花の精と樹の精

ごとうもろい

花の精と樹の精

気が付くと私は桜の花の精だった。

「死体を探してきなさい」

母である桜の樹の精が言った。夜、私は母の元を出て公園を歩いた。ベンチの横にネズミの死体を見つけて、持ち帰った。

「もっと大きいものでなくてないけません」

母は言った。次の夜も私は公園を歩き、今度は蛇の死体を見つけた。

「もっと大きいものでなくてないけません」

母は言った。私は次の夜も外に出た。


遊歩道をカメラを持った男が歩いてきた。私はベンチに誘った。

男は写真を勉強する学生だと言った。公園の街灯に静かに桜の花びらが舞うのを、夢見るように眺めていた。私は男の手を取った。男はゆっくりとこちらに視線を向けた。自分が妖しく微笑んでいるのを意識しながら、私は男の耳に息を吹きかけ、そっと唇を重ねた。

その時気づいたのだ。

『死体は探すより、作る方が簡単なのだ』


私は男の首に回した手に力を込めた。男は呻き、私を突き放そうとした。私はさらに力を込めた。

男はやがてぐったりし、動かなくなった。


気が付くと私は桜の樹の精だった。自分の根が先の男を絡めとり、抱きしめているのがわかった。私は男の体を貪り、まどろみながら次の春を待つのだ。

そうしてあたらしい春を迎え、娘であるあたらしい桜の花の精にこう言うのだろう。

「死体を探してきなさい」と。

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