作る方法や、星の動きで豊作を占う術を人々に教えようとしました。しかし、現代の人々はそれを見て、優しく微笑みました。
「ねぇ、それよりも便利な金属のナイフがあるよ」「星を見なくても、暦はカレンダーでわかるんだ」
過去人は困惑しました。自分の誇りだった知恵が、ここでは「遅すぎる」のです。彼は自分の無力さを悟り、深く頭を下げました。「どうか、この時代の歩き方を教えてくれないか」と。
すると、奇妙なことが起こりました。人々は彼を馬鹿にするどころか、「自分たちが当たり前に使っている技術を、何も知らない人に教える喜び」に目覚めたのです。若者たちは彼に望遠鏡や時計の使い方を教え、主婦たちは水道やオーブンの便利さを説きました。過去人が驚き、感謝するたびに、人々の輪は広がっていきました。
過去人は、自分の知識が役に立たなかったことを残念に思っていました。でも、そのことが人々の「教えたい」という善意を引き出す器となったことで、彼らの中で生きていくことができるようになりました。
おしまい
時の上下 @AIokita
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます