王太子の涙の手紙で気づきました――婚約破棄は脅しですね

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王太子の涙の手紙で気づきました――婚約破棄は脅しですね

———【第一信 ユリウスー>クローデリア】———


親愛なるクローデリアへ。


具合はよくなってきたかな?

療養は退屈かもしれないけれど、医師の言うことをしっかり聞いて、早く治して王都に戻ってきてほしい。

王城で君の好きな白薔薇が咲いているのを見つけたんだ。君にも見せてあげたいと思った。

早く君に会いたくて仕方がないよ。


実はすごい報せがあるんだ。

先ほど、父上に君との婚約を認めてほしいってお願いしたんだ。

まだ学園も卒業していないのに、早いとかなんとか言われたけど、クローデリアがどんなに素晴らしい女性かってことを一生懸命説明したんだ。

……隙を見せたら勝手にお見合いとか進める人たちだからね。

そうしたらついに、父上の了承を得ることができたんだ。

公爵家との結びつきを強められるのも良いかって言ってさ。


いてもたってもいられなくて、君に手紙を書きたくなったんだ。


僕は次期国王で、君は王妃だ。僕たちなら、お互いに支え合って、この王国をもっとよくしていけると思う。

もちろんその前に、僕は君を必ず幸せにすると約束する。


そういえば学園に聖女候補の新入生がやってきたんだ。どんな病や傷でもすぐに治してしまうみたいだから、もしクローデリアの具合がなかなかよくならないようだったら、彼女に診てもらってもいいかもしれないね。

素敵な将来の王妃と、素晴らしい聖女候補まで現れて、王都の将来はとても明るいと思う。


早く君に会いたい。


ユリウス・フォン・ヴァレンハイト

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 手紙からはユリウスの温かい魔力が感じられた。人一倍、魔力感知の感覚が強い私は、彼の人柄を表すようなその魔力が本当に好きだった。

 この手紙を受け取ったときのことは一生忘れないだろう。私も一刻も早くユリウスに会いたい、と思ったものだ。

 

 王都の聖教会に、ユリウスと礼拝に行った帰り、私は急に体調を崩し、ひどい頭痛と嘔吐感に襲われた。

 この病の正体が医師にもわからず、症状が一向に改善しないため、私は王都の外の空気にあたるため、親戚の辺境伯のもとに療養に来ていたのだった。

 しかし環境を変えても、なかなか快方に向かわず、私はいまだこの辺境の療養所に留まっている。


 そして私は2通目の手紙を受け取った。



———【第二信 ユリウスー>クローデリア】———


親愛なるクローデリアへ。


具合はどうだろう? まだよくならないだろうか?

実は王都でもクローデリアと同じような病を患う人が増えてきていて、騒ぎになっているんだ。

何人か死人も出てしまった。


君のことが心配で仕方ない。


先日、新しい聖女候補が入学したって伝えたよね?

エリシアというんだけど、彼女に君の治癒をお願いしたんだ。

学園が休暇に入ったら、君が療養している辺境伯領に行くことを快諾してくれた。エリシアならきっと君の病を治癒できるはずだ。

だからもう少しだけ待っていてほしい。


早く君に会いたい。


ユリウス・フォン・ヴァレンハイト

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 王都に不穏な雰囲気が流れているのを感じた。

私の病も死に至る可能性があるものなのでは、と不安に襲われた。

 死そのものよりも、死ぬことでユリウスと会えなくなると思うと、とても恐ろしかった。

 聖女候補というエリシアにも早く会いたいと思った。


 そしてユリウスからの3通目の手紙。



———【第三信 ユリウスー>クローデリア】———


親愛なるクローデリアへ。


よい報せだ。

前に手紙で伝えた聖女候補のエリシアが、王都の流行病の治癒に成功したんだ。

彼女の治癒能力は素晴らしい。学生ながら、聖女として認定してもいいんじゃないかという声も上がっているよ。

君の病も必ず治してくれる。


もうすぐ学園も休暇に入るから、エリシアを連れて行くよ。


君の病が治ったら一緒にやりたいことがたくさんあるんだ。遅れた分の勉強も教えてあげるから心配しないで。


早く君に会いたい。


ユリウス・フォン・ヴァレンハイト

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 この手紙を読んだとき、私は希望に包まれていた。聖女候補のエリシアが私の病を治してくれるということもだけれど、ユリウスに会えるということがこの上なく嬉しかった。


 しかし、その後に受け取った手紙に、私は愕然とすることになった。



———【エリシアー>クローデリア】———


クローデリア様へ。


あなたが流行病を広めたみたいですね。

あなたは王都の敵です。二度と王都に足を踏み入れることはできないでしょう。

その辺境で一生過ごすといいわ。


王太子のことはご心配なさらないでください。私が婚約者として、彼のことを支えていきます。

そして聖女として、王妃として王国を支えていきます。


皆が私に平伏すの。素敵ですよね。

ユリウス様もその例外ではないですわ。


申し訳ございませんね。


エリシア・ブランシェ

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 その手紙から、私はとても邪悪な魔力を感じ、思わず吐いてしまいそうだった。この女性が聖女であるはずはない。魔女と言ってもいいような魔力。

 しかし、私はこの魔力をよく知っている気がする……。


 私はその手紙が何を伝えているのかさっぱり理解ができなかった。

 私は言い知れぬ怒りに身を震わせていた。


 そして次に届いたユリウスからの手紙により、私は絶望の底に落とされることになった。



———【第四信 ユリウスー>クローデリア】———


親愛なるクローデリアへ。


君との婚約を破棄させてほしい。

君に生き続けてもらうにはこうするしかない。


君の病はエリシアが必ず治してくれるから心配しないで。


君のことは今でも愛している。永遠にこの愛が失われることはないだろう。

でももう君には会えない。本当に申し訳ない。


ユリウス・フォン・ヴァレンハイト

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 その手紙の文字の一部が滲んでいた。ユリウスが涙をこぼしながら書いたであろうことが容易に想像できた。


 私は自分の身に何が起きたのか、ユリウスに何があったのか、まったく理解ができなかった。

 ただただ悲しみに打ちひしがれて泣き続けた。手紙に宿った温かい魔力も、冷え切ってしまった私の胸の熱を戻してはくれなかった。



 泣き疲れた私は、眠ってしまっていた。

 翌朝、目が覚めてもまだ胸に冷たさが残っていた。

 ただ、頭も少し冷静になっていた。


 聖女候補というエリシアの醜悪な魔力、ユリウスの突然の婚約破棄——私はある可能性に思い当たった。


 そこに一通の手紙が届いた。

 それを読んでその考えが確信に変わりつつあった。


 ——絶対にこのままでは終わらせない。


   ※


 やがて、ユリウスが手紙で予告していたとおり、エリシアが私の療養先——辺境伯の屋敷へやってきた。


「クローデリア公爵令嬢様ね? 初めまして。聖女候補のエリシア・ブランシェと申します」


 あの忌まわしい手紙にまとわりついていた魔力はやはりエリシアのものだった。私はその醜悪な魔力による不快感を必死に耐えた。


「何の用事かしら?」


 精一杯強がって私は言った。


「何って、ご存知でしょう? であられるユリウス王太子様がお伝えしていたかと思います。あなたの『病』を治癒してさしあげるためにわざわざこんな辺境まで参りましたの」


 エリシアは勝ち誇ったような微笑みを浮かべた。

 やはりこの女のせいで、ユリウスは私との婚約を破棄させられたのだと確信した。


「もう治っています。ご心配なく」


「は?」


「治癒など不要だと言っているんです」


「そんなわけない……」


「どうせ、私の病を治すことと引き換えに、ユリウスに婚約を認めさせたんでしょう? だったらその約束は反故になるわね。ユリウスの優しさを利用して権力を得ようとするなんて許せないわ」


「な、何を言っているの? のろ……病が普通の治療で治るわけないじゃない。大人しく私の治癒を受けなさいよ」


「だから要らないって言っているでしょう? その不快な魔力を私に向けないで。私は病ではなく、呪いにかかっていたのよ。治癒ではなく、解呪で症状はきれいに消え去ったわ」


「嘘でしょう!? なぜ……」


「私は魔力感知能力が人よりも優れているの。あなたの醜悪な魔力が、私の『病』からも感知できたわ。初めは病のせいで私の魔力が澱んだのかと思っていたんだけれど、あなたの手紙にまとわりついていた魔力で確信したわ。これはあなたのかけた呪いだってことにね」


「そ、そんなの言いがかりよ!」


 エリシアは焦った顔を見せたが、すぐにまた自信をのぞかせた。


「……でも残念ね。王都ではクローデリア公爵令嬢がその病を流行させたことになっているわよ。誰もあなたの言うことなんて信じないわ」


「あなた、魔力と性格が醜悪なだけではなくて、愚かなのね……真相がわかって私が何もしていないわけがないでしょう」


 私は一枚の書状を取り出し、エリシアに見せた。

 その書状には「調査報告書」と書かれていた。


「お父様を通して、王立観察院に調査依頼を申請したわ。あなた、もったいぶって患者全員を治療しなかったのね。解呪されていなかった患者たちの魔力が流行病——いえ、流行呪を広めた犯人を特定する証拠になるそうよ。王立観察院にはしっかりした魔力検査官がいるから、今頃、真犯人が特定されていることでしょうね」


「そんな……」


 エリシアの顔は哀れなほど蒼白になった。


「ち、違う。私のせいじゃない……大司教の指示だったの。聖教会の支配力を強めるために協力をするように言われて……私は何も悪くない……」


「あなた、もう王都には戻れないわよ。逮捕されたくなければ、辺境にでも大人しく隠れていることね」


   ※


 王城前広場に人だかりができていた。

 白布で覆われた掲示板の前に、王立観察院の紋章旗が翻っている。


 ——布が外された瞬間、人々のざわめきが凍りついた。


《流行病に非ず。流行呪なり/発生源:王都聖教会》

《クローデリア公爵令嬢 関与なし。被害者につき名誉回復》

《呪いの症状ある者は、広場の解呪所へ》


「……俺たちは、何を信じてた」


 群衆からそんな声が漏れた。


 馬蹄の音がしたかと思うと、大司教が手枷をはめられ引きずり出された。


「聖教会から呪いの魔力の残滓が検出された!」


 検査官の言葉に、広場では怒号と安堵の声が混じった。



「クローデリア!」


 ユリウスが、王都に戻った私を見るなり走り寄り、抱きしめた。

 彼の温かい魔力に包まれる。やっと私の胸の冷えが溶けていく。


「本当にごめん。君を失いたくなくて、エリシアの脅しに屈しかけてしまった」


 私はユリウスの腕に抱かれたまま、首を振った。


「あなたの手紙のおかげで、私は諦めずにすんだの」


 私は最後に届いたユリウスからの手紙を手にしていた。


———【第五信 ユリウスー>クローデリア】———


親愛なるクローデリアへ。


僕はやっぱり君を諦めることができない。

君の病も治して、婚約も残したい。


実は婚約破棄はエリシアから強要されたものだった。

君の病の治癒をしてほしいとお願いしたら、君との婚約を破棄して、エリシアと婚約するように言われたんだ。


僕は冷静でなかった。君の命より大事なものはないと思って、その申し出を受けてしまった。


でも僕はそれが何か怪しいと思った。

だってエリシアは僕のことを愛してなんかいない。ただ王太子妃になることが目的なのは明らかだった。そんな女性が聖女候補だというのはおかしい。


君の病が王都で流行し出したのも、何か不自然だと思った。

以前から、父上が大司教は権力と支配の亡者だと言っていたのを思い出して調べると、病にかかった人は皆、王都の聖教会で礼拝した人たちばかりだったんだ。


そこに必ず君の病を治す手がかりがあるはずだ。


僕は絶対に君を諦めない。


ユリウス・フォン・ヴァレンハイト

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 私は顔を上げ、ユリウスの顔を見つめた。


「白薔薇はまだ咲いているかしら」


「ああ。行こう、クローデリア」


 二人は手を取り、王城へと歩いていった。

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