かつて存在した魔法の如き技術は失われ、人間は点在する狭い城塞都市に立て籠もって生存を目指してから幾年か。その土地でかつて使われた文字「漢字」すら、知るのは特別な人間に限られて。
運び屋ならば荷物を最後まで運ぶべきだ。業務契約として当たり前の事柄が、無謀だと冷淡に蔑まれます。城塞都市の間にはマモノが跋扈する自然が横たわりますから。宛先まで辿り着けるのは、兵士以上の戦闘技術を持ちながら「運び屋」と謙遜する者達で。
愚直に運び屋を続ける主人公に、何の因果があったのでしょうか、古代に作成された麗しき女性を模した戦闘人形に出会ったのは。
人として戦闘技術を磨いた運び屋と、製造時より破格の能力を備えた戦闘人形が、荷を運ぶために道なき道を切り開きます。闘う姿は、無骨なだけでなく、舞を見るような美しさを備えていて。
しかし二人は出会って間もないのに、堂々たる腐れ縁らしさが漂うのはどうしてでしょう。一人と一体、ではなくて、二人と呼びたい間柄で続く会話は、既に夫婦漫才。
緊迫した戦闘。弛緩どころかボケばっかりの日常生活。両者の対比が明確で、それらが分裂ではなく人格として連続していることが見えてきて。
戦闘を見て手に汗を握り、男女の拙い会話にヒヤヒヤして。
荷かごには、エンタメの楽しさが山高く積み上げられています。それを宛先まで届ける力業。
プロローグの一文目を読めば、興味を引かれずにはいられない。
文明崩壊後の世界に「マドリマ粒子」という概念が持ち込まれた物語は、序盤から活発な動きがあり、すぐに引き込まれました。
いたるところで発見する文章テクニックと、壮大なイマジネーションに感服するままに読み進めながら、たしかな人間ドラマに触れるたびに何度も胸を打たれました。
荒廃した東京の描写はドキュメンタリーで観た戦後の日本を個人的に思い出し、そんな暗喩も予感させる懐の深さがある。
個人的にはルビの振り方のセンスに惹かれ、とても学びの多いものを感じました。
愛の形や生命のあり方についても考えさせられる、希望あるディストピアの物語です。