第一章 世界の神話を分類する
神話を研究する学問のひとつに比較神話学がある。世界各地の神話を比較し、共通するパターンや、逆に決定的な違いを見出そうとする学問だ。
2012年、ハーバード大学のE・J・マイケル・ウィッツェルという研究者が、『世界神話の起源』という大著を発表した。この本でウィッツェルは、世界の神話を大きく二つの系統に分類した。
ひとつは「ローラシア型」と呼ばれる。ユーラシア大陸北部、ヨーロッパ、そしてアメリカ大陸に広がる神話群だ。
ローラシア型神話の特徴は、壮大な「ストーリーライン」を持つことにある。世界の創造から始まり、神々の世代交代があり、人類の誕生があり、英雄の冒険があり、そして世界の終末がある。始まりがあれば終わりがある。直線的な時間の中で、宇宙は生まれ、展開し、そして滅びる。
ギリシャ神話、北欧神話、インド神話、中国神話、そしてキリスト教やイスラム教の世界観。これらはすべてローラシア型に分類される。
もうひとつは「ゴンドワナ型」と呼ばれる。オーストラリア、アフリカ、南米、そして東南アジアや太平洋の島々に見られる神話群だ。
ゴンドワナ型神話には、ローラシア型のような直線的なストーリーラインがない。世界は「創造された」というより、「最初からそこにあった」。あるいは、世界は何度も繰り返す円環の中にある。アボリジニの「ドリームタイム」のように、神話的な過去は現在と切り離されておらず、儀式を通じて今もアクセス可能なものとして存在している。
そして重要なことに、ゴンドワナ型神話には終末論がない。世界が最終的に滅びるというビジョンを持たない。
ストーリーを持つローラシア型と
さて、日本神話はどちらに属するのか。
ウィッツェルは日本神話をストーリーを持つローラシア型に分類している。確かに、記紀神話には創世から始まるストーリーラインがある。神々の世代交代もある。天津神から国津神へ、そして人間の天皇へという系譜がある。
しかし、終末論だけがない。
これは奇妙なことだ。ローラシア型神話の「文法」に従えば、始まりがあれば終わりがあるはずなのだ。創造があれば破壊がある。それがローラシア型神話の基本構造だ。
日本神話は、ローラシア型の外見を持ちながら、その核心部分においては、小話の集合体であるゴンドワナ型の特徴を残している。
この「ねじれ」は、何を意味しているのだろうか。
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