愛してる、この命尽きたとしても。

みいな

愛してる

振り返ってみると私達の出会いは偶然ではなく必然だった。いや、運命に近かったのかもしれない。


私、如月美麗は、3年前の春、高校の入学式のために電車に乗っていた。この学校は最寄り駅から徒歩3分だったので進学することにした。


誰とも友だちになる予定がなかった私は、机に突っ伏して誰も話しかけてこないように壁を作っていた。


突然誰かに髪を触られた。驚いて飛び起きた私を横に座っていた黒髪ロングのお人形さんのような女の子はふふっと笑いながらこちらを見ていた。何が起きたのかわからず思考が停止している私の前で彼女は鈴のような可愛らしい声で話し始めた。


「はじめまして。起こしてごめんね。私は白石さゆりです。髪の毛に葉っぱがついてたから取ってたの。勝手に髪触ってごめんね。隣の席で一年間一緒のクラスだからよろしくね」


そう言い終わると、白石小百合は私に向かって手を伸ばしてきた。握手、ということなのか?


「はじめまして、如月美麗です。よろしく……葉っぱ、取ってくれてありがとう」


「如月美麗さんね。美麗って呼んでいい? 私のこともさゆりって呼んでね」


「可愛い…はっ、今のは違う。いや、違わないけど、えっと……」


「ふふっ、ありがとう。美麗も可愛いね」


ど、どうしよう。誰とも友だちになる予定ではなかったのに、目の前でニコニコしている天使は呆気なく壁を飛び越えてきた。まぁ、一人ぐらい良いか。可愛いし。


先程の判断が後々私を苦しめることになる全ての元凶だったのだ。そう、この時、一人くらいならと思ったから。気を許してはいけなかった。


そんなこんなでどんどん私との距離をたった数分で縮めてきたさゆりは、毎日話しかけてくれて、いつしかさゆりと話すのが日課になった。


最近ではお互いの家を行き来するくらいの仲にまでなった。私の母親がさゆり大好きになってしまうほど礼儀正しい子なのだ。


夏休み開始の3日前だった。私はさゆりを沖縄旅行に誘いたくてどうやって誘おうか考えていた。


さゆりに手をつかまれた。


「美麗、一泊二日の旅行に行かない? 沖縄。海入りたいな」


「行きたい! 私も同じこと思ってた。沖縄旅行行きたいって」


「美麗と私、気が合うから絶対旅行楽しいと思う。実は、もう飛行機とホテルの予約をしてるの。最近、美麗がずっと携帯見てたから。一昨日、携帯開いたままだったから画面が見えちゃったの。沖縄がね」


全部お見通しだった。ずっと誘い方を考えていたのに。次は私から誘おう。


「美麗、今日の帰り、水着選びに行かない? お互いに似合いそうなの選ぼうよ」


「いいね。さゆりは肌が白いから淡い色とか似合いそう」


「美麗は、はっきりした色が似合うと思うな」


ショッピングモールで私たちは全く同じ型の色違いの水着を持ってきていて2人で吹き出しながら笑った。その後も何着か試着したが、最初のお揃いにすることにした。さゆりは淡い緑色、私は黒色の水着にした。


「水着、早く着たいね。美麗」


「そうだね。早くさゆりの水着姿みたい」


「恥ずかしい。でも、美麗がそう思ってくれてるなら嬉しい」


……なんなんだ。このカップルのような会話は。


そして、それを嫌だと思ってない私に対しても驚いている。


「じゃあ、また明日。終業式終わって昼から飛行機乗るから家まで迎えに行くね」


「ありがとう。またね」


お母さん、喜ぶだろうな。さゆりに会えて。旅行もさゆりと一緒と言っただけですぐに許可が降りるくらいだから私よりもさゆりの方が好きなのではないかと思ってしまうくらいだ。


終業式の日の午後5時、私とさゆりはホテルのベッドに寝そべっていた。


「美麗、ご飯? お風呂? それとも私? もちろん最後だよね」


「何いってんの、ご飯食べに行こ。ここのビッフェすごく美味しいんでしょ」


「そうだね。ご飯食べに行こっか」


ビッフェはほっぺが落ちそうなほど美味しかった。特に鶏肉のクリーム煮が美味しかった。鶏肉がホロホロで本当ににくなのかと思うほど柔らかかった。


「美麗、お風呂先入るね」


どうしたんだ、急に。なんだか顔が赤かったような。気のせいかな。


ビッフェの余韻に浸っているとさゆりがお風呂からあがってきた。


「お待たせ、次どうぞ」

お風呂に入った。さゆりの香りがまだ残っていて変な気分になった。


お風呂から上がり、部屋に入った瞬間私は目の前の光景を疑った。


そこには下着姿でベッドに座っているさゆりがいた。


「さゆり? どうしたの、そんな格好して」


「美麗、本当にわかんない? 本当はね美麗から言ってほしかったけど」


やはり、気づいていたのか。


必死に隠していたつもりだったのだけれど、ずっと一緒にいるとわかるのだろうか。


確信したときからずっと考えてきた言葉を言おう。


「ちゃんと言う。さゆり、好きです。初めてあった日に壁を作っていた私に話しかけてくれた時にさゆりに一目惚れしました。最初はたださゆりの顔が好きなのかなと思っていたけれど、さゆりが他の人と話すのを見て胸が痛くなって、さゆりが好きなんだなって確信した。さゆりが好きです。私と付き合ってください」


「もちろん。私も美麗が大好き。これからもよろしくね」


「あぁ、緊張した。女の子同士だから断られると思ってた。いつから気づいてたの、私がさゆりが好きだってこと」


「別に女の子だからって拒否しないよ。美麗のこと嫌いじゃないから。入学式の日電車で可愛い子いるなって思って、一目惚れしたの。制服同じでリボンも同じだったから、仲良くなりたいなと思ってクラスに行ったら美麗がいて話しかけたの。可愛かったな、髪に葉っぱ付けて寝てた美麗」


その後もひたすら私のことを可愛いと褒めちぎるさゆりを見ていると好きが愛おしいに変わっていた。


「さゆり、さっきは好きって言ったけど、今違う感情が出てきた」


「え? 愛おしい感情? だったらまた私達一緒だね」


「うん、一緒。さゆりが愛おしい。愛してる。絶対に手放したくない」


「嬉しいな、私も同じ気持ち。愛してる、美麗」


初めてさゆりとキスをした。とてもとても甘かった。


「美麗、ありがとう。愛してる」


「さゆり、愛してる」


私達は一緒のベッドで手を繋いで寝た。


朝、早く目が覚めるとさゆりはまだ寝ている。


おはよう、と言いながらさゆりの額にキスを落とした。


「朝から大胆だね。おはよう、美麗」


「起きてたの? 恥ずかしい」


「可愛い。今日は待ちに待った海だね。楽しみ」


「だね。やっとさゆりの水着姿が見れる。長かった、今日まで」


私達は急いで支度をして海へ向かった。


「綺麗! 海底が透けてる! あ、サンゴ礁! 美麗、見て! 海だよ! 」


さゆりが珍しくはしゃいでいて嬉しかった。


帰りに沖縄の街を散策して飛行機に乗って帰ってきた。


「さゆり、楽しかったね。また行こうね」


「うん、また行こうね。美麗」


そうして私達は駅で別れた。


旅行から帰ってきて数日がたったある日、私は病院の病室にいた。

さゆりから大事な話があるから会いたいと言われたのだ。


数日前から入院していたことは知っていた。

ただの検査入院だけだからお見舞いに来ないでと言われていたので行かなかった。


数日ぶりにあったさゆりはひどく憔悴していた。


「さゆり、どうしたの? ただの検査入院なんじゃなかったの? 」


さゆりはそっぽを向いて黙っている。


しばらくの沈黙の後、さゆりがこちらを向きながら話しはじめた。


「……もし私があと余命一ヶ月って言ったらどうする? 怒る? 泣く? 答えて」


「怒って泣くに決まってるでしょうが。なんでそんな当たり前のことを聞くの? 余命一ヶ月なの? 」


さゆりはまたそっぽを向いてしまって私の方を見向きもしない。


「さゆり! こっち見て。なんでもっと早く教えてくれなかったの? 私はそんなに頼りない? それとも信頼が足りないの? 答えてよ! さゆり」


さゆりは、何も言わずただ涙を流していた。


私はさゆりを抱きしめた。


「もう、何も言わなくていいよ。分かったから。毎日来るから。さゆり、また旅行に二人で行こうって約束したよね。あれ、本気だから。北海道行く予定を立ててるの。一緒に行こう」


「美麗、ごめんね。もう、無理なの。手の施しようがないって言われたの。美麗とせっかく付き合えたのに」


さゆりが死にたくないと何度も何度も言いながら声を上げて私の腕の中で泣いていた。どれくらい経ったのだろうか、さゆりと私は目をパンパンに腫らすくらい泣いた。そして、顔を見合わせて二人同時に笑った。


「美麗、愛してる。大好き」


「私も愛してるよ、さゆり」


一週間後、さゆりは背中に天使の羽が生えて飛び立って行った。私の夢に現れてこう言い残した。


「また、会う日まで。美麗、愛してる。たとえこの命が尽きようともあなたを片時も忘れません。迎えに行くから待ってて」


待って、と言いかけた時さゆりは勢いよく羽ばたいていった。


その瞬間目が覚めた。急いでさゆりに電話をかけた。しかし、電話に出たのは出たのはさゆりのお母さんだった。


さゆりのお葬式はとても簡素でこじんまりと行われた。


さゆりのお葬式の間、私は魂が抜けたように過ごしていた。


後日、線香をあげにさゆりの自宅へ伺った。


遺影のさゆりは、生前のときのまま美しかった。


ああ、やっぱり友達ましてや恋人などいてはいけなかった。


さゆり、私からさゆりのところに行くから待ってて。



私は歩道橋から身を投げた。


しかし私は、重力に逆らって空へ昇っていった。私の背中にも天使の羽が生えていた。慣れない羽を一生懸命動かしながら一目散に昇っていった。


さゆりは、私を見て驚いたような顔をしていた。


「さゆり、愛してる」


「美麗、もうこの世には未練は残ってないの? あったらまだ戻れる。考え直して」


「さゆり、私はさゆりのいない世界に未練なんてこれぽっちもない。さゆり以外何も要らない」


「そっか、私も愛してるよ」


私たちはキスをし、手を繋いで天国を目指して羽ばたいた。

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