天秤にかけたもの(ホラー)

せら

天秤にかけたもの

【天秤にかけたもの】


1人の優秀な研究者がいた。


いや、彼は優秀すぎた。狂うほどに優秀すぎた。



【マッドサイエンティスト】と呼ばれる頃にはあまりに多方面から多大な功績と多大な憎悪を買っていた。


倫理観など彼の才能と研究の前には邪魔なだけだ。




ある者は彼の研究を狂おしいほど必要不可欠と思い、ある者は狂おしいほど排除したがっていた。




ーーーだから、【そう】なるのも時間の問題だっただけで必然だったのだろう。



「クソッ………いい加減脱出口はどこなんだ……!」



家族もろとも、デスゲームじみた脱出ゲームに巻き込まれていた。


【せいぜい貴様の知能をフル活用して脱出してみろ、それを無惨に踏み潰してやる】


という黒幕の激しい憎悪が見えるかのようなギミックばかりだった。


事実、彼の娘も妻ももう死んだ。

いや、殺したと言った方が正しいかもしれない。


研究生活に戻る執念と家族の命を天秤にかけられてもなお、彼が迷うことなど無かった。


それほどまでに狂った優秀な研究者だった。


彼の娘は、右腕と娘の命どちらをとるかの選択を迫られた際死んだ。

彼の妻は、左腕と妻の命どちらをとるかの選択を迫られた際死んだ。


「俺にとって腕は研究に必要不可欠なんだ、家族がどうした。そんなもののために失ってたまるか!!」


そんな彼の執念は素晴らしく、疲弊しながらも、身体中に血が滲みながらも、最後の部屋に辿り着いた。


「ここさえ、ここさえ解ければ脱出できる、研究に戻れる。ふははははは!!ざまあみろ!どこのどいつだかしらんが、こんなもので俺の研究を邪魔しようなど烏滸がましいにも程がある!」


しかし彼の猛進はここまでだった。


その部屋に入った途端入口は塞がれた上に、どうしても鍵を開けるための情報がふたつ足りない。


その部屋に用意されていたのは天秤、計量器、そしてギロチンのみだった。


適切な重さのものを右の皿、左の皿に置けば開くという単純な謎。


だがその謎を解くための情報が足りない。


ーーーそういえば、ここに閉じ込められてすぐに娘と妻がなにか言っていたな。

学校や買物の帰り道に何者かが声をかけてきた、と。


凡人ごときが曖昧な記憶程度で口を出すなと黙らせたが、まさかその話がこの最後の部屋のキー情報だったというのか?


くだらん。凡人の言葉に助けられるつもりは無い。


それよりやはり俺は天才だ。

どの皿にどの重さを載せればいいのかもうわかった。


天秤や鍵の仕組みから逆算すればいい。この程度で俺を閉じ込められると思っていたのか?


しかし重さはわかっても乗せられるものがない。

この部屋にはあまりにも物が無さすぎる。


くそ……娘や妻がいればそいつらの身体を切り刻んででも天秤に乗せたというのに。



フザケルナフザケルナフザケルナ

オレハ コンナトコロデ ウモレテタマルカ

ダッシュツスル ダッシュツスル スルスルスルスルスルスルスルスルスルスル



アハハハハハハハハハ!!!

そうだ、この手があるじゃないか。


こんなやり方を思い付くなんて俺はやはり天才だ!!!!見てろ!必ずここを脱出シテヤル!!



ソ シ テ コ ン ナ メ ニ ア ワ セ タ ヤ ツ ラ ヲ


アハッ、アハハハハハハハハ!!!!!




ーーーー扉が開く。

両の肩から先が無く、血がボタボタたれ流れている男が満面の笑顔で外に出る。


脱出出来たのだ。


彼の顔や両の肩から垂れ流している朱は、夕陽の朱なのか、それとも………。


その後、彼の研究成果を見たものは誰もいなかった。




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天秤にかけたもの(ホラー) せら @thera

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