それでも私は愛されたかった
E
1話完結
サエは、恋愛というものに憧れていた。
幼い頃から両親の喧嘩を日常的に見ていたせいもあるのだろう。
誰かを好きになり、手を取り合い、未来の話をする。そんな平和な日常をずっと夢見ていた。
けれど、サエと恋に落ちた人間は、なぜか皆不幸になった。
病に倒れ、事故に遭い、ある者は帰らぬ人となった。
最初は偶然だと笑っていた。次も、まだ偶然だと言い聞かせた。
けれど三度、四度と重なるうちに、胸の奥に冷たい恐怖が根を張った。
――私が、誰かを好きになるから?
恋愛に臆病になり、距離を取るようになった。
しかし仕事の失敗、家族の不調、重なる別れ。
サエは少しずつ、考えることをやめていった。
そんなある日、一通の手紙が届いた。
差出人のない、白い封筒。
「私は神だ。
いつも笑顔が素敵なあなたが、落ち込んでいるのは見ていられない。
私なら、あなたを悲しませる別れにはさせない。
どうか、一緒にいてはくれないだろうか。」
冗談みたいな文章だった。
けれど、落ち込んでいることを知っている人は、ほんのわずかしかいない。
――あの人? それとも、あいつ?
文末に、拙い文字で描かれた「神」を名乗る署名を見て、サエは思わずクスッと笑った。
久しぶりに、声を出して。
私を元気づけるために、神様を名乗るなんて。
変に不器用で、優しい。
誰に話しても、「俺が書いたんだよ」と名乗り出る者はいなかった。
そのまま手紙のことを忘れかけていた頃、前々から好意を寄せてくれていた男性に告白された。
怖さはあった。
それでも、「今度こそは」と思った。
付き合った日々は、穏やかで、幸せだった。
一年後までは。
交通事故だった。
あまりにも突然で、あっけなくて、理不尽だった。
彼の葬式の帰り、サエは心の中で誓った。
「私は、もう恋愛をしない」
その夜、家に帰ると、机の上にまた白い封筒が置かれていた。
「私を選びなさい。
あなたを、幸せにしてあげる。」
震える手で手紙を握りしめた瞬間、サエは理解してしまった。
ずっとそばにいて、すべてを見ていた存在。
神。
けれど、命を司る神。
――死神。
誰かにどうしても愛されたかった。
たとえその愛が歪んでいても、恐ろしくても。
サエは、静かに決めた。
もう誰も失わなくていい場所へ行こう、と。
死神のいる場所で、一緒に暮らすことを望んだ。
彼女は飛び降りた。
たとえ死神が、私の恋人たちを不幸にしていたとしても。
それでもなお、愛されたかったから。
それでも私は愛されたかった E @tokakuka100
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